第3話 すべて大切なものなのに

 長男アルベルトの清廉潔白さは、フォーゲルヴァイデ家の誇りだ。

 生真面目という言葉をそのまま人間にしたような人柄で、ずるをすることも嘘をつくこともなく卑怯な手を使うこともなく、少々融通が利かないところはあるが、それも含めて彼の美点だと思っている。少なくとも、家族は。

「それが目障りな人もいてもおかしくないわよね……そうよね……」

 衣装部屋でたくさんの衣類を『絶対に着るもの』『できれば残しておきたいもの』『手放すもの』に分別しながら、フィリアは呟いた。

「……そうだけれども!」

 すべて大切なものなのに。


 兄が失脚してしまった。

 取り乱すアルベルトをなんとか落ち着かせ、聞き出した状況は以下の通り。

 アルベルトが所属しているのは、国軍の治安維持部門である。交渉ごとはやや苦手で、また極めて慎重ゆえに瞬発力に欠けるという弱点はありながらも、厳密かつ資料の読み込みが得意で事前準備を苦にしない性格は組織に対する捜査や大きな行事の警備、要人の警護など万全な計画を必要とする業務には向いているらしく、順調に業績を重ね、家柄もあってゆくゆくは長官クラスにおさまるものとみられていた。

 来年に控えた『教団』の大きな行事の警備計画を立てていたときのことである。予算の一部が不自然に特定の商会に流れていることに気づいたアルベルトは、ある公爵がその商会と癒着しているという証拠を掴んでしまった。かねてより違法な商品の取り扱いがあるという噂があったところでもあり、見逃すことなどできない案件であった。

 一家にとっての不幸は、アルベルトには「根回し」や「忖度」の才能が絶望的に欠けていることだった。

 十分な味方を確保しないまま表沙汰にしようとした彼は、己より身分も立場も上の相手に先回りされ逆に讒訴されてしまったのである。

 私さえ健康であったなら、と父は心底悔しそうに漏らした。

 生まれつき病弱で仕事に無理が利かずとも、それで立場を失わない程度には父は世渡りが上手かった。父が介入できていれば、もっといい落とし所があったのかもしれない。

 しかし病身の父に負担を掛けたくなかったアルベルトは家族に相談することなくひとりで抱え込んでしまった。

 そして彼を内心疎んでいた貴族たちが公爵に加担することも防げず、証拠品を持ち出すこともできず、なんとか訴追は免れ家名と形式上の爵位は保たれたものの、先祖代々の屋敷の没収、辺境の地へ行政官としての赴任命令、つまりは事実上の王都追放に至ったのである。

 

 翌日の午後。家族は父の寝室へと集められた。

「父上にご負担をおかけしたくなかったのに、結局こんな事態になってしまい、本当に申し訳ございません」

 青白い顔でそう口にするアルベルトは、事実上の余命宣告を受けた父よりもずっと死に近いようにさえ見える。その震える背を、イデアがいたわるようにさすった。イデアより一回りは体格の良いアルベルトが、今は弟よりも小さく見えた。

 ベッドに入り上体を起こしている父は、首を大儀そうに横に振った。

「謝るな。……期限はいつだ」

「15日後には現地に到着するようにと……」

「フヴェルの地までは、順調に進んで馬車で3、4日ぐらいだったか。家の明け渡しは?」

「私がここを発つときです」

 空気の重さに押し潰されそうだった。ランプの芯が燃えるちりちりという音さえ聞こえるようだった。

「それじゃあお引っ越しの準備を進めなきゃいけないわね」

 母は極力軽い口調で言い、ちらりと父を見た。赴任を命じられたのはアルベルトだけだから残る家族は王都に新しい家を探せば良いが、それでも父の体には負担を強いることになる。

 フィリアにとって、生まれてから16年間ずっと暮らしたこの屋敷だ。一度も離れて暮らしたことのない家族だ。

 なにひとつピンとこない。想像もつかない。状況はおそらく正確に理解できているだろうけれど、それが今我が身に、家族に降りかかっている事態だという実感はまったくなかった。

「私から提案がありますわ」

 全員の視線がイザベルの、やたらと得意げな顔へと集まった。

「昨日のことを受けて、実家に相談させていただきましたの。家族はとても同情して、協力を申し出てくれました」

 その言い方が耳障りに感じられるのは、きっと自分が今かなり追い込まれているからに違いないと、フィリアは自分に言い聞かせた。

「まずフォーゲルヴァイデ家には、新しいお住まいを提供させていただきます。ここよりはかなり小さいですが、『教団』にも近いし、お義父様がお参りに行くのも今より楽になるでしょう」

 一瞬、イデアとマナの表情が歪んだ。やはりイザベルには父の余命の話はしていないのだろうか。

「私は同居してお義父様たちをお支えいたします。勿論生活費もすべて実家が面倒みますのでご安心ください」

 イザベルの実家は大富豪だ。下級貴族ではあるが、現在の当主である彼女の父が商才で名高く、一代でいくつもの老舗の商会を吸収し、巨万の富を築き上げた。『教団』の有数のパトロンとしても知られる。イザベルの弟たちはそれぞれ出世を重ねているが、それは『教団』とのコネクションの強さがあってのことらしい。

「冤罪の件も、弟たちと協力して根回しを進めましょう。旦那様もきっとそう遠くないうちに都にお戻りになれますわ」

 彼女は端から兄に同行する気はないのだ。気持ちは勿論わかりはするが、それにしてもあまりに当然のこととして話していることに、フィリアは苛立ちを覚えた。

「父と母には私とお兄様がついておりますので、義姉上は兄上に同行なさってはいかがですか?」

 舌打ちは堪えた。かつて不意にしてしまったときに、どこでそんな品のない仕草を覚えたのかと母に叱られたからだ。

「夫婦なのですから」

「あら、夫婦だからこそお戻りになったときに備えてお家を守っているべきなのではなくて?」

「兄上は不慣れな土地に行かれるのです。たったひとりでおつらいだろうとは思わないのですか?」

「それならフィリアちゃんが行けばいいじゃない。昨日だって卒業したら兄上の秘書に、なんて健気なことを言ってたでしょ?」

「それは」

 言葉に詰まった。嘘ではない。軽い気持ちでもなかった。ただ、こんな急に、こんな事態を想定していたわけではなくて。

 イザベルが口をにたりと開く。

「実家に協力を仰ぐにも、私がいた方がやりとりが円滑に進むはずよ。それに、旦那様の件の噂はどんどん尾ひれがついて広まっている。私のためだから実家は手を貸してくれるけれど、私のためじゃなかったらどうかしら」

 咄嗟に言い返せなかった。彼女の話に綻びはない。けれど、

「それに私なら、『教団』へ通うのにも、いろいろと便宜を図れますわ」

 ああ、勘違いなどではない。これはむき出しの悪意だ。脅しだ。少なくとも、自分と両親にはそれが向けられている。

「フィリア、私のことはいいんだ。お前もついてくる必要はない」

「でも」

「すべて自分が播いた種だ。……イザベルには、迷惑をかけて申し訳なく思っている。せめて皆には安全で慣れ親しんだ王都で、快適に暮らしてほしい」

「そうだけどっ」

「フィリア」

「…………っ」

 やんわりと、しかし咎めるような響きを含んだ母の声に、フィリアは唇を噛む。

「あなたはまだ子どもなのだから、心配しなくていいのよ。大人のことは大人でどうにかする。だから、フィリアがどうしたいかだけ、考えてほしいの」

「私がどうしたいか……」

「王都に残ってイザベルさんのお世話になってもいいし、アル君についていってもいい。……もし、あなたがそうしたいなら、私たちみんなでフヴェルに行ったっていいのよ」

「え……」

「フィリアは寂しがり屋だからね」

「お母様……でも……」

 アルベルトをちらりと見れば、はっきりと懊悩をその顔に浮かべながら、妹と義母、そして妻の間で視線を彷徨わせていた。

 なにがベストだろう。

 どうすれば、一番家族の役に立てるだろう。

 この状況下で自分がどうしたいかと問われれば、それはこの窮地に於いて、少しでも家族の助けになりたいという答えしかない。

 まず、直接自分にできることを考えれば、ぱっと3つの選択肢が浮かぶ。

 一つ目は、アルベルトと共にフヴェルの地に行き、兄の手伝いをすること。

 二つ目は、王都に残ってイザベルの実家の支援のもと、両親と暮らすこと。

 三つ目は、数多寄せられるも顧みもしなかった見合い話を受けてみること。ただし、これはフォーゲルヴァイデ家の名誉が不当に傷つけられている現状、今更こちらから連絡しても一笑に付される可能性が高いだろう。

 それぞれのメリットであるが、一つ目については、シンプルに長兄をひとりにしないで済む、ということだ。普段であれば頼りになる兄だが、この状況でたったひとりで辺境の地へ往くことが不安でないはずがない。普段から兄の仕事の相談相手になることもあるし、卒業したら兄の補佐をしたい、とはずっと話していたことだった。少しは役に立てるはずだ。

 デメリットは、おそらく現地でまともな教育を受けることは叶わないこと、アルベルトが直接養わなければいけない人数が増えること、そして治安も経済状況も食糧事情も悪い土地で、妹の安全と衣食住を確保するという負担をかけてしまうことだ。

 イザベルの実家の支援を受けることの利点は、生活と安全の保証があることだ。頼めば学業も続けられるかもしれない。

 デメリット、あるいは不安は、アルベルトの目が届かない場所で、特に父が亡くなった後、イザベルが自分たちをどう扱うかが予想できないことだ。彼女が没落しかかっているこの家から急いで逃げ出すようなことをせず、再興に向けて動こうとしているのは、まだフォーゲルヴァイデ伯爵家の嫡男の妻という立場に価値があるからだろう。逆に言えば、その立場以外には愛着はおそらくない。

 三つ目の急いでどこかへ嫁ぐことのメリットは、家族に負担を掛けずに済むことと、上手くいけばイザベルの実家への依存度合いを下げられることであるが、あまりにも打算ずくすぎて流石にどうかと思うし、そんなにうまい話があるとは思えない。

 ここまでは、フィリア自身がどうするかの話。それに加えて、両親がどこで暮らすかの選択権も、どうやら自分にあるらしい。

 父は、この件の責任は自分にあると思っているだろう。アルベルトをひとりにして、また同じ轍を踏もうものならもう助ける術はない。とはいえ、この病身である。世界樹の幹に近く、まだ気候がましな王都ですらこうなのに、果たして辺境で生きていくことができるだろうか。おそらくそれらが理由で、判断できずにいる。

 母は、王都にいようと辺境の地に行こうと、父の余命にそう変わりはない、それなら一緒に、と考えているのではないだろうか。とはいえ移動自体が負担であることは勿論、生まれ育った王都を離れ、辺境の地に行くことへの抵抗はある。さらに、イザベルの申し出を拒否した場合、両家の関係の悪化も懸念される。まだ子どもで、末っ子であるフィリアのわがまま、ということにすれば、角が立ちにくいという肚なのかもしれない。

 さて、両親の意図の予想が正しかったとして、どの選択をするのが正解なのか。それが簡単にわかるなら、そもそも母は判断を娘に委ねない。全員の視線がフィリアに向いている。

 今この場で一番冷静かつ適切な判断を下せるのは末娘だと、家族は判断したのだ。

 その判断は間違っていないとは思う。けれど、重すぎる。

 今まさに子供扱いしたばかりだというのに。

 嫌な汗が背中を伝い、動悸がする。頭が回りきらない。

「勿論今すぐじゃなくていいわ。そうね……あと、2、3日ぐらいで決めてくれれば」

「それは、今すぐって言うのでは……」

 家族全員の人生を背負う決断をするには、時間が足りなすぎる。

「いずれにしろ、僕は父上と母上と一緒に住んで、支えたいと思います。安心して下さい」

 イデアが普段緩みがちな顔を引き締め、それからいつも通りに柔らかく微笑みかけた。固まったフィリアの口元が自然と緩む。次兄は、そういうことができる人だ。

 しかし、次のイザベルの言葉に、イデアの顔から表情が消えた。

「そのことだけれど、イデアくんは、『教団』に入ってもらったらいいんじゃないかと考えておりますの」

 フィリアに向いていた目が、イデアに向けられる。その視線の先で、彼はいっそ間の抜けたような顔をしていた。

「え……」

「父から聞いていますわ。幼い頃からイデアくんには神官の素質があるって、『教団』で話題になっていたと」

「なに、それ」

 絞り出すような声だった。

「お義父様も、お聞きになられたことがありますよね」

「…………ああ」

「父上!? なにそれ、僕それ知りません! ねえ!」

「言わなくていいと思っていたのよ。あなたがもし興味を持ったら、そのときに言おうって」

「母上!」

 困惑した目で両親を交互に見る次兄、その3人の姿を、フィリアは呆然と見つめた。

 『教団』に入る。神官になる。それは、俗世との別れを表す。

 必ずしも今生の別れというわけではない。希望すれば『教団』本部で面会は可能であるし、施設内には神官の親族向けの結婚式や葬儀の設備があり、そこであれば家族の冠婚葬祭に参列することもできる。

 けれど、家族だけで会うことはできない。

 そして、二度と外には出られない。

「何を勝手なことを仰ってるんですか」

 声が震えた。

「人の家族を、人生を、なんだと思ってるのですか」

「あら、私は家族ではないと?」

「そうは言っていません!」

「家族に人生の方向を決められてしまったというのなら私も同じよ。家族だと思っていなければ、とうに実家に帰っているわ」

「でも!」

「フィリア、落ち着きなさい」

「お父様!」

 父のかすれてかすかな、しかし威厳のある声に、フィリアは振り向いて、そして、動けなくなった。

「……良い話かも知れない」

「え……」

「実のところ、以前からイデアの婿入り先をずっと探していたのだが、今の状況でイデアを大事にしてくれて、穏やかに暮らせるような家がすぐに見つかるとは思えん」

 その言葉に、母が目を伏せる。

「それならば、ずっとお前の素質を評価してくれている『教団』に入る方が、幸せに生きられるかもしれない」

「父上、なんでそんなことを仰るんですか、確かに僕はこの家の跡継ぎではないですけど、兄上がお戻りになるまで皆のために」

「イデア、本当に済まない。すべて私のせいだ。私が間抜けだったせいで、選ばせてやれなくなって」

「違う、そうじゃなくて」

 地に着きそうな程頭を下げるアルベルトの前でイデアは手をばたばたと振り、やがてゆっくりと動きを止めた。

「……僕が、穏やかに暮らせる家への婿入りか、神官になるか、どっちかの将来しか、考えていなかったのはどうして?」

 イデアの顔から表情が抜け落ちていく。

 父と母、兄が顔を見合わせる。その意味がわかってしまって、フィリアは思わず顔を伏せた。

 薄々、イデア本人もわかっているはずだ。

 たとえば、イデアが卒業した学園は、名門貴族の子弟に最低限の教養と最高級のマナー、処世術を教え、社交界で恙なく過ごしていくすべを身につけさせるところだった。

 一方アルベルトが卒業し、現在フィリアが在籍しているのは、性別や身分に関係なく高い学力が求められ、卒業生の多くが政治や経済の第一線、あるいは学者といった進路を歩む学園だ。

「お前が、誰の庇護もなく、自分の力だけで厳しい社会を生き抜くのは、難しいからだ」

 父の声は震えていた。

 目を見開き、何かを言いかけるように口を開いて、しかし何も言葉を発することはないまま、イデアは唇をぎゅっと噛みしめた。 

 イデアより優しい人間を、見ているだけで人を幸せにする力のある人を、フィリアは知らない。家族も使用人達も皆口を揃える。誰もがイデアを心から愛している。多分、イザベル以外は。

 けれど、誰もイデアに期待していなかった。フィリアのような利発さもなく、アルベルトほどの力押しも利かず、さほど体力もなく運動も不得手、数字も苦手な彼が、社会に活躍の場を見出すことはできないと思っていた。

 そんなことはない、とフィリアはずっと思っている。イデアには、他の人にはない、特別なものが絶対にある。近くにいるだけでどこか心に温かいものが灯る、世界が少しだけ明るく見える、ずっと見ていたいと思わせる、そんな人を、フィリアはイデアしか知らない。ただ、その素質を社会のどこで活かせるのかと言われてしまえば、絶対にある気がしてならないのに、なぜか思いつくことができない。

 あるいは、イザベルが言い出す前から、他の大人達の頭にもこの選択肢は存在したのかもしれない。そういえば幼い頃も今も、『教団』に行くときに父が供としたのは、いつもイデアだった。今思うと、幼い頃に才能を見出されたことから、進路のひとつとしておくために繋がりを保とうとしていたのかもしれない。

 合理的ではある。彼のためにも、そのほうがいいのかもしれない。だけど、

「本当に、お兄様のためにと思っているんですか?」

「どういうことかしら」

「そうであるなら、……もしお兄様が納得するなら、私も受け入れます。ですが」

 言わずにいられなかった。長兄ほどではないにしろ、自分も結局自分を曲げることができないのだ。ただ、多少は後先の計算が働くというだけで。

「……邪魔なお兄様を、体よく追い出そうとしているのではないのですか?」

 イデアの顔がこちらを見て絶望に歪んでいた。違う、そうじゃない、役立たずだからではない。

「お兄様がいなくなれば、もし兄上の身になにかが起きたとしても、フォーゲルヴァイデ家の家名は義姉上のものになりますから」

「フィリア!」

 イザベルが憐れむように口元を歪めて薄笑いしたのが見えた。

 頬が痛かった。

 母に手を上げられたのは初めてだけれど、ショックはなかった。それだけのことを自分は口にしている。

 父の命を繋いでいるのは、イザベルのコネクションなのだから。

 だが、これを言ってしまったところで、イザベルが気を悪くすることはあれ、完全に家族が見放されることはないという計算はあった。自分が嫌われるだけなら構わない。むしろここで自分が叱られておけば、今後彼女の攻撃性が家族に向くことは避けられるかもしれない。

「なんてことを言うの!」

 だから、敢えて不服そうな顔をして、母を睨んで、部屋を飛び出して自室へ駆け戻った。

 廊下で控えていたエムに、今後の会話をすべて聞いておくことと、イザベルが席を外したタイミングで呼びにくるように言いつけて。

 

 両親の寝室に戻るとイデアの姿はなく、両親と兄が重たい空気の中、フィリアが来るのを待っていた。

「お兄様は?」

「どうするかひとりで考えたいって、部屋に戻っている」

「……義姉上は」

「新しい屋敷の下見に行くからと出かけていったよ」

「そうですか」

 ほっと息を吐いた。予想通りではあるしエムから聞いて知ってはいたが、彼女を決定的に怒らせてはいない。

「……フィリア、さきほどの振る舞い、どこまでが本心でどこからがあなたの策だったの?」

「何を仰っているのですお母様? 私はフォーゲルヴァイデ伯爵家の娘、いつだって本当のことしか申し上げておりませんわ」

「私も、お前ぐらい賢ければこんなことには……」

「こればかりは向き不向きです。兄上は愚かなどではありません。悪いのは兄上を陥れた公爵様と、それに加担した者どもです」

 項垂れてしまったアルベルトを宥めつつ、フィリアは両親を見つめた。

「……それで、私がお父様とお母様がどうするのかを決める、というのは決定事項なのですか?」

「ああ」

「お兄様のことについては?」

「…………」

「お兄様が足手まといだとお考えなのですか?」

「こんなことにさえならなければ、守ってやれるはずだったんだ……」

「答えになっておりません……っ」

 唇を噛んだ。

「ごめんなさいね、フィリア。本当にごめんなさい」

「すべて私のせいだ、本当に申し訳ない、すまない、フィリア……」

 謝らないでください、とは言えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

芸能という概念が存在しない異世界に転生したのでお兄様をアイドルにして町おこしします 水野夏月 @mizuno_natsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ