夜に広がる青い空―夢の岸辺で、君を選ぶ 外伝―

三木さくら

エピローグ

 空が、青い。


 どさり、と地面にあおむけに倒れた俺は、目の前に広がる空を見てそう思った。


 だが。

 

 夜なのに、青いわけがない。


 自嘲気味にフッ、と息を吐いたら、何かが突き上げてくる感覚に襲われ、たまらずがほっ、と吐き出した。途端に口の中に血の味が広がる。


 口の端に血が垂れる感覚がして、それをぬぐいたい、と思ったが、もはや腕を動かす力はもうどこにも残っていなかった。


 瑞穂姫。ちゃんと武藤の領地には入れただろうか。

 最近鍛えてはいなかったし、子供という足手まといがいることが不安だが、あれだけ武芸ができる人だ。問題ないだろう。


 こんな末路をたどるなら、俺はあのとき、瑞穂姫にもっと真剣に逃亡を提案すべきだったのだろうか。


 思わず弱気なことを思い、だがそれは即座に否定した。


 この戦乱の世の中だ。

 どこに嫁いでいても、このような末路をたどるかどうかは、運だ。

 嫁ぎ先が滅ぼされ、落城することは運が悪い。


 だが、早々に妻子を実家に逃す決断をする領主に嫁げたことは、瑞穂姫の幸運だ。


 そう、俺のあるじは絶対に運がいい。


 だから、無事に武藤の領地に入って、また幸せな人生を歩み始めるのだ。わが主はそういう人なのだ。


 気持ちよい青空の下、「わたしはわたしの意志で、嫁ぐのです。決して、姉上の身代わりではありません」そう晴れやかに笑った瑞穂姫は、いつまでも幸せに生きていくのだ。こんな夜の空の下で終わってはいけない。


 誰が何と言おうと、この空は抜けるような高く澄んだ青い空なのだ。

 

 瑞穂姫。


 元気で。



――空をつかもうとするように、忍びの右手が少し上がり、やがて、ぱたり、と地面におちた。


 その後、その腕が動くことはなかった。

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