隣で煙草に火をつけた父を見つめた五秒のこと

隣の指先で爆ぜた小さな火が、午後の光を吸い込んだ紫煙となって立ち昇る。


パラソルの影が、屋上の床に濃い領土を広げた。その縁を風がなでていく。

父はただ、肺を満たして溢れる白く頼りない煙を、何事かを傍観するかのような静かな眼差しで追い続けている。その横顔にある、私には一生到達し得ない感情の輪郭。


密やかな植物が芽吹くように、濃密でひどく透明な沈黙に満たされていた。


その透明を汚すように、私も火を爆ぜさせる。

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