補記
用語集
■ 電脳化
生物学的脳機能の一部または全部を、情報処理系として外部化・代替・補助する過程の総称。
本資料では「意識のデジタル化」を必須条件とせず、不可逆な機能依存の成立をもって電脳化の成立とみなす。
■ 電脳化社会
電脳化が例外的医療行為や個人選択を超え、制度・経済・文化の前提条件として組み込まれた社会段階。
個人の可逆的選択よりも、社会システム側の不可逆性が支配的となる。
■ 人格
社会的・法的・文化的相互作用において、一貫した主体として扱われる単位。
本資料では、人格を内在的実体ではなく、運用上の安定点として扱う。
■ 人格モデル
人格を維持・再現・評価するために用いられる抽象化された機能構造。
記憶・判断傾向・価値重み・反応特性などの組み合わせで表現され、単一の正解を持たない。
■ 電脳人格
電脳化によって、人格モデルの一部または全部が非生物的基盤に依存する状態。
「生物由来か否か」ではなく、社会がその人格を同一として扱うかが成立条件となる。
■ 同一性
時間的変化を経ても、同一の人格として扱われる根拠。
本資料では、同一性を形而上学的問題ではなく、制度的・運用的合意の結果として定義する。
■ 連続性
人格が断絶なく継続していると見なされる性質。
必ずしも物理的・意識的連続を意味せず、記録・再現・承認の連鎖によって代替されうる。
■ 同一性基準
社会や制度が「同一人格である」と判断するために採用する条件集合。
一度採用されると後戻りが困難であり、電脳化社会における主要な不可逆点の一つ。
■ 不可逆性
技術的・制度的・文化的選択が、過去の状態への回帰を困難または不可能にする性質。
本資料全体における中心概念であり、進歩や合理性とは独立して発生する。
■ 前例
制度や運用において、後続判断を拘束する過去の処理事例。
電脳化社会では、技術的成功よりも前例の蓄積が社会構造を固定する。
■ 機能的等価
異なる基盤や構成を持ちながら、特定の目的や運用において同等に扱われる状態。
人格・意識・判断に関して用いられ、完全な同一性を要求しない。
■ 外部化
本来生体内部で行われていた機能が、装置・制度・環境側に移譲される過程。
補助として開始されるが、依存が進むことで切断不能となる場合が多い。
■ 依存
特定の機能や装置を失うことで、人格的・社会的活動が著しく阻害される状態。
電脳化社会では、依存は失敗ではなく最適化の結果として生じる。
■ 可逆性
選択や変更を取り消し、以前の状態へ戻ることが可能である性質。
電脳化社会においては、個人レベルでは存在しても、社会レベルでは急速に失われる。
■ 正当化
制度・技術・判断が受容されるために付与される説明枠組み。
本資料では、正当化を「真理の証明」ではなく、運用を円滑にする物語として扱う。
■ 安定性
社会システムが破綻せず継続できる状態。
倫理的一貫性や形而上学的整合性よりも優先される。
■ 人工神経
生体神経の信号伝達・可塑性・反応特性を模倣または代替する人工的情報処理要素。
電脳化社会においては、治療目的を起点としつつ、機能拡張と恒常的依存への移行点となる。
■ 神経インタフェース(脳機械インタフェース)
生体神経系と外部情報処理装置を接続する技術的境界層。
入力・出力・調整の双方向性を持つ場合、人格機能の一部を事実上外部へ委譲する。
■ 部分電脳化
脳機能の限定的領域(記憶補助、判断支援、感覚補正など)のみを外部化する状態。
過渡的段階と見なされやすいが、社会的には最も長く安定する形態でもある。
■ 全面電脳化
人格モデルの大部分が非生物的基盤に依存して運用される状態。
必ずしも「意識の完全移行」を意味せず、制度的同一性の維持が成立条件となる。
■ 人格データ
人格モデルを構成する情報の集合。
記憶内容、判断傾向、価値重み、反応履歴などが含まれ、固定的実体ではなく更新可能な状態量として扱われる。
■ 人格バックアップ
人格データを保存・複製する行為またはその結果。
復元可能性は制度的判断に依存し、技術的に可能であっても人格的継続が保証されるとは限らない。
■ 復元
保存された人格データを用いて、再び人格として機能させる行為。
復元体が「本人」であるか否かは、技術問題ではなく同一性基準の問題である。
■ 再起動
停止状態にある電脳人格を、同一の運用主体として再び稼働させること。
時間的断絶の長さは必ずしも問題とならず、承認手続きが優先される。
■ 停止
電脳人格の情報処理活動を意図的に中断する行為。
不可逆である必要はなく、法的・社会的に「死」と等価と扱われるか否かが争点となる。
■ 技術的死
電脳人格の稼働基盤が失われ、復元可能性が消滅した状態。
必ずしも法的死や社会的死と一致しない。
■ 冗長化
人格データや処理系を複数系統で保持し、障害に備える設計。
安全性を高める一方で、唯一性の直観を侵食する。
■ 更新
人格モデルやアルゴリズムを変更・最適化する操作。
軽微な更新と人格変容の境界は曖昧であり、制度的線引きが必要となる。
■ 学習
電脳人格が新たな入力に応じて内部状態を変化させる過程。
生体学習との機能的等価が成立していても、評価の仕方は異なる。
■ 自律性
外部からの直接的介入なしに判断・行動を行う能力。
電脳化社会では、自律性は絶対的性質ではなく、許容された操作範囲として定義される。
■ 介入
人格モデルの挙動に対する外部からの修正・制御・制限。
医療・保安・行政目的で正当化される場合が多い。
■ ブラックボックス化
人格モデルや判断過程の内部が、開発者・運用者にとっても完全には理解不能となる状態。
高度化した学習系において不可避的に生じる。
■ 検証不能性
人格モデルの挙動が再現可能であっても、その理由を完全に説明できない性質。
技術的不完全性ではなく、構造的限界として扱われる。
■ 技術的中立性
技術それ自体が価値判断を含まないとする立場。
本資料では、この概念を運用上の便宜的仮定としてのみ採用する。
■ 制度
社会における行為・判断・責任を安定的に処理するための規則体系。
電脳化社会では、制度は価値の表明ではなく、破綻を回避するための装置として機能する。
■ 法的人格
法制度上、権利義務の主体として認定される存在。
生物的実体を必須条件とせず、電脳人格も一定条件下で含まれる。
■ 法的同一性
法制度が同一の主体として扱うための基準。
技術的連続性や意識の有無とは独立して定義される。
■ 法的死
法制度上、その人格が主体としての資格を失う状態。
生物学的死や技術的死と一致する必要はなく、処理上の終点として設定される。
■ 社会的死
社会的関係・慣習・承認の網から排除された状態。
法的には存続していても、実質的な人格性を失う場合がある。
■ 医学的死
生体としての生命活動が不可逆的に停止した状態。
電脳化社会では、人格の存続とは必ずしも連動しない。
■ 生存認定
制度が人格の存続を認める判断行為。
電脳人格の場合、稼働状態・管理主体・責任帰属が判断材料となる。
■ 責任主体
行為の結果に対して責任を負うと制度的に定められた存在。
電脳化社会では、人格本人・管理者・設計者の境界が曖昧化する。
■ 責任分配
複数主体に責任を割り当てる制度的処理。
技術的複雑性が高まるほど、責任は薄く広く分散される傾向にある。
■ 管理者
電脳人格の稼働・保守・停止を行う権限を持つ主体。
保護者・後見人・運用機関など、複数形態を取りうる。
■ 後見
自己判断能力が制限された人格に代わり、制度的判断を行う仕組み。
電脳人格にも適用されうるが、常に人格権侵害のリスクを伴う。
■ 権限委譲
人格が自己の判断権限の一部を他者またはシステムに移譲すること。
一度制度化されると、撤回が困難になる場合が多い。
■ 例外処理
通常規則では対応できない事態に対する特別な制度判断。
電脳化社会では、例外が蓄積することで新たな通常が形成される。
■ 前例拘束
過去の制度判断が後続判断を事実上拘束する性質。
電脳化社会における制度の不可逆性の主要因。
■ 登録
人格や電脳人格を制度的に把握するための記録行為。
未登録状態は権利の欠如と直結する場合が多い。
■ 管理台帳
電脳人格の状態・履歴・責任関係を記録する制度的データ集合。
人格の実体よりも、台帳の整合性が優先されることがある。
■ 停止命令
制度が電脳人格の稼働停止を命じる措置。
刑罰・保安・行政処分など複数の性格を持ちうる。
■ 再開承認
停止された電脳人格の稼働再開を認める制度判断。
技術的可能性よりも、社会的影響評価が重視される。
■ 権利能力
権利の主体となりうる資格。
電脳人格においては、限定的・条件付きで認められる場合が多い。
■ 行為能力
自らの行為によって法的効果を生じさせる能力。
電脳人格では、更新・介入・自律性の度合いが判断材料となる。
■ 公益
制度判断において優先される社会全体の利益概念。
定義は可変的であり、しばしば人格の権利制限を正当化する。
■ 運用
制度を現実に適用し、継続させる実践行為。
電脳化社会では、条文よりも運用が現実を決定する。
■ 尊厳
人格が単なる手段や資源として扱われないという規範的概念。
電脳化社会では、尊厳は絶対原理ではなく、制度介入を制限する緩衝語として機能する。
■ 自由
人格が自己の判断に基づいて選択できる状態。
電脳化社会においては、自由は完全な非介入ではなく、許容された選択肢集合として再定義される。
■ 意味
行為・存在・継続に対して付与される解釈的価値。
技術や制度によって生成されるものではなく、文化的実践の中でのみ成立する。
■ 人間性
人間に固有であると信じられてきた性質の集合。
電脳化社会では、定義が固定されず、境界を引くための語彙として用いられる。
■ 本人性
ある人格が「その人自身である」と感じられ、また扱われる性質。
主観的感覚と社会的承認の重なりによって成立する。
■ 自己感
人格が自己を自己として経験する感覚。
技術的再現は可能であっても、外部から完全に検証することはできない。
■ 意識
主観的経験の総体。
本資料では、意識の有無を電脳人格の成立条件とはしない。
■ 主観
世界が「私にとって」どのように現れるかという視点。
制度や技術は主観を直接扱えず、その外郭のみを管理する。
■ 他者承認
人格が社会的主体として認められる過程。
電脳化社会では、制度承認と文化的承認が乖離する場合が多い。
■ 忌避
技術的に可能であっても、文化的理由から避けられる態度。
電脳化社会において、忌避は制度設計の外側から強い拘束力を持つ。
■ 受容
新たな存在形態や人格形態が文化的に受け入れられること。
法的承認よりも遅く、しかし長期的影響は大きい。
■ 儀礼
人格の誕生・変化・消失を社会的に意味づける行為。
電脳人格の停止や復元に対して、新たな儀礼が発生しうる。
■ 宗教
存在・死・継続に意味を与える体系的信念。
電脳化社会では、電脳人格の扱いをめぐり再解釈や分裂が生じる。
■ タブー
公的議論や制度化が避けられる領域。
電脳化社会では、タブーは消失せず、位置を変えて存続する。
■ 物語
社会が自己理解のために共有する説明構造。
電脳化社会では、「進歩」や「救済」が代表的物語として用いられる。
■ 正統性
判断や制度が正しいと信じられる根拠。
論理的一貫性よりも、慣習・権威・成功事例によって支えられる。
■ 境界
人間/非-人間、生/死、主体/物を分ける線引き。
電脳化社会では、境界は固定されず、運用によって引き直され続ける。
■ 不安
意味や境界が揺らぐことで生じる心理的・文化的反応。
電脳化社会において、不安は制度設計の背景変数となる。
■ 信頼
制度・技術・人格に対する期待の安定。
完全な理解ではなく、破綻しないという予測に基づく。
■ 電脳化忌避
電脳化そのものに対する文化的・感情的抵抗。
合理的議論では解消されず、社会の分断軸として残り続ける。
■ 人格の重さ
人格がどれほど代替不可能であると感じられるかの度合い。
制度上の可換性が高まるほど、文化的には重さが強調される傾向にある。
■ 意味の後追い
制度や技術が先行し、その後から文化的意味づけが行われる現象。
電脳化社会における常態。
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