第6話 黄金の居候とパジャマの洗礼

 第四話で「星」になり、第五話で「管理台帳」に書き込まれたアルマ・フォン・ゴルテナの居候生活は、最悪な形で幕を開けた。

 場所は、ライラ城の「黄金の成金リンク(旧・中庭)」。朝日を反射してまぶしく輝くその庭で、アルマは膝をつき、絶望に打ちひしがれていた。

「……ありえん。われは、帝国最強の黄金騎士団団長なのだぞ……。なぜ、このような屈辱的な布をまとっているのだ……!」

 アルマが纏っているのは、ライラが提供した**「ウサギ耳付き・もこもこパジャマ」**だった。

「アルマ、諦めなさいよ。オトモの『おもてなし』から逃げられた奴はいないんだから」

 ライラはサングラスをかけ、眩しすぎる庭でココアをすすっている。その横で、オトモはシュッシュッと軽快な音を立てて、アルマの脱ぎ捨てた黄金鎧の残骸を磨いていた。

「団長殿、いえアルマ様。そのパジャマは『精神の鎧』です。騎士道という名の肩コリから解放されるには、そのもこもこした感触に魂を委ねるのが一番ですよ」

「断る! 我は、我は断じて……っ、ひゃあああん!?」

 オトモの指先が、パジャマの上からアルマの首筋の秘孔を的確に突いた。

 瞬間、パジャマの極上の肌触りが、オトモの魔導マッサージと共鳴してアルマの脳髄を直撃する。

「あ、あああ……! 脳が、脳が綿あめのようにとろけていく……! 帝国への忠誠心が、パステルカラーに塗り替えられてぇぇ……!」

「アルマ! シャキっとしなさいよ! 誇りはどこへ行ったのよ!」

 ライラの叫びも虚しく、アルマは「……もう、我……いや、私、一生これでいい……」と、黄金のリンクの上に大の字で転がった。だが、その瞳にはふと、深い陰りが差す。


「……ふっ、ふふ。笑うがいい、オトモ。帝国に戻っても、私を待つのは廃棄処分のみだ。女帝陛下は、完璧でないものを許さない。鎧を脱がされた私は、陛下にとって『割れた花瓶』も同然なのだから……」

 その時、オトモがそっと、彼女の鼻先に温かいココアを差し出した。

「アルマ様。我がライラは、割れた花瓶も『おもむきがある』と笑って愛でるような、お節介な方ですよ。現に、あちらを」

 オトモが指差す先では、ライラが爆発で穴の開いた屋根を、不器用な手つきで直そうと格闘していた。

「あいつ……また失敗してるじゃないか」

「ええ。ですから、城のメンテナンスを手伝ってくださる有能な居候を、当家では急募しているのです。給与はパジャマの現物支給と、私が至高のおもてなしを約束します。……いかがですか?」

 アルマは、パジャマの袖で目元を拭った。帝国の冷酷な規律よりも、この温かい「もこもこ」の方が、今の自分には相応しい。

「………………よかろう。騎士道とは、受けた恩に報いること。私は、この城の屋根が直るまで、ここに留まってやる。勘違いするな、これは騎士としての『信義』だ!」

 アルマが力強く宣言したその時。空気が一変する重厚な音が響いた。

 城の門前に、巨大な「黄金のコンテナ」が届けられたのだ。差出人は女帝ゴルテナ・ド・バブル。中には、アルマが失った黄金鎧の予備と、団員だったもの《オートマタ》たちの無惨な残骸がぎっしりと詰まっていた。

「……! 私の、部下たちか!? 陛下、彼らまでガラクタとして私へ押し付けるというのか……!」

 アルマが震える手で、首の落ちたオートマタの残骸を抱きしめる。彼らは言葉を持たぬ機械だが、アルマにとっては苦楽を共にした戦友だった。

「ひどい……。ガラクタみたいに、こんな……」

 ライラが絶句する中、オトモが静かに一歩前に出た。

「アルマ様。騎士が部下を見捨てぬというのなら、執事もまた『主の大切なもの』を見捨てはしません。……まとめて『お洗濯』してしまいましょう」

 オトモは、黄金鎧の残骸と、ライラの洗濯物、そして部下オートマタの残骸を一纏めにし、地下の「超多機能・魔導ドラム式洗濯機」へ投入した。

「待ちなさい、オトモ! 鎧だけじゃなく部下オートマタまで洗濯機に入れる奴があるかぁぁぁ!!」

 ライラの制止も間に合わず、地下からは凄まじい破壊音が響き渡った。


 その夜。

 城のバルコニーでは、アルマが月光を浴びながら、オトモに手渡された**「黄金の燭台ランタン」を高く掲げていた。

 そして彼女の足元には、洗濯機での「精錬」を経て、手のひらサイズの愛らしい姿へと再構築された「七体の小型機巧兵」**たちが整列していた。

「……不思議なものだ。あんなに重い鎧と、強力な部下を率いていた時よりも、今、この灯火を掲げ、小さな彼らとここにいる時の方が、己の誓いが重く感じられる」

 カタカタと、小さな黄金の部下たちがランタンを囲んで踊る。かつての戦闘兵器の面影はなく、今は主の足元を照らす「光の従者」へと生まれ変わっていた。そこへ、ライラが古い真紅のマントを抱えて現れた。

「アルマ。……あんたがその、部下たちと一緒にうちを主にするって言うなら、これ……貸してあげる。うちの家に代々伝わる、騎士のマントよ」

 ライラは背伸びをして、アルマのパジャマの肩にそれを結びつけた。

「……似合うじゃない。ウサギ耳のパジャマに、王国のマント。世界で一番へんてこな騎士団の誕生ね」

「ふっ……。ああ、悪くない。黄金の輝きよりも、この赤の方が、今の私の心にはしっくりくる」

 アルマはマントの感触を確かめ、ライラの小さな手をそっと握った。

「ライラよ。私は誓おう。この光が消えぬ限り、私はお前の歩む道を照らし、この部下たちと共に、その身を賭してお前を守り抜くと」

 遠くでその様子を眺めていたオトモが、満足げに頷く。

「素晴らしい騎士道精神です。……ではアルマ様、そして騎士団の皆様。明日の戦いに備え、今夜は全員纏めて私の特製オイルマッサージで、泥のように眠っていただきましょうか」

「……ああ。オトモよ、我ら騎士団、貴殿の『洗礼』……謹んで受けよう」

 静かな夜空の下、新しい主従の絆が、小さな黄金の鼓動と共に深く結ばれた。

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『おもてなしが過ぎる! 〜電撃王女と、敵をダメにする史上最強の従者〜』 家守 慈絵美 @ysasdf890

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