取捨不選択

@Nowa1839

第1話 『もう少し』

「よくやったな。また、大型案件を受注できて、大したもんだ」


男25歳は、数カ月間かけて進めていた大型商談を、ようやく受注にまで漕ぎ着けた。


「いえいえ、とんでもないです。課長の指導あってのものですよ」

「何いってんだ、お前の頑張りのおかげだよ。どうだ、今日一杯?」


一瞬迷うが、デスクのモニターを一瞥し、答える。


「お言葉は嬉しいのですが、まだ本日は仕事が残っておりますので、」

「そうか。あんまり頑張りすぎるなよ」

「ありがとうございます。」


課長は少し残念そうにしながらも、彼を気遣う様子を見せ、彼も半分申し訳ない気持であるとともに、ほっとした気持ちになっていた。

彼が、上司を嫌っているわけではない。ただ気分ではなかったから。


親会社から子会社へ新卒入社早々に3年間の期限付きの出向の内示を受ける。

現場を学ぶという目的のもとであったが、親会社から子会社への出向なだけあり、ハレーションが多少たりとあった。そんな中でも着実に成果を上げる彼に対し、周りの評価は徐々にではあったが上向いていった。そして、3年目の今はいくつかの大型商談を成立させるなど、着実に成果を上げていた。

仕事は順風満帆であったが、彼の心の臓は、満たされることが無かった。仕事の成果に物足りなさを感じているわけではない。

ただ、


スマホのロック画面が点滅する。

『今日も遅くなりそう?』


5年続いている恋人からのメッセージだった。

浩一は、一瞬戸惑うがいつもの文面を打つ。


『ごめん、もう少しだけ。』

『わかった!無理しないでね♪』


”もう少し”が、どれくらい続いているのか、彼自身分からなかった。

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2026年1月26日 00:00
2026年2月9日 00:00

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