第2話 「単騎攻略でもめげない」

「ハァッ__ハァッ____」


 息を切らせながら顔を上げると、眼前には大きな洞窟の真っ暗な入り口がそびえ立つ。

 呼吸を整え、グッとこぶしを握り固めるとミルシュは中へと一歩踏み出す。


 いつも探索している国最大のダンジョンであり、仲間たちと幾度も攻略にあたっていた。


 しばらく歩くと、岩壁の通路から途端に開けた場所に出る。そこは入り口の不気味で物々しいたたずまいとは反対に、活気に満ちていた。


 この階層は正確にはまだダンジョン内部ではない。

 もう少し奥に進むとダンジョンの入り口となる階段があり、広大な地下迷宮型のダンジョンへと続いているのだ。


 ここを拠点とし、すぐ潜れるようにしたいのだろう。

 日夜、たくさんの人がいて情報交換も盛んに行われている。端的にいえばこの広場はダンジョンにのぞむ冒険者たちのたまり場になっていた。


 周りの人間に目もくれず、ミルシュはまっすぐに入り口の階段へと向かう。


「なんだぁ?お嬢ちゃん一人で潜るつもりかぁ~?」


「魔法使い?ウへへ…危ないねェ。こんな小さい子がなにしてんのかな~~?」


 階段の直前というところで人相の悪い男二人組が立ち塞がった。


「……。」


 ミルシュはぼんやりとした眼差しで階段だけを見据える。男達の言葉はあまり耳に入っていない、先へと進むことで頭がいっぱいだ。


「通さねぇよぉ?!この先は子供の遊び場じゃねぇーの!」


「遊ぶならオニイサン達と向こうで別の遊びをさぁ……って、あぁ!」


 小さな体を活かして二人組の間をつるりと抜けると、ミルシュはその勢いのまま階段下へ走り去った。


「あーらら……。」


「忠告したのに~~。」


 後ろから聞こえる声は彼女には届かなかった。







【迷宮、地下1階。】


 まだまだ魔力の薄いこの層は、魔物もそこまで強くない。比較的大人しい魔物が多く、積極的に人間を襲うのは一部の種類だ。

 とはいえ、独りで行動していることもあってか、魔物はミルシュを狙い次々と飛び出してくる。


 一体一体は大した強さでなくとも、数が多い。


 ミルシュは小さな杖でひゅうっと前方に弧を描く。すると、強力な吹雪が魔物どもをぎ払った。


「ごめんね!先に行きたいの!」


 その後も道をはばむ魔物を反射的に魔法で払いのけ、下へ下へと階層を降りていく。


(なんでこんな、勢いで進んでるんだっけ)


(そうだ!強い魔物を倒して、わたしの魔法もこの先通用するってわかってもらいたいんだ!)


 少しだけ冷静になる。酒場から無我夢中でここまできたが、この行為が何になるのかという考えが頭をよぎる。


(……属性の数がひとつでも役に立ってたはずなのに)


 __ほんとうに?多少魔物が倒せたって、みんななにか不満だったんじゃないの。だからやめさせられたんじゃないの。

 嫌な声がミルシュの内側から湧き上がる。再び思考がまとまらなくなっていった。


 おのれの後ろ向きな声をかき消すために、余計に走った。


 あっという間に中階層に差し掛かる。ここまでくると魔物はかなり強くなり、凶暴な種が増える。

 単騎で潜る冒険者はまずいない。


 そんな格好の餌食であるミルシュを、狼のような魔物が群れをなして取り囲む。


(氷雪魔法だけでも充分戦えるもん……!)


 うなり声をあげた最初の一匹を合図に、次々と飛びかかった。


 だが、次の瞬間には狼たちは氷のつぶてと共に、彼方へと吹っ飛ばされた。

 ミルシュを中心として、きらきらとした氷の粒子が舞う。


 一歩引いた位置で、狩りの様子をうかがっていた群れのボスであろう狼は、手下があっけなくやられたのを見ると自らも食って掛かった。


「……わたしだって!わたしだって!」


 わたしの魔法だってこんなにできるんだから―――!!


 昂ぶった感情と同時に放たれた氷の魔法は、ひと際大きな狼の魔物を串刺しにした。


「はぁっ……はぁっ…」


(……やめよう)


 こんなことしたって無意味なのだ。みんなにとっては実際に魔法が有用なのか、強力であるかではなくて属性がひとつしかないことが問題なのだから。


「もう、やめて……帰らなきゃ……。」


 居場所はもうないのに、どこに帰るというのか。


 そんなことを考えながらミルシュはフラフラと来た道を辿る。

 魔力消費と精神的なショックによる疲労で思わず壁にもたれ掛かってしまった。


 肩が触れた途端、石造りの壁に魔力を帯びた光が線を描く。


「きゃっ」


 線状の光は数秒もしないうちに魔法陣を形成し、驚きでのけぞったミルシュの肉体は、次の瞬間にはその場から消失していた。







「うぅ……えっ……ここは?!」


 眩しさを感じて一瞬、まぶたを開ければ先ほどまでとは全く異なる景色が目に飛び込んできた。

 今までいた階層より暗い。青白く発光する鉱石だけが辺りを薄ぼんやりと照らしている。

 だだっ広い空間が続いており、大きな神殿のようにも見えた。


 静かで、冷たい空気が浸透している。


「……転移の罠だ。」


 一瞬で全く違う場所への移動といえばそれしか考えられない。あの魔法陣だろう。

 ミルシュは状況を整理する。


「空間に漂う魔力が濃い……。深い階層に飛ばされちゃったのかも。」


 普段は迂闊うかつに壁を触ったりしない。様々な罠がどこに仕掛けられているのか、見ただけで判別するのは難しいからだ。

 だからこそ、探知の魔法も怠れない。


(わたしのばか…何やってるんだろう。……でも転移の罠がさっきの場所にあるなんて聞いたことないのに。)


 転移直前の階層は、今まで多数の冒険者が探索している。

 そういった場所にある罠はすでに解除されていることも多い。解除されていないとしても、どこに罠があるのか情報がギルドで共有される。


 転移は危険性が高く、それなりに大がかりな魔法罠であるため、なおさらだ。


「と言ってもこの迷宮、解除した罠が復活することもあるらしいし。……あぁもう、こんなところに一人で飛ばされるなんて……」


 ……少しだけ嘆いてから、ミルシュは目をつむった。


「…………。」


 そしてゆっくりと開くと、心が真っ直ぐに定まるのを感じた。


「ううん。」


「がんばって戻らなきゃ。」


 そして転移の罠があることをギルドに報告しなければいけない、と。


(せめて……せめて、わたしにできることをしなきゃ)


(だってヴァレクたちが危険な目に遭う可能性をひとつでもなくさないと。)


 そう決心すると、ミルシュは身を潜めながら上の階層への通路を探すことにした。


「うぅ~ちょっと寒いかも…。それにしても本当に広い場所……なんで魔物が全然いないんだろう。」




 __『実際に地下空間が広がっているのではなく、魔法によって時空が歪んでいると推察されている。』


 前に読んだ本の内容を思いだしながら歩いていると、少し遠くに通路口らしきものが薄っすらと見えた。繋がっている先はさすがに見えなかったが。


 想像よりずっと早かった進展の出現にミルシュは駆け出した。


 しかし、一歩目が地面についたその時、地響きが足元から全身を揺らした。


「きゃあっ――!」


 不意の出来事に思わず転んでしまう。

 立て続けに襲い来る地鳴りと共に大きな闇が蠢いた。


 そしてそれは、青白い薄明かりのもとに照らされ段々と輪郭を伴っていく。


 鋭い爪と牙、全身を包み込む分厚い羽毛、その下にはそびえ立つ刃のような鱗があることを知っている……。


 何より、闇と見まがうほどの陰を生み出す巨躯と、吐き出される冷気____




「ホワイトドラゴン……!!」










 ❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃❄❄☃❄☃


 次回の更新は来週日曜日(1月11日)を予定しております。


 今後は毎週日曜日更新の予定です。


 こういったことはどこに書けばいいんでしょうか。ここでいいんでしょうか。

 第2話まで読んでくださった方、ありがとうございます。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

氷雪魔女はあきらめない 黎明牧場 @reimei_farm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ