氷雪魔女はあきらめない
黎明牧場
第1話 「追放されてもあきらめない」
「ミルシュ、お前にはこのパーティーをやめてもらう。」
賑やかな酒場の雰囲気の中、剣士の青年は眼前の少女に言い放つ。
突然の通告に、それまでの明るい表情から一転、少女は慌てだした。
「なっ……なんでですか!?」
「なんでだって?……お前が氷の魔法しか使えないからだよ。」
「それは……」
パーティーのリーダーである、この剣士が言っていることは事実だった。
彼女の攻撃魔法は氷雪系のものしかない。
それでも、パーティーをやめさせられるのは受け入れられない。
今までの冒険において、貢献してきたという自負がこの少女、ミルシュにはあったからだ。
「でも!その魔法でたくさんの魔物を倒してきたじゃないですか!」
氷の槍で魔物の群れを一掃したことや、氷壁で攻撃から仲間を守った活躍は記憶に新しい。
「まぁ、そうだな。お前の魔法は確かに強い、本当にな……」
それだけじゃな、と苦い顔で剣士は続ける。
「じゃあ、自分の職業とそれに求められる役割を言ってみろ。」
「__魔法使い…は、複数の属性攻撃魔法を使い分けて的確に魔物の弱点をつき、ダンジョン攻略の核を担う職業…です……。」
言いながらミルシュはへこみそうになる。
(確かに求められる役割はこなせていないのかもしれない……。)
ぎゅっ、と杖を握る手に力が入る。
さらに剣士は攻め立てる。
「そうだ、その点お前はどうだ!氷の魔法が有効ならいいが、効きづらい魔物は連発して無理やり倒すしかないだろうが!!」
「だけど…今まで協力して、そういう魔物も倒したのに…!どうして突然……」
「これから先はそうもいかないからだよ。」
「ヴァレク……」
ミルシュは剣士を見つめる。剣士の青年__ヴァレクは取り付く島もない様子で、どんな弁明をしても拒絶されるように感じられた。
「…ティーナ!アンセルさん!」
黙ってなりゆきを見ていた他のパーティーメンバー二人にミルシュは助けを求める。
この決定がメンバーの総意だとは考えたくない、
「いやぁ……ま、リーダーが決めたんでねぇ。」
「!!」
アンセルと呼ばれた壮年の戦士は歯切れ悪く答える。
「子供をこれ以上危険な冒険に連れ出すのかーって言われちゃね、…今さらだけど。」
「! 子供じゃないです!!わたし、17ですから!もうばっちり成人ですから!!」
「まーたそんなこと言って。」
ミルシュは幼い見かけのためか、主張している年齢をアンセルに信じてもらえてない。
ヴァレクとも1つしか歳が変わらないのだが、アンセルはいつもこの調子で彼女だけを子ども扱いする。
「……私は最初、反対したのですが」
修道服に身を包んだ厳格な
「ティーナ…!」
「ヴァレク様の言い分にも一理あると思いまして…氷雪の攻撃魔法だけでは危うい場面が来てしまうかもしれません。」
それに…とヴァレクを横目で見て続ける。
「彼は貴女をこれから先、どうしても連れて行きたくないようですから。」
「セレスティーナ!余計なことを言うな!!」
セレスティーナは肩をすくめて再び黙り込む。
(ひとつの属性魔法だけじゃ足手まとい…?みんなわたしじゃ不安なんだ……。)
「別にお前に悪いところがあった訳じゃないが…俺達はより高みを目指すためにもっと強い魔物と戦わなきゃいけない。だから属性を多く使える優秀な魔法使いが必要なんだ。」
『俺達』、という言葉にはもう自分が入っていないことが悲しくて胸が詰まる。
「ひ、ひとつの属性だけでも役に立てるもん…!剣や斧だけじゃ倒すのが難しい魔物もいます!!それに攻撃だけじゃなくて、補助魔法や基礎魔法だって必須だし……」
心がぎゅうっと潰される痛み、足場が段々と崩れていくような焦燥を抑え込んで懇願する。
だが、彼女のそういった心情などお構いなしにヴァレクは突きつける。
「心配しなくてもいい、新しい魔法使いが加入してくれることになったからな。」
言うや否や離れた席へ向かうと、そこに座っていた鮮やかな赤色をした長髪の女となにやら話し始めた。
アンセルもセレスティーナも何も言わない。沈黙が続く微妙な間に耐えられずミルシュは手元の飲み物に口をつける。
しばらくすると、ヴァレクはその女を連れてやってくる。
二人が近づいてくるほどに動悸が激しくなるのを感じていた。
ぐわっと体が熱くなる一方で指先は震えている。
「やだ…ほんとうに子供じゃない。」
新しい魔法使いとして連れて来られた女はミルシュをみて眉をひそめた。
「カーラという。攻撃魔法は四つの属性が扱えるそうだ。」
「えぇっ、すごい…ですね……。」
別に二つや三つだとしても自分より必要とされているのだ。自らの居場所を奪わんとする存在の登場にますます落ち込んでしまう。
攻撃魔法とはすなわち魔力の放出__四属性にも魔力の性質を変え、魔物への攻撃に使用できるのは冒険者として間違いなく優秀な部類に入る。
「よろしくね?お嬢さん……あっ、と料理が冷めちゃってるわね。」
女が指先を軽く振ると、温かい空気が料理を包んだ。
(わたしにはできない魔法だ……)
「ここじゃ攻撃魔法は危ないから…あいさつ代わりに、ね?」
平時であれば、目を輝かせてこの女と魔法の話をするであろう。
同じ魔法使いとして色々聞きたいはずなのに、今のミルシュにそんな気力はなかった。
「攻撃以外の魔法も彼女がやってくれる、お前がいなくても大丈夫だ。」
「わっ…わたしがいれば食糧の冷凍・冷蔵保存が……っ」
「そんなの魔法使いなら誰でも使える……だよなカーラ!?」
「まぁ私はできなくもないけど……。」
「だそうだ!わかったか?」
「うぅ……」
どうしたってもうこのパーティーには居られないのだ。ミルシュは何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
それでも有用だと認めてもらうためにどうにかしたい、その考えすらまとまらないままに店の外へ駆けだした。
とにかくこの場にいることができなかった。
「お前はせいぜい、城下町で安全な依頼でもこなしながら俺が勇者になるのを__」
「もういません。」
「すごい勢いで飛び出していったね~。」
「なっ…人の話をなぜ最後まで聞かない!?」
「あんな言われ方したら居たたまれなくて逃げだすでしょ。」
呆れた様子で新しい魔法使いの女は言った。
____ミルシュは走って走って、ある場所へとがむしゃらに向かうのだった。
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