第2話 戦略的な狩猟。

「こら、そんなに掻き込まないの。」


皿を食らわんとする勢いで、食べるミュエットに成海は言った。


「ゴホッ。ゴホッ。」


「ほら、言わんこっちゃない。」


成海はそう言って、ミュエットの背中をさすった。

ここ1年でミュエットは目まぐるしく成長した。特に顕著なのが、日本語の上達だ。日常会話程度であれば難なくこなせる。今ではあの辿々しい話し方は見る影も無い。


外見に関しては殆ど変化は無いが…。


咳が落ち着いたミュエットが成海に尋ねる。


「ねえ、今日は何するの?」


成海は考える様な素振りをしてみせると、ミュエットに尋ねる。


「今、この家に足りないものってなーんだ。」


「壁?」


「まあ、それは…そうだけど…。」

「じゃなくて、もっと簡単なもの。こう、これがあるのとないのとじゃ、生活のレベルが変わるというか…。」


「うーん、分かんない。」


「照明だよ。」

「あれが無いと、夜の作業とかできたもんじゃないからさ…。」


「ふーん。」


ミュエットはピンときてなさそうな顔をした。


「でも、今もかまどの明かりがあるよ。」


「そうだけど、かまどだと維持するのが大変だし、火力も高すぎる。」


「じゃあ、どうするの?」


「それはね…油だよ。」


「油ってあのベタベタした?」


ミュエットは、上手く飲み込めていない様子だ。


「うん。多分それ。」

「それがあれば、火種を長く保つことが出来る。」


「油…。どうやって手に入れるの?この辺りにアブラガムは無いよ?」


「アブラガム?」


ミュエットの口から知らない言葉が飛び出して、思わず成海は聞き返した。


「アブラガムは、ガムの木の一種でガム油の材料になる木だよ。」


「そんな木があるの?」


「うん。」


ミュエットは、さも当たり前かのように言った。


「まあ、今回はその方法じゃなくてもっと別の方法を使うから大丈夫。」


成海はいとも簡単にその事実を受け止めた。

それもその筈、こんなやり取りはもう数え切れない程やったのだ。一年中そんなやり取りを続けていれば耐性も付く。だから、ミュエットも彼の無知さに驚いたりはしない。


「それで、どんな方法?」


ミュエットが成海に聞き返した。


「狩り。」


「え、無理無理。」


ミュエットが成海の考えを否定する。

彼女の頭に浮かんだのは、今までの獣達との戦いであった。


連戦連敗。


当たり前だ。

か弱き幼女と、男子高校生。

そんなデッキでは、野生を生き抜いてきた猛者たちに対抗できるわけがない。今の彼らは木の実や、野菜などを細々と食す。

正に、生態系底辺の住民である。

負け犬の目をしたミュエットの考えを、成海が否定する。


「いや、実は考えがあるんだ。」


「考え…。」


ミュエットの疑惑に満ちた目を意に返さず、成海は続ける。


「毒だよ。」


成海の回答に、ミュエットが目を丸くする。


「え、毒なんて持ってるの?」


「あるんだな〜。これが!」


そう言って、成海がとある木の実を机に置いた。


「これだよ。」


それを見たミュエットが青ざめる。


「え?これ毒だったの…。」


「え?」


ミュエットの回答に成海が驚いた様子をしてみせた。


「わ…私、食べちゃった…んだけど…。」


「…マジで。」


「ねえ!私、死んじゃうの!?」


ミュエットが今にも泣き出しそうな顔で、成海に詰め寄る。


「うぅ、ミュエット、今まで楽しかったよ…。」


嘘泣きだ。

実際には、この毒は特定の生命体にしか効かない。対象の生命に対しては、致命的な効力を発揮するが、それ以外にはむしろ身体の調子を整える効力を持つ。そんな毒だ。

そのため、ミュエットが死ぬことはない。


しかし、成海は、ミュエットの困り顔が気に入ってしまい。暫く、ネタバラシをしないことにした。


暫く、様子を見ていると。


「…だ。」


「?」


「…嫌だ…。嫌だ!ヤダァァァ!」


ミュエットは泣き出してしまった。


流石に可哀想だと思った成海は、ネタバラシをした。


─────────────────


「ねえ、ごめんって〜。」


「…もう知らない!」


先ほどの成海のイタズラで、ミュエットは完全に拗ねてしまった。


「いや、僕も悪かったから。流石に悪ふざけが過ぎたよ。」


「…本当に思ってる?」


「うん。ごめんね。」


「…いいよ。」


今、彼等は毒餌の設置に来ていた。

現在、お目当ての動物の餌場に居るのだが、その動物が居なくなるまで待っているのだ。

ミュエットが小声で話しかける。


「それにしても、オオメロアを狙うんだ?」


「オオメロアって言うんだ。うん。こいつにはあの毒が効く。」

「それに、何と言ってもコイツらは、決まった餌場を使い続ける。」


「それがここ?」


「ここと、もう少し離れた所に4つ。」

「あと、匂いに鈍感っていうところもあるね。」


「へー。」


「っと。そんな事を話してたら、皆様お帰りのご様子。」


そう言われ、ミュエットがオオメロア達の方を見ると、そこにはもう居なかった。


「じゃあ…。」


ミュエットが成海の方を見ると、成海はもう居なかった。


「え、早…。」


ミュエットは成海に近づき尋ねる。


「次にここに来るのは、いつなの?」


「3日後。」


「ふーん。」


「上手く獲れたら、余ったお肉でなんか作ろう。」


成海のその言葉に、少女がキラキラと目を輝かせた。


「うん!」




─とある街はずれ。


「ぐあぁぁ!」


「はあ。全く…喧嘩ふっかける相手は考えろよ。」


直人はしゃがみながら、地に伏した相手に向かって言う。


「生憎だが、俺はお前らチンピラと違って暇じゃねぇ。」

「なんせ、逸れたクラスメートを探さにゃならねんだ。」


「クソッ…!何なんだよテメェ!」


「…まあ、成る程でもないが、そうだな…。」

「魔王を討った者とでも名乗っておこうか。」


「…!まさかお前は!」


チンピラがそう言いかけると、辺りに響く少し高めの声がそれを制した。


「は〜い。茶番はおしまい。」


全員が声のする方を見ると、底には那妻が立っていた。


「さっきまで、ジメジメグチグチ言ってた人が何言ってんのやら…。」


那妻は呆れたように言った。


「まあ、それはいいや。みっちゃんが集合ってさ。」


「満希が?分かった。」


そう言うと、男はチンピラから退く。


「んじゃ、よろしく。」


「ん、行くよ。」


直人の手を取った那妻がそう言うと、さっきまでそこに居たはずの二人の姿は、一瞬にして消え去った。


後に残されたのは、伸びたチンピラ達だけであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る