2016/11/12


 いかに衝撃的な体験であろうと、他の出来事と同様、時が過ぎれば薄らいでいくものである。

 その年の誕生日の出来事は、不思議体験の多い私としてもなかなかにインパクトの強いものであったが、ひと月もすれば、そのようなことがあったこと自体忘れてしまっていた。


 私が『玄関先に佇む禿』という、滅多にお目にかかれないであろう怪異、その姿、その体験を思い出すトリガーとなったのは、『刀剣乱舞』というゲームの小烏丸だ。

 より正確に言えば、彼の実装を告知するツイートに添付されていた画像である。


(あの日見た何者かに酷似しよくにている――……)


 当時、新規実装された小烏丸というキャラクターは、細身で色白、揃えた黒髪を烏の翼よろしく結わえた童子のような姿をしており、赤い着物を纏っていた。


 彼の姿を認めるなり、脳裏によみがえったのは、その年の誕生日に見た何者かの姿。――小烏丸に近い装いをした者の姿だった。


(どういうこと? 未来予知――なわけないし)


 当然、脳内は大混乱である。

 玄関先に謎の存在を認めてから、数ヶ月が経過していた。

 赤い着物に黒い髪の童。共通項はそう多くない。偶然として処理するのが順当だろう。


 しかし、謎の存在を目撃したのが誕生日というのが引っ掛かっていた。

 不思議な体験には事欠かないと言ったが、私のこれまでの体験は、五感で言えば聴覚と触覚で体感したものであり、この世ならざるもの(とおぼしきもの)をこの目ではっきりと捉えてしまったのは、そのときが初めてだったのだ。


(たぶん偶然じゃないんだろうな)


 手掛かりがあるとすれば、小烏丸のキャラクターデザインだ。

 『刀剣乱舞』のキャラクターには元ネタ(刀)があり、彼らは刀に宿った付喪神という設定だ。

 ――ということは、そのキャラクターデザインにも刀の逸話や刀の持ち主にまつわるものが取り入れられているはずだ。


 そちらについて深掘りする前に、他のプレイヤーの反応を確認したところ、私は『禿かむろ』と呼ばれた者たちの存在に行き当たった。

 小烏丸のデザインが禿なるものに見えると言っている人がいたのだ。

 

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