バトル和歌

「このお方。ます 麻呂まろ様は、亜子お嬢様の許嫁候補の一人だ」


「えっ、マシュマロ?」


 真菜が聞き間違えると、麻呂の付き人が怒りながら訂正を入れる。


ます 麻呂まろ様だ!! いくらマシュマロみたいにプニプニ贅肉まみれだといえ、失礼な!!」


「おい、お前が一番失礼でおじゃる」


 真幸はそんなやり取りをスルーして、先ほどの御影の言葉を疑問に思った。


「許嫁の一人と言うと……?」


「亜子お嬢様には、私のご主人様、つまり、亜子お嬢様のお父様がお決めになった許嫁候補が多数いらっしゃいます。その内の一人が麻呂様です」


「なるほど?」


 真幸はいまいちピンと来ていない様だった。


「今日こそ、麻呂の愛が通じると思って来たでおじゃる」


 真幸はふと、亜子の顔を見た。今まで見た事が無い、ゴミを見るような目をしていた。


「その許嫁候補を試すのがあなた方の仕事でもある」


「よく分かりませんが、とりあえずこのマシュマロをぶん殴って良いって事ですね!?」


 真幸が言うと、麻呂は地団駄を踏み始めた。


「良いわけないでおじゃろうが!!!」


「戦いの方法は相手の指定したものとなる。気を付けるんだ真幸くん」


 真幸は麻呂を見て、何が来るのかと少しだけ緊張した。


「まぁいいでおじゃる。では早速、ぬしたちを麻呂の得意なバトル和歌で蹴散らしてやるでおじゃる」


 麻呂は続けて言う。


「麻呂は日頃から和歌を詠み、自然の美しさ、人の儚さ等を称えているのじゃ。いわゆる『わびさび』というものでおじゃるな」


 意外に真面目な勝負なのかもしれないと思う釧路家の面々。真幸は頭を抱える。


「しまった。俺、国語苦手だ……」


「私もだよ、おにぃ……」


「お母さんも、和歌なんてやったことないわ……」


 麻呂はムカつくニヤケ顔を向けながら語り続ける。


「そして腕をみがき、年に数回開かれる高校生バトル和歌詠み大会に出場し、他校と和歌を詠む」


 その言葉に、真幸は何度目か分からない衝撃を受ける。


「高校生!? あんた……。じゃなかった、マシュマロ様、高校生!?」


「マシュマロではない!! そこで他校をぶっ潰して見下すのが何よりも楽しいのでおじゃる」


「『わびさび』の欠片も無い思考だよそれ!!」


 麻呂に真菜が思わずツッコミを入れた。


「まぁまぁ、とにかく一戦詠んでみるでおじゃる。先手は譲ってやるでおじゃる」


「私達あまり俳句って詠んだことも無いし詳しくないのですが」


 真弓が困った顔で言うと、ふふんと麻呂は余裕そうに構える。


「それではマシュマロ様、僕が行きます」


 真幸が一歩前に歩み出て、麻呂の前に立つ。


「いいでおじゃる、来るでおじゃる。それでは、バトル和歌開始!!」


「ぶどうがぶっとんだ!!」


 苦し紛れに真幸が言うと、すかさず真菜がツッコミを入れた。


「おにぃ!! それ和歌じゃないよ!! ただのダジャレだよ!!?」


「やんごとなきいいいいいいいい!!!!!」


 だが、そんな絶叫をしながら吹き飛ぶ麻呂。


「きゃああああ!!! どういう状況これえええぇぇぇ!?」


 吹っ飛んだ後に、立ち上がった麻呂は真幸を指さす。


「っく、ぬしもしかしてどこかで和歌をたしなんでいたか? 麻呂を油断させ、こんな攻撃をするとは卑怯な!!」


 ブチギレている麻呂と、困惑している真菜。


「絶対これ和歌じゃない、私、馬鹿だけど分かる絶対これ和歌じゃないよ!!」


「これはぶどうを主な掛詞にし、ぶっとんだで大粒の水々しいぶどうを想像させる敵ながら見事な和歌でおじゃる。こうなれば加減なしで詠ませてもらうでおじゃる!!」


 スーッと麻呂は息を吸い込んで。


「熊が出たベアー!!!


「ぐわあああああ!!!!」


 吹き飛ぶ真幸を見て、亜子と真菜、真弓が叫んだ。


「真幸くん!!」


「おにぃ!?」


「真幸!?」


「麻呂様流石ですね、熊を主な掛詞にし、ベアーは田舎の訛りに見せかけた英語、グローバル和歌だ。しかもその上熊が出る地域での注意喚起にも使える……」


 御影が当たり前のように解説をするので、真菜はツッコミが追い付かない。

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