バーチャル警察24時

高倉アツシ

第1話 バーチャル警察2.5次元課①

 2024年ももうすぐ終わる。

 十二月は来年度予算の兼ね合いもあってノルマ達成が未達だと課長から吊るされてしまう。

 そんなプレッシャーからトイレにこもって早三十分。ぼくはギュルギュルと唸るお腹を押さえながらスマホで今月の逮捕件数を数えていた。


「は~、やばやばやば……。ノルマ十五件とかさぁー、そもそも二日に一回逮捕しろとか無理やんけアホちゃいまっかって話だよまったく」


 ちなみに今月のぼくの逮捕件数はななななんと、奇跡の九件!

 毎月五件達成できないぼくにしては頑張った。十分頑張ったんだ。完!


 ——とは当然ならず。


 ドンドンドンッ!!


 トイレのドアがけたたましく叩かれる。

 わかってる、課長だ。


「まぁもぉりいぃくぅ~ん? いつまでトイレ入ってるつもりだテメエ!」

「課長、ぼくは好きでトイレに入っているのではありません。あと男子トイレに入って来ないでくださいよ訴えますよ!?」

「間森くん、いいか? 訴えるなんて言葉は使う必要がねーんだ。オレらは訴えると頭の中に思い浮かべたときには、もうすでに訴えちまってる後だからだ。訴えた、なら使ってもいいッ!」

「課長、相変わらずジョジョネタ挟むの止めてくださいよ。それよりデスク戻るので早く男子トイレから出て行ってください」

「だが断る」

「ナニッ!! じゃなくて、マジで出て行ってください!?」

「早く出て来いよ、他の子たちももう会議室に来てるからな」


 パタパタとトイレから出ていく課長。

 ぼくは深くため息を吐きながらスボンを履いた。


 2024年。

 増え続けるサイバーテロに世界各国はサイバー警察を組織することでインターネット上の犯罪取り締まりを始めた。

 特に日本ではバーチャル活動が2019年から活性化して節目の五年目であり、今年は本庁のサイバーテロ対策として新たに2.5次元課が新設された。

 この2.5次元課はバーチャル空間における種々しゅじゅの犯罪を取り締まるために活動しているわけなのですが……。


 会議室に入り席に座る。

 2.5次元課の課長こと東条千央とうじょうちひろ課長がこほんと咳ばらいをして全員を見渡す。


「さて、四月に新設されたこの2.5次元課だが、今年も遂に残すところあと一週間となった。特に年末年始は帰省に伴って学生によるネット犯罪が増加する傾向にある。当然、我々もネットの治安を守るためにできることを考えなければならないわけだが、対策として誰か案はないだろうか?」


 スッ、と九野木真斗くのぎまさと課長補佐が手を挙げた。


「二人一組で二十四時間体制を敷くのはどうでしょうか」


 は?

 ぼくは真顔で九野木課長補佐を見る。他の人たちもざわついている。

 この堅物は言うに事欠いて熱血サラリーマンみたいなこと言ってんじゃないですよまったく……。

 ぼくが心底呆れていると、寺西ここちゃんが手を挙げた。


「二人一組って言いますが、係長、2.5次元課は七人ですよ? 間森さんが余ります」

「確かに!」


 うんちょっと?

 ナチュラルにぼくを余りモノ扱いするの止めよう?

 しかもそこじゃない、そこじゃないんだよ!?


「……え~っと、というより皆さんは二十四時間働く気なんですか? 年末年始ですよ?」


 ぼくが恐る恐る尋ねると、隣に座っていた北大路亜衣佳きたおおじあいか係長が肩を組んでくる。うわっ、なんかふわっと良い匂いがする。


「しょうがないんじゃない? だって警察に入った時点で遅番や非番あるのはわかってたことじゃん」

「それは確かにそうだけどさー」

「……北大路さん、少し近すぎやない」

「……南本みなもとちゃん、言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃん」


 なぜか南本凛みなもとりん主任が口を尖らせている。二人の間に謎の重たい空気が流れると、割って入るように岡さんこと岡浩太おかこうた主任がいつものニコニコ笑顔で手を挙げた。


「奥さんの代わりに子どもの寝かしつけとかあって夜は家に帰らなければいけないので、私は年末年始早番から中番まで毎日出ますよ」

「なるほど。それなら遅番は他六人のローテーションでもいいかもな」


 岡さんの発言で課長が腕組みをしながら思案する。


「う~ん、役職からいくと課長の私と間森くん、課長補佐の九野木くんと寺西くん、北大路くんと南本くんの三ペアか」

「課長! 私は間森くんとが良いでーす」

「え? マジで? ぼくさっきナチュラルに余りモノ扱いされたけど?」

「課長、うちも北大路さんと組むくらいなら、しゃーないから間森さんと組みます」

「あぁーるぇー? 私が間森くんと組むんだから南本みなもとちゃんは課長と組めば良いじゃん?」

「はあ? どうでもええけど、間森くんの身の危険を心配してあげてるだけやん」


 ゴゴゴゴ、と暑苦しいオーラを放ちながら女子二人がにらみ合うのを、課長がパンと手を叩いて静止した。


「あんたたちはーだーっとれぃ! とにかく、組み合わせはさっき言った通り、変更は原則なし! そして課長はクールに去るぜ」


 会議を強制終了して颯爽と出ていく課長。

 みんなができない事を平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!



★★★



 課長に連れられて起動室に入る。

 観念したぼくは潔くベッドに横たわった。

 サイバーテロを防ぐためには本来なら相応の知識や技術が必要だが、もちろん警察官にそんな特殊スキルを持つ者は極めて稀だ。

 そこで、2.5次元課には電脳ダイヴシステム――略称VDG(ヴァーチャルダイヴギア)というヘッドギアが支給されている。

 ギアに組み込まれているAIが自動で電脳世界での取り締まり活動を補佐してくれるのだ。


 課長が同じく横のベッドに横たわりながらぼくの方に振り向く。


「間森くん。この2.5次元課には本当に色々な人材が揃っている。その中でも元犯罪者・・・・である君をこの課に招聘しょうへいするのには並々ならぬ交渉があったわけだ。上が君に期待しているのは成果だけじゃない」

「……ぼくはただゲームをしてただけですよ」


 嘘じゃない。本当にゲームをしてただけだ。それが何がどうなってという経緯は知らないが、結果的にとある政治家のマネーロンダリングに加担してしまっていただけだ。


「ふふ。お前にしたたかさプラス冷静な態度を感じるぜ」


 完全記憶能力を持つ課長はジョジョネタをことあるごとに挟んでくるが、ネタが細かすぎて正直わからないことの方が多い。

 そういうところも含めてとっつきにくさは感じてはいるが、従わなければムショ送りだ。従うしかない……。


「私はね、間森くんが持ってる未来認知能力はきっとこの仕事のために得た能力だと思ってる。だからもっと自信を持て。そしてあと十件ささっとノルマをこなせ」

「あ、はい…………」


 そう、なぜか周りにはぼくが未来認知能力を持っていると誤解されてしまっているのだ。

 確かに小学生のころは憧れたさ、未来予知。

 ノストラダムスの大予言とか当時好きだった予言も思い出してみたり。

 ぼくも例に漏れず友だちに予言を吹聴してはバカにされてきた黒歴史を持っているからわかる。


 こういうのってイワシの頭も信心からで、周りが勝手にそう思ってるだけなのだ。

 本当に困ってしまう。


「ぼくがノルマをこなした日には、2.5次元課はなくなりますよ」

「そういう未来でも見えたのか?」


 真剣な面持ちで課長がぐいっと近づいてくる。

 ぼくは意味深な表情でにやっと笑って、そのままヘッドギアを被る。

 こういうときはこれ以上何も言わない方がいい。

 だってどうせ意味なんて何もないんだから。


 ヘッドギアが動作し、意識が水中に浸かる感覚。

 深く沈んでいき、やがて白い光の先に電脳上の街並みが広がる。


 今日もめんどくさいお仕事の時間が始まる。

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