第36話 飛び込み台 森山 昴
大学の時にね、同じ学科に六人組の仲がいい男グループがいたんですよ。そいつらの話です。
二つの高校の三人組がまとまったグループだったんですけど、六人とも地味めで。真面目に大学通って小遣い程度にバイトして、一緒に学食でつるんでるって感じでした。
三年の時に、そいつらが急に張りきりだして。
今年の夏は、六人で沖縄に行くんだ! て。
金もないしそんなにはしゃぐタチでもない。でも、大学生のうちに一回くらいは旅行に行こうってことになって、沖縄ってことになったらしいんですね。
地味にバイト代溜めて、二泊三日くらいは行けそうだって、頑張ってましたね。
ちなみに私は夏はリゾートバイトで信州、というのがパターンだったんです。荷物持ちとかの接客係ですね。リゾートバイト。別に怖い目には遭いませんでした。
で、彼らは大学三年の夏に念願の沖縄旅行に行ったんです。
まあ、そのうちの一人とまあまあ仲が良かったんで、初日からメールで楽しんでる報告が来たんですよ。二十年前だから当時はメールね、写真添付はできた。沖縄の綺麗な色の海で遊んでる写真が届きましたよ。画素数は今より低いから、誰が誰だかわかんないような写真でしたけど、楽しそうなのは十分に伝わりました。
ナンパに失敗しただのフルーツがうまいだの。海がきれいだ砂がきれいだって、はしゃいだメールが一日に何通もね。
二日目にも、泡盛はヤバイ寝坊しただの、ジンベエザメすげえとかビキニたくさんだのね。
で、夕方、一人行方不明になった、て。
それだけは、ポツンと、一文だけで届いた。
夜、仕事が終わってからそのメールを読んで、慌てて電話して事情を聞きました。
そこの海は基本的に浅瀬なんだけど、ちょっと深くなったところに台が設置されていて、飛び込んで遊ぶことができたんだそうです。夕方に海に行って、ちょうど満潮だったんでそこに六人で行って、代わる代わる飛び込んで遊んでいた。私に連絡をくれた奴はデジカメを持っていて、濡れないように気を付けながら旅行の写真を撮りまくってたそうで、その時も撮っていた。自分の番の時にはほかのやつに預けてね。
で、もうそろそろ終わりにしようって、最後の順番でカメラを預けて飛び込み台に上がって。前の奴が飛び込んだから、次は自分の番だって、縁まで行って。よく見たら、飛び込み台の近くには四人しかいない。たった今飛び込んだやつが、浮上してきていなかった。
飛び込むったって、海面からほんの一メートルくらいだし、水深も一メールくらい。満潮でもおしりから落ちるのがせいぜいのところ。水もきれいなのに、落ちた奴の姿がない。
下の友人らもおかしいと探しはじめ、そいつも見える範囲にいないのでとにかく慌てて尻から飛び込んだ。
海中で泡まみれになりながらも、沈んだまま辺りを見回してみた。
そうしたら、遠くに、流されていく黒い頭が見えた。すぐに浮上して、あっちだ! と叫んで追いかけた。一人は助けを呼びに岸に向かった。
先頭になって泳いで追いかけていたそいつは、見たんだそうです。
海中で、長かった髪をたゆらせて、腕を彼らの方へさしのべたまま流されていく友人の姿と、その周辺を染める、薄白い影の集まりを。
海の色とも、海底の色とも珊瑚の色とも違う。暮れていく太陽と潮の流れが見せた幻想的光景だと、そう思いたかったって。
けれど、その影はもやもやしていながらも、それは、多くの何かの群に見えた。
結局、彼は追いつけなかった。手加減したかもしれないと、本人は言っていた。あれが怖かったんだと。
消えた友人は、その後の捜索でもみつからなかったし、岸に打ち上げられることもなかった。
強い潮の流れもないはずの場所で。ヤツは太平洋に流されて行っちまったんだ、壮大な死に方だ。そう思おうと、奴らは慰めあっていた。
彼らと交替で沖縄に行ったご両親も、うなだれたまま手ぶらで戻って来て、遺体のないままの葬式には、私も出ましたよ。
冬休みも近い頃。五人組になった連中が学食に集まっているのをみつけて、声をかけました。
奴らは真っ青になっていて、どうしていいかわからないって顔をしていました。
テーブルの上には、写真が散らばっていた。沖縄旅行の写真だと、一目でわかりました。
死んだヤツの笑顔の写真もたくさんあった。女の子にいやがられているところ、かき氷をかっこんでいるところ、砂の上に寝そべっているところ、そして、飛び込み台の写真。
飛び込み台の上でポーズをとっている写真と、飛び込み台から跳んで大の字になって上見て落ちていく写真。連写で撮られた写真でした。
飛び込み台とほぼ同じ高さの時に、足元に、白い手が一本、写っていた。
そして、海面ギリギリの写真では、そいつの体に、何本もの手がまとわりついていた。
体に十本以上。そのつかまえている腕たちに更にまとわりつくようにして、数十本。手首から上だけのや、肩くらいまで見えているのもありましたね。
あいつは、奴らに連れて行かれちまったんだな。
データは消して、写真は、あいつの家のお墓があるお寺に預けたそうです。
遺体は見つからなかったけど、ちゃんと成仏していると、信じています。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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