第12話 タンデム 森山 昴

 一応、怪談かなあ。大学の先輩の、色恋話ですけどね。

 実際に聞いたのは十年くらい前で、先輩が経験したのもその更に十年前って話です。先輩が大学生の時、幼馴染からの続きで高校から付き合いだした彼女が、なんか感染症が原因で死にそうになったんだそうです。

 先輩は、長らくバイトして貯めたお金で念願のバイクをようやく買ったところで。彼女とはタンデムして、二人乗りですね、して、旅行に行こうって約束していた。

 少し操作に慣れてから一緒に行こうと、近所の本屋だとかスーパーだとかだけ二人乗りして慣らしながら、初旅行の計画を立てて宿も予約済みだったのに、急病です。しかも重症。

 高熱で意識も怪しくなって救急車で運ばれて、一時回復しかけたけど心臓がやられたらしくてとうとう意識不明で旅行予定日が近づくころには面会もできず。

 宿は結局キャンセルしたけど、旅行予定の日にはとうとう危篤だと連絡を受けて。でも、まだ身内ではないから、面会はできない。

 それで、彼は、旅に出るはずだったルートをバイクで走ることにしたんだそうです。

 旅先で大きめの神社に行く予定があったので、彼女と二人で走っている気持ちで、彼女の回復を祈ってこようとね。

 無事に着いてお参りして、帰りは暗い山ん中の国道を走って帰って来た。本当なら泊まるような距離だったから。車もほとんど通らないし、考えることは彼女のことばかり。カーブも彼女を乗せていたらどれくらいのスピードで曲がったらいいかとか、そんなことを考えながら走っていた、ら。

 なんか、途中から、後ろにいるような気配がしてきて。

 何度か近所の行き来で乗せたときのような感触で、しがみついている。

 もう帰りなんだけど、とか思いながら、時々片手で腹にしがみついている手をなでながら、家に帰って来た。

 家に着いたときには気配は消えていて、なんの痕跡もなかったけど。一緒に旅行してきたんだ、て。

 携帯電話には、当時はまだスマホなかったからね、ケータイには、彼女の家族からはなんの着歴もなかった。けど、すでに夜中は過ぎていたし、何か連絡があるとしても朝だろうなと思いながら、あとは家で、彼女のことを思いながら朝まで起きていたんだって。

 翌朝、まだ危篤状態だって連絡があって。ひと眠りした夕方には、容態が安定したって連絡が来た。

 その二週間後くらいに、ようやく面会の許可が下りた。

 げっそり痩せちゃった彼女さんだったけど、暗い山道をバイクで一緒に走った夢を見た、一緒に旅行に行く予定だったのを思い出した、絶対一緒に行くって思った、と伝えられて。

 無事退院して体力も回復してから、念願の旅に行って、神社にもお礼参りしたって話でした。

 無理はできないらしいけど、結婚して、二人で仲良く暮らしてますよ。今はバイクじゃなくて車でね、旅に、よく行くそうですよ。


 語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。


『百物語が終わるまで』

https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761

の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。

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