第2話 同乗者 田中 篤(たなかあつし)
父から今回、ここに来るために聞いた話です。職場の新人さんに聞いたそうです。
その人の友人の森さんって人の体験だそうです。
同じ大学に、家がなにやら裕福らしくて、バイトもせずに女の子と遊び回ってる飯田って男がいたんだそうです。
もてる感じじゃないけど、気前よく奢ってまわってるせいで、もてていたらしいって話で。ただ、乗り回している車が親のお古の普通のセダンだったと。
本人、それをひどく気にしていたそうで、自分の車はあまり使ってなかったって話なんですね。
それが、二十歳の誕生日だかに新車のいいのを親に買ってもらうことになったと。
それで、そのお古を同じ高校出身の森さんに、安く売ったわけです。
森さんは大喜びで、わざわざバスや電車の友人を捕まえて送り迎えしたりして、乗り回していたんだそうです。
車を手に入れて一ヶ月ほど経ったある日、森さんは思い切って一人で遠出しました。
なんだかんだ、一人で長い距離を運転したことはなかったんですね。
エンジンは快調だし、年式古かったけど特に調子が悪いところもない。それでいて破格に安かったしで、彼はその車に関しては満足していたんだそうです。その日までは。
その日、森さんは県内の観光地の方まで運転して、花畑が街道沿いにあるドライブコースを回って、遅くなってしまったので帰りは一気に高速道路を使おうと考えました。高速も初めてだったそうです。
ちゃんと合流もできたし、混雑もしていない。ラジオを聞きながら快調に走っていたところ、追い越し車線から抜いていく車が併走した。
何事かと見れば、元の車の持ち主の飯田が女の子を三人も乗せて合図を送ってきた。森さんが気づいたのを確認すると、飯田は一気に加速して走り去ってしまったんだそうです。
森さんは、一人でドライブ。あちらは女の子三人。せっかく気分良く運転していたのに興ざめしてしまい、彼はラジオを消してお気に入りのCDを聴くことにしました。
気分転換しようと曲が始まるのを身構えて待っても、何も聞こえてこない。いつも聴いているCDだし、操作を誤ってもいないはず。運転しながらの作業なので、片手であちこち、よく見もせずにいじってみてもダメ。ボリュームをめいいっぱい上げてもダメ。
CDに傷でもついたのかと、彼は諦めてCDを出そうとしました。が、出ない。
往生際悪く、彼はもう一度再生ボタンを押してみました。すると、今度は曲が聞こえてきました。
さっきのはなんだったんだろうかと首を傾げたところ、突然、曲に妙な声が混じり始めました。
ラジオが混線している時のように、聞き取れないけれど、女の声が何か言っている。CDなんだから混線しているはずはないし、いつも聴いているものなので、そんな音が入っているはずがないことも森さんにはわかっていました。
そこで、森さんはあっさりCDを切ってラジオに切りかえました。今度は何も変な声は入ってきません。
まもなく、渋滞が始まりました。たいした渋滞じゃないけれど、高速を下りようかどうしようかと悩みながら森さんが、何気なくバックミラーを見たところ・・・・・・。
映っていたんだそうです。
後部座席に座っている、女の姿が。
驚くには驚いたものの、彼は見覚えのある顔だと気づいて、必死で自分の記憶を探りました。もちろん、前をちゃんと見ながらだったと本人は言っていたそうですけど。
そして、後ろに座る女性と、どこかの教室で会ったことがあるのを思い出しました。名前は知らないけれど、彼女も、さっきの女の子たちと同じ、飯田のとりまきの一人だったんです。
彼女は、はじめミラー越しに睨むようにしていましたが、やがて白目を剥いてのけぞってシートに寄りかかってしまったそうです。
森さんは事故ったら大変だからと、決して振り返らず、ミラー越しにだけ観察して、車の波に乗っていました。そして、出口の案内を見て、そこで下りることに決めました。乗せた覚えのない同乗者が、高速にしか出ないかも知れないと考えたからです。
すると、料金所も混んでいて、そこにとっくに先に行っているものと思っていた新車でハーレム状態の飯田の車がいたんだそうです。すぐ隣りの現金払いのレーンに。森さんの車は、飯田の親がつけていたんでしょう、ETCがついていたのでETCレーンで、飯田の方よりは早く進んでいた。
どこかサービスエリアにでも寄っていたんだろうなと思いつつ飯田の車の脇を通り過ぎてETCを抜けてそのまま青信号で、国道に出た。しばらくして信号に引っかかったのでミラーを覗くと、彼女の姿は消えていました。森さんは振り返ってみました。
彼女はいません。けれど、後部座席の彼女が首をのけぞらせていたところには、赤いシミが広がっていました。森さんが自分で選んで買った水色のシートに。
更に、髪の毛が数本、はらはらと落ちていたそうです。
狐につままれた思いで、彼は家に戻りました。
彼女が消えたようにシミや髪の毛も消えるんじゃないかと期待していたのに、それはそのままでした。
それで、森さんは家族に一部始終を話して、シートを髪の毛ごと捨て、その日は車の内外に塩を撒き、翌日きれいに掃除してそれでよしとしたんだそうです。
車を掃除して家に戻ってから新聞を見た彼は、飯田が料金所でみかけた直後に事故を起こしたことを知りました。
信号無視をした上にウィンカーも出さずにハンドルを切って、曲がりきれずに塀に激突。
飯田は重傷、女の子三人のうち助手席の一人が死亡、後ろの二人が軽傷と、新聞には書いてあったそうです。
その後、事故に巻き込まれた女の子二人から、噂が広まったそうです。
高速を下りる直前、彼女ら二人の間に、女が割り込んできたんだと。それは退学して実家に帰ったはずの元同級生で、飯田は料金所で支払いをした後、後部座席を見てパニックに陥った。そのまま車を急加速させて、事故になったんだと。
その噂を聞きつけた同級生らは、彼女が退学後帰ったはずの実家に連絡をしてみたところ、帰っていないと聞かされた。同じ高校から進学した同級生がいたんですね。実家の方では退学後もバイトがあるのでしばらく戻らないと言われていた。バイトはすでに退学と同時にやめていることを、同級生達は知っていた。
ベッドから起き上がれない飯田を締め上げて、事件は発覚しました。
飯田は、一人で子供を生んで育てるから大学を辞めるという彼女にうまく言って、子供のことを秘密にさせたまま、実家にはバイトを続けると説明させた。そうして、飯田は彼女が大学とバイトをやめた晩、彼女を絞め殺して、車で遺体を山に運び、埋めたのだそうです。
森さんにゆずった車で、死体を運んでいたんです。
彼女は、車に残っていたんでしょうね。それで、飯田に会って、まず車に現れて、料金所でまた会った時に飯田の車に移った。そうして、事故って。
彼女は一ヶ月ぶりに、土の中から地上に戻れたそうです。
この話を聞いて、僕はやっぱり、中古より新車がいいなと思いました。まあ、まだ稼ぎもバイト代程度ですから、車どころじゃないですけどね。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます