第4話 信州の山で己を試す

その後も高尾山で鍛練を積んだ俺は、GWは少し足を伸ばして、

長野県上田市で行われる登山競走に参加してみることにした。

異世界での移動は基本徒歩なので足腰を鍛えるためだ。

決して本場の蕎麦を食べてみたかったからではない。


GWの計画を桜小路に話すと、

「なんか田中山、最近生き生きしてきたな。」と言われた。

一方、桜小路はと言うと、新規プロジェクトのリーダーを任されてだいぶくたびれている。

以前おすすめした異世界転生のアニメが最近の唯一の楽しみなようで、

「俺も異世界転生したいわ~」が口癖になっている。

その言葉を聞いた時、なぜか胸の奥がざわついた。

そして、「俺と比べて社交的だし、料理だって作れることもあり、先輩なら異世界でもしっかり暮らしていけそうだな」と妙に現実的な想像をしてしまった。


相も変わらぬ忙しい日々が続き、あっという月日は流れ、念願のGWになった。


大会前日に前入りし、事前エントリーと食事を済ませ、上田市内のビジネスホテルに宿泊した。

こうした手続きや、遠地のビジネスホテルに泊まれるようになっただけでも自分としては大きな成長に感じる。


翌朝、ホテルのモーニングをしっかり食べて、大会のスタート地点である大星神社に向かった。

大会は標高700mの山を3.5kmかけて登る平均傾斜20度という過酷な登山競走だ。

この過酷なレースを完走すればかなり自信がつくはず。


地元の子供達による真田太鼓の演奏を後に、一人ずつ参加者達がスタートする。

太鼓の音が心臓の鼓動と重なり合い、身体中が響き渡るようなリズムにテンションが上がる。

俺は6番目のスタートで、高尾山で鍛えた健脚を持って勢いよく飛び出した。

最初はほぼ平地で、数百メートルもしないうちに前を走るランナーを捉えた。


しかしながらもう少し進むと、そこには絶壁のような山が立ち塞がった。

「どうやって登るんだ?」平均傾斜20度は伊達じゃない。

手強い障害物を前に立ち尽くしていると、

先ほど抜いたランナーが「お先」と言い、ひょいひょいと登っていく。

「この人忍者の末裔か?」と感心していると、後続のランナー達も次々と軽々登っていく。


少し経ってから登り始めたが、あまりの傾斜のため、しっかり踏ん張らないと転げ落ちてしまいそうになる。

その結果、あっという間にふくらはぎが硬直してしまい、腰掛けられる切り株を見つけストレッチとマッサージをする。

その後も登っては休憩、登っては休憩を繰り返し、1時間半に渡るふくらはぎの悲鳴との激闘になんとか耐え抜きゴールすることが出来た。


ここまで自分を追い込んだのは初めてだろうか。

おかげで異世界転生への自信もだいぶついてきた。

スタート地点の大星神社に戻り、本堂で参拝し、自信がついた事へのお礼を祈っていると、

『やはり異世界転生したいのか?』と言う声が聞こえてきた。

背筋がはっきりと冷えた。今度は気のせいではない。


どうやら来たるべき異世界転生への日も近づいてきた気がする。

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