第5話 家族の了承
丘の斜面に建つ家から駆け下りながら、少年はほとんど疲れを感じていなかった。
父にはすでに許しをもらっている。
嘘もごまかしもせず、ただ「友だちと少し歩いてくる」と言っただけだ。
父はそれ以上深く聞かず、手を振った。
「奥には行くなよ」
村の端では、すでに同年代の仲間たちが集まっていた。
皆十五歳。騒がしく、落ち着きがなく、生き生きとしている。
誰かは薪を縛る縄を直し、誰かは斧を誰が持つかで口論していた。
「なあ、みんな!」
少年が駆け寄りながら声をかける。
「何してるんだ?」
「別に」
一人が肩をすくめた。
「森の端まで行くだけさ。深くは入らない。
薪を集めに行くだけだ。父さんがそこまではいいって言ってたしな。
ほら……モンスターとかいるだろ?」
少年はうなずいた。
それは、彼も知っていた。
少しだけ間を置いて、何でもないことのように尋ねる。
「……果物は、まだ残ってるかな。
ほら、あの……」
仲間たちは顔を見合わせた。
「見つかれば分けてやるよ」
別の一人が言った。
「でも今は季節じゃない。
母さんたちも、今年はほとんど残ってないって言ってた」
少年は一瞬だけ視線を落とした。
だが、すぐに顔を上げる。
「たくさんはいらない」
「二つか三つでいい。小さくても」
「なんで?」
誰かが不思議そうに聞いた。
少年は言葉を探した。
「……試してみたいんだ」
やがて、そう答えた。
「どこでよく育つのか。
どんな土で、どんな光がいいのか。
もし移し替えられたら……種を残せたら……」
仲間たちは苦笑した。
「またお前の変な考えだな」
「そうかもな」
少年は否定しなかった。
「でも、もしうまくいったら……
この村でも育てられるかもしれない。
何年かに一度じゃなくて、いつでも」
短い沈黙が落ちた。
「まあいい」
年上の一人が手を振った。
「行こう。見つかったら、お前の分な」
少年は微笑んだ。
大げさでもなく、声に出すでもなく。
ただ胸の奥で、何かが静かに、確かに定まったような感覚だった。
彼はまだ知らなかった。
この小さな遠出が、長く記憶に残るものになることを。
だがその時すでに、彼は理解していた。
――どんなに小さな夢でも、
始まりは、森へ向かう数歩なのだ。
少年は仲間のもとへ戻ろうとして、ふと足を止めた。
一つだけ、守るべき決まりがあった。
父に何も言わずに出かけてはいけない。
彼は踵を返し、家へと急いだ。
庭では父がすでに働いていた。
馬具を点検し、畑へ向かう支度をしている。
今年の土は気難しく、手がかかる。
「父さん……」
父はすぐには振り向かなかった。
「どうした」
少年は少し間を置いた。
怖さではなく、敬意から。
「みんなと森の端まで行ってくる。
遠くは行かない。
薪集めと……少し散歩だ」
父は体を起こし、重い視線で彼を見た。
「畑の仕事がある」
静かに言う。
「分かっているだろう」
「分かってる」
少年はすぐにうなずいた。
「夕方までには戻る」
父は黙った。
「後にしろ」や「別の日に」と言いかけた、その時――
家から母が出てきた。
エプロンで手を拭き、二人を見る。
そして、すぐに状況を察した。
「行かせてあげなさい」
母はそう言った。
父は眉をひそめる。
「畑が――」
「畑は毎日でしょ」
母は遮った。
「でも、十五歳は一度きりよ」
彼女は近づき、何気ない仕草で夫の脇腹を軽く突いた。
「あなた、最後に友だちと“仕事じゃなく”歩いたの、いつ?」
父は鼻を鳴らした。
「……お前はいつもそうだ」
「だって、効くもの」
母は落ち着いて答えた。
父は深く、長く息を吐いた。
そして手を振る。
「……分かった。
行け」
少年は一瞬、信じられなかった。
「本当?」
「本当だ」
父はぶっきらぼうに言った。
「奥には行くな。
足元に気をつけろ」
母は微笑んだ。
少年はもう走り出していた。
背後から声が飛ぶ。
「暗くなる前に戻れよ!」
「分かってる!」
振り返らずに答える。
母はその背中を見送り、夫に言った。
「ね?」
「この子は、行かなきゃいけないのよ」
父は何も答えなかった。
ただ、森の方を――
必要以上に長く見つめていた。
少年の姿が柵の向こうに消えた頃、
母はあの笑みを浮かべて夫を見た。
「さて、あなた」
「私たちも……少し二人きりになりましょうか」
父はゆっくりと視線を向けた。
「……何だそれは」
「何って」
母は肩をすくめる。
「畑に行くんでしょ?
一緒に。
“家庭の相談”でもしながら」
父は目を細めた。
「わざとだな?」
「もちろん」
母は即答した。
「働きすぎよ、あなた」
父は、もう抗えないと悟った者のため息をついた。
「……危険な女だ」
「賢い女よ」
母はそう返し、先に歩き出す。
父は首を振りながらも、後を追った。
その頃、少年は仲間たちのもとへ戻っていた。
胸の鼓動が早い。
疲れではない。
――今日は、何かが違う。
森は彼らを迎え入れた。
樹脂の香り、湿った土、若葉の匂いが空気を満たす。
「じゃあ、行くか」
誰かがベルトを直しながら言った。
少年はうなずいた。
彼はまだ知らなかった。
この一歩が――
あまりにも普通で、あまりにも小さな一歩が、
もう二度と引き返せない道の始まりになることを。
だが今はただ、
友だちと並んで歩いていた。
木々へ。
影へ。
そして、人生で初めての“本当の選択”へ。
グリンドリンの物語 @SlownRain
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。グリンドリンの物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます