第21話 ブライトの切り札/魔人の進化

「ブライトアクア、それにアース……そうよね。あんたたちも来るわよね……!」


「私たちに感謝しなさい。あなたのせいで被害が出るところだったところを助けてあげたんだから」


「喧嘩は止めましょう。今は他に優先すべきことがあるでしょう?」


「アースの言う通りです。協力して、あの魔人たちを倒しましょう!」


「クソガキ共が……! 群れて調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 共闘の構えを見せる四人のブライトたちに対して、余裕を完全に失った初田が怒りを込めた叫びを上げる。

 流れ的には完全にブライトが有利だが、彼女たちに初田を倒させるわけにはいかない俺がどうするかを考えようとした瞬間、細やかな水弾が飛んできた。


「っとぉ!? 危ねっ!!」


「勘がいい。なら、これでどう?」


 牽制攻撃をギリギリで躱した俺に対し、ブライトアクアが次なる一手を打つ。

 頭上に水を集め、大きな水の弾を作り出す彼女の動きに警戒を強めていた俺であったが、そんな俺へとアモンが叫んだ。


『相棒、避けろっ!』


「っっ!?」


 その叫びに反応した俺が咄嗟に飛び退けば、地面から岩の拳が飛び出してきたではないか。

 あのままあそこに立っていたら手痛い一発を食らっていただろう。助けてくれたアモンに感謝しつつ、俺は心の中でアクアとアースの連携を賞賛する。


(最初の攻撃はわざと避けさせたのか。続けてアクアが強力な攻撃を繰り出すと見せかけて頭上に注意を向けさせてる間に、アースが地面から攻撃する。いいコンビネーションだ)


 複数人での戦い方を理解しているアクアとアースは、フレアとウインドにはない厄介さがある。

 勢いによる押せ押せ感はフレアたちの方が上だが、安定した強さと連携の上手さは彼女たちに軍配が上がるなと考える俺へと、アクアが言った。


「今の攻撃を初見で回避するだなんて、なかなかやるわね。フレアたちが取り逃がしたって言うのも納得した」


「なあ、俺はお前たちと戦うつもりはないんだ。あの魔人を倒せればそれでいい。だから、ここは退いてくれないか?」


「残念だけど、それはできないわね。敵意がないふりをしてこちらに取り入ろうとする魔人たちを何人も見てきたから、その手は通用しないわよ」


「それに、私たちはブライト……あなたたち魔人を浄化し、人々の脅威を取り除くことが使命。こうして出会った時点で、あなたを見逃すなんて選択肢は出てこない」


「まあ、そうだよな。そうなるよなぁ……」


 フレアよりも冷静な二人ならもしかしたらと思ったが、やはりブライトたちは魔人の言うことに耳を貸すつもりはないようだ。

 予想通りの展開にため息を吐きつつも状況を打破する方法を模索する俺は、横目で初田と戦う妹たちの様子を窺う。


「くっ! このぉっ!」


「ほらほら、どうしたぁ!? ブライトってのはその程度か!?」


「この魔人、速い! なかなか攻撃が……きゃあっ!」


(風花! くそっ! 初田の野郎、人の妹を好き勝手蹴りやがって……!)


 先ほどの民間人を巻き込みかけた攻撃を反省し、遠距離攻撃を封印しての近距離での戦いにシフトしたであろうフレアとウインドであったが、初田の高い格闘能力に苦戦しているようだ。

 強烈なキックを叩き込まれたウインドが吹き飛ばされる中、距離を取ったフレアが何かを取り出しながら言う。


「あんまり私たちを舐めないでよね! 今から本気であんたをぶっ飛ばしてやるんだから!」


 得意気にそう言うフレアの手には、スマートフォンのようなアイテムと一枚のカードが握られている。

 彼女が手にしているカードをスマホのスリットに通して読み込ませれば、どこかファンシーな効果音と共に謎の声が響いた。


『【ブースト】カード、メイクアップ!』


「はぁ? その玩具がいったい何を――!?」


 フレアの意味不明の行動を嘲笑していた初田であったが、次の瞬間にその余裕が消える。

 地面を蹴ったフレアが脚の裏から炎を噴き出させ、ジェット機のような加速を見せて突進してきたからだ。


「フレア・ブーストパンチ!!」


「なっ!? がはあっ!!」


 完全に油断していた初田が腹部にいい一撃を食らい、大きく吹き飛ばされる。

 ふんっ! と鼻を鳴らしながら得意気な表情を浮かべるフレアの様子を見ていたであろうアモンが、感心したように呟いた。


『はえ~! カードの中に能力を封じておいて、必要に応じて解放するブライトカードシステム……実際に見たのは初めてだけど、すげー力だな~!』


「感心してる場合じゃないだろ。その力、使えるのはフレアだけじゃねえんだからよ」


 いまいち緊張感が足りない悪魔の呟きにツッコミを入れながらアクアとアースへと視線を向ければ、彼女たちも当然のようにカードを取り出していた。

 そのままスマホにカードを読み込ませて能力を発動した二人は、より激しい攻撃を俺に繰り出していった。


『【ウィップ】カード、メイクアップ!』


『【ハンマー】カード、メイクアップ!』


「おいおいおい、もうちょっと手加減してくれてもバチは当たんねえだろ!?」


「魔人を甘やかす趣味はない。フレアたちより早く、あなたを倒す」


 フレアに対抗心を持っているであろうアクアが水で作り出した巨大な鞭を振るい、俺を追い詰めてくる。

 同時にアースが岩で作り出したハンマーを振り回しての攻撃を繰り出し、俺は二人の攻撃を回避するので精一杯になっていた。


『どうする、相棒!? このままじゃ妹ちゃんたちがあっちの魔人を倒しちまうぜ!?』


「わかってる! お前こそ、なんかとっておきの切り札とか用意してねえのか!?」


『そんなものあったらとっくに使ってるって! 気合いだ、相棒!』


 肝心な時に役に立たないアドバイスをしてくるなと思いながら、俺は懸命に打開策を探す。

 ここでブライトたちに攻撃を加えるのは避けたいが、もうそれ以外に方法はないか……? と最後の手段に出ることを考える中、俺以上にボコボコにされている初田の叫びが響いた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!! てめえら、俺を見下しやがって!! カスみたいなメスガキがっ! 俺より上に立つんじゃねえぇぇぇっ!!」


「なっ!? まさか……っ!!」


 怒りの咆哮を上げた初田の体の色が、猛烈なスピードで変化していく。

 鮮やかな緑をしていた体が濁った茶色へと変わっていくと共に、初田が放つプレッシャーが跳ね上がっていることを感じた俺たちの耳に、奴と契約している悪魔の歓喜の声が響いた。


『素晴らしいぞ! こんなにも早くを果たすとは、やはりお前の中にある傲慢さを見初めた俺の目に狂いはなかった!』


「ひれ伏せ……! 俺の足元に這いつくばって死ねぇえっ!!」


「きゃ――っ!?」


 激情のまま、自分を殴り飛ばしたブライトフレアへと飛び掛かった初田の一撃は、音を置き去りにした。

 フレアの悲鳴が響くよりも早く彼女を蹴り飛ばした初田は、そのままブライトウインドへと標的を変える。


「マズい……! ウインドっ!」


 アースが叫んだのと、跳躍した初田が上空からの踵落としを繰り出したのはほぼ同時だった。

 どうにか防御の構えを取ったウインドだったが、初田はその守りすらも打ち砕きながら彼女を踏み潰すように脚を振り抜く。


「がっ、はぁ……っ!! ぐ、うぅ……!」


「ふ~っ! ふ~っ! ……大人を、舐めるなよ。お前たちみたいなガキが、俺に勝てるわけねえだろうが……!!」


「負け、ない……! あなたたち魔人の、好き勝手にはさせない……!」


 初田の脚元に這いつくばり、腹を踏まれた状態でも、一切の弱音を吐かないどころかブライトとして守る者の意地を見せるウインド。

 産まれるはずだった兄を奪われた両親が悲しむ姿を見続けてきたからこそ、同じ悲劇を繰り返させるわけにはいかない……悲しみを広げないために自分は魔人に立ち向かうのだと、そんな想いが妹を奮い立たせていることは一目でわかった。


 しかし、その態度は初田の神経を逆撫でするだけだ。

 奴が見たい『人が絶望し、落ちていく姿』とは真逆、足元に這いつくばりながらも決して折れずに立ち向かおうとするウインドの姿は、傲慢な初田のプライドを激しく傷付けた。


「どこまでも頭に来る奴だ……! もう許さねえ。かわいい顔も全身も、ぐっちゃぐちゃのバキバキにしてやるよ!」


「マズいっ! ウインドっ!!」


 ウインドの態度に苛立ちを募らせた初田が、リフティングでもするように彼女を蹴り上げる。

 その息の根を止めるために、ふわりと浮いた小さな体に渾身のキックを叩き込もうとする奴の動きを目にしたアクアが悲鳴を上げ、人々もまた最悪の事態を想定して息を呑む。


「死ねっ! 魔法少女っ!!」


 叫びを上げながら、初田が全力で脚を振り抜く。

 奴の蹴りがブライトウインドに直撃するその瞬間……俺はその間に割って入り、代わりに初田の一撃を受け止めた。


「えっ……!?」


 その行動にブライトたちや戦いを見守っていた人々が驚きの声を漏らす。

 魔人が天敵であるブライトを庇ったのだから、驚くのも当然だろう。


 初田もまた俺の予想外の行動に困惑し、完全に固まっていた。

 そんな奴の前で、傷付き倒れるブライトウインド……風花の姿を見つめながら、俺は低く唸る。


「……胸糞悪いことしてくれやがって。おかげで、最悪の場面を思い出しちまったじゃねえか」 


 傷付き、倒れる風花。身勝手な人間たちの行動のせいで助かったはずの妹の命が消されたあの日の苦しみが、蘇ってくる。

 直後、それを塗り潰すほどの黒く熱い衝動……憎しみと怒りの感情が俺の心を満たす。


 当然、風花をここまで傷付けた初田は憎い。だが、それ以上に……俺は自分自身に激怒していた。

 ここまで風花が傷付くまで、俺は何もできなかった。目の前で妹が嬲られる様をただ見ていることしかできなかった自分への怒りは、殺意の域にまで達しつつある。


 その憤怒が、感情の暴走が……俺の内側にある凶暴な何かを目覚めさせた。

 ドス黒く渦巻く殺意と怒りが組み合わさった炎が全身から噴き出し、俺の体をより禍々しい姿へと変えていく。


『なんだ、これは……? これほどまでの憤怒を燃え上がらせる人間が、存在しているというのか!?』


 初田と同化している魔人の声が聞こえたような気がしたが、もうどうでも良かった。

 静かに、だが激しく怒りを滾らせた俺は、固まっている初田を見つめながら言う。


「【高所中毒症クライマーズ・ハイ】初田兆次……お前は、俺が殺す」

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