第20話 三人目、四人目の魔法少女

 変身の合図と共に、地面から噴き出した炎が俺を包む。

 その勢いのままに飛び出した俺は、ブライトウインドに蹴りを繰り出そうとしている初田へとあべこべに蹴りを叩き込んでやった。


「ぐえっ!? んん? お前は……!」


「あっ、あなたは! この間の、赤い魔人……!!」


「……下がってろ。あいつは、俺の獲物だ」


 妹の無事を確認しつつ、正体が露見しないように敢えて突き放した態度を取る。

 そうしてから初田へと向き直った俺は、立ち上がった奴と敵意を剥き出しにしながら睨み合った。


「誰かと思えば【復讐者リベンジャー】くんじゃあないか。君が介入してくるとは、ちょっと予想外だったよ」


「その割には嬉しそうじゃねえか。心にもないことを言ってんじゃねえよ」


 あいつが殺そうとした子供を助けた時点で初田も俺の存在に気付いたと思っていたのだが、どうやらそうではなかったようだ。

 着ぐるみの中にいたせいで視界が悪かったのか、あるいはそもそも他者に興味がなかったのかはわからないが、それでも今の初田からは俺と遭遇したことへの喜びが感じ取れる。


 準備運動でもするかのように小刻みにジャンプし、こちらを窺う初田を油断なく見つめていた俺であったが……突然、奴の姿が消えた。

 次の瞬間には地を這うような低空ジャンプで飛び掛かってきた初田のタックルが炸裂し、奴に押し込まれた俺の口から呻きが漏れる。


「ぐっ……!」


「気に喰わなかったんだよ、お前。僕はB級なのに、S級だなんて分不相応な扱いを受けちゃってさぁ……! お前みたいなガキが、俺を見下ろすんじゃあねえ!!」


 至近距離から俺へと言葉を吐き捨てた初田が、そのまま回し蹴りを繰り出してくる。

 首を狙ったその一撃はどうにかガードできたが、丸子とは比較にならない格闘能力を見せる初田の力に俺は警戒を強めていった。


『相棒。あいつと契約したのはバッタの悪魔、バズーだ。ゲネガみたいな特殊な能力は持ってないが、その分跳躍力をはじめとした脚力の強化量は半端じゃねえぞ』


「しかも、人間の方は鍛えられた元アスリートときた。こりゃあ、厄介な組み合わせだな」


 クライマーとして全身を鍛えていた初田と、脚部を重点とした身体能力の強化に特化したバズー。

 この組み合わせは丸子とゲネガのそれとは段違いに厄介だと舌を巻く俺であったが、そこにさらなる悩みの種が飛んでくる。


「フレア・バーンショット!!」


「んっ? おおっとぉ!?」


「ちっ! やっぱ来ちまったか!」


 頭上から響いた声に続いて、炎の雨が降り注いでくる。

 初田と共に後方に飛び退くことでそれを回避した俺は、地面に降り立つブライトフレア……火蓮の姿を目にして、舌を鳴らした。


「フレア! 来てくれたのね!」


「遅くなってごめん、ウインド。それで、これはどういう状況?」


 駆け付けた先で二体の魔人が争っている状況に流石のフレアも困惑しているようだ。

 ここで共闘できればかなり楽なのだが、二人(特に火蓮)が魔人である俺の話に耳を傾けてくれるとは思えない。


「あっ! あんた、この間の悪魔じゃない! また出てきたのね!?」


「よお、数日振りだな。顔見知りとして頼むんだが、黙って見ててくれねえか?」


「そんなことできるわけないでしょ? 前回は逃がしたけど、今度はそうはいかないから! ここで二人まとめて浄化してあげるわ!」


 そうなるよな、と予想通りの返答に俺は苦笑するしかなかった。

 笑ってる場合じゃないと思いつつも、ここからどう立ち回るべきかと考える俺の前で、不意打ちを食らって苛立ったであろう初田が声を上げる。


「お前……! 俺より上に立ったな? 許せない……許さねえぞ、このガキっ!!」


「誰がガキよ!? 言っておくけど、許さないのはこっちの台詞だから!」


 初田の言葉を受けたフレアが標的を変える。

 そのまま飛び掛かってきた初田を迎撃するように、フレアは生み出した炎を奴に向かって撃ち出した。


「食らいなさい! フレア・バーンフレイム!!」


 先ほどの分散させた炎ではなく、一つの大きな塊になった炎が突っ込んでくる初田に向けて放たれる。

 ジャンプしている奴に回避方法はない。このまま初田は自らフレアが作った炎にぶつかりに行くと、俺もそう思っていたのだが――


「甘いんだよ、クソガキぃ!」


「えっ!?」


 何と初田は空中で方向を変え、飛んでくる炎を回避したではないか。

 地面ではなく空を蹴っての二段ジャンプを見せた奴の動きに驚きを隠せない俺たちであったが、それ以上の問題があることに気付く。


「ヤバい! さっきの炎が!」


 ブライトフレアが放った炎が逃げ惑う人々へと飛んでいく様を目にした俺は、慌ててそれを追いかけた。

 このままでは逃げ遅れた人たちに攻撃が当たってしまう、どうにかしなければ……と焦る俺の耳に、凛とした声が響く。


「アクア・ハイドロウォール!」


「えっ……!?」


 その声に続き、突如として出現した水の壁がフレアの炎を受け止める。

 突然の事態に驚く俺であったが、それに続いてまた別の声が響いてきたではないか。


「アース・ロックブラスト!」


「うっ! うおおおおっ!?」 


「ぐうっ!?」


 飛んできた岩の砲弾を回避し切れなかった俺と初田が共に直撃を受け、膝をつく。

 頭を振って動揺と痛みを鎮めた俺は、予想外の事態に困惑しながら何が起きたのかを把握すべく顔を上げた。


(水と岩だと……? おいおい、まさか……!?)


「危ないところだったわね、フレア、ウインド」

 

「魔人じゃなくて自分の行動で勝手にピンチになるとか、本当にあなたは思慮が浅い」


 どこか聞き覚えのある声の主たちへと視線を向けた俺は、そこに立つ青と黄色の魔法少女たちの姿を見て、小さく息を飲む。


 ただでさえ厄介な状況なのに、第三、第四のブライトが乱入してくるとか、今日は間違いなく厄日だ。

 それに多分、あの二人は……と考えたところで、自分の失態をカバーしてもらったフレアが苦虫を嚙み潰したような表情で呻いた。

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