第18話 第三の特別犯罪者

『感じたか、相棒?』


「ああ、こっちだな」


 悪臭の元を辿って歩き出した俺は、近くの茂みに目をやった。

 草木を掻き分けてその奥に進んでいけば……想像通りの、いや、想像以上にひどい惨状が目に飛び込んでくる。


『こいつはひでえ……必要以上に痛めつけてやがる……!』


 腕や脚が異質な方向に折れ曲がっている、人の形をしている何か。

 全身が血だらけで、しかも頭部が陥没しているそれは間違いなく人間だったものだ。


 この遺体の状況から察するに、被害者は撲殺されたのだろう。

 そして、人間の力ではここまで遺体を損壊させることはできない。明らかに魔人の犯行だ。


『相棒、こいつをやった奴は相当クレイジーだ。犯行がここまで露見しなかったことから考えるに、この男は悲鳴を上げる暇もなく殺されたと考えるべきだろう。頭部が陥没するほどの一撃、こいつが致命傷になったはずだ』


「だが、犯人はその後も遺体がボロボロになるまで痛めつけ続けた。この男に相当の恨みがあったんじゃなきゃ、かなりのサディストだな」


 詳しい犯行の内容は不明だが、遺体の状況から察するに犯人はこいつを殺した上で遺体への攻撃を続けている。

 しかし、頭部への一撃以外は全身をくまなく殴打している状況からは、この男への憎しみよりも遺体をサンドバック代わりに使う愉悦の方が強く感じ取れた。


(また特別犯罪者の仕業か。だが、どうしてこの男を狙った……?)


 無差別殺人ならばもっと人が少ない場所で行えばいい。遺体を隠していることから考えても、犯人は自身の犯行を隠したがっているはずだ。

 それなのに、どうしてわざわざ人が多いバザー会場を選んだのかと……そう考えた俺は、そこで死んでいる男の服装を見て、あることに気付いた。


「そういうことか……! だとしたら、マズい!!」


『どうしたんだ、相棒!? 何か気付いたのか!?』


 この男が殺された理由から一気に犯人の目的まで理解した俺は、全力で会場へと走り出した。

 バザー会場でとあるものを探す最中、俺はアモンへと自分が気付いたものの説明をする。


「血で汚れてて気付くのが遅れたが、殺された男が着ていたのはハイネックの長袖シャツと足首が隠れるくらいに丈が長いジャージ、しかも上下同じ白でご丁寧に軍手まで着けてた。あれはだ。犯人の目的は、あの男から着ぐるみを奪い取ることだったんだよ!」


 着ぐるみの中に入る時は、着ぐるみが汗を吸わないように徹底的に肌の露出を控える服装になるとアルバイトをしていた友人から聞いたことがある。

 殺された男の特徴はそれと一致していた。つまり犯人は、会場に紛れ込むために着ぐるみを必要としていたから、あの男を殺したのだ。


 ……いや、違う。ただ会場に紛れ込むだけならばわざわざ着ぐるみを奪う必要はない。

 犯人の真の目的は……と考えた俺の目に、子供を抱えるウサギの着ぐるみの姿が飛び込んできた。


「ほ~ら、高い高~い!」


「わ~い! すごいや!」


「あははははっ! 喜んでくれて僕も嬉しいよ! じゃあ、次は思いっきりやってあげよう!」


 子供を持ち上げて楽しませるウサギの着ぐるみが、声を弾ませながら言う。

 周囲の子供たちも楽しそうにそのウサギを見つめている、一見すると微笑ましい光景ができあがっていた。


 しかし、その着ぐるみの中身が誰であるかも、その目的も理解している俺は、全身の毛が逆立つほどの危機感を感じている。

 着ぐるみと子供たちの下に駆け寄りながら、俺はそこにいる人々に大声で叫んだ。


「ダメだっ! そいつから離れろっ!!」


「えっ……?」


 俺が叫んだその瞬間、ウサギの着ぐるみが地上から消えた。

 誰もが状況を飲み込めずに困惑する中、離れた位置から全てを見ていた俺は頭上を見やる。


 そこには、子供を抱えたまま本物のウサギのように跳躍した着ぐるみの姿があった。

 軽く二十メートルは跳んでいるであろうウサギは、何が起きたのかわからずに固まっている子供を空中でじっと見つめている。


 やがて、自分が途轍もなく高い場所に連れてこられたことを理解し、恐怖に表情を染め上げ始めた少年へと、ウサギは愉悦を滲ませた声で言った。


「ほ~ら、他界他界たかいたか~い……!」


「わっ、わああああっ!?」


「くそっ!!」


 ジャンプの最大地点でウサギが抱えていた子供を放り投げる様を目にした俺は、その落下地点へと猛ダッシュした。

 頭から落ちていく男の子が助けを求めるようにこちらを見つめる中、その落下地点に飛び込んだ俺はギリギリのところで彼をキャッチし、そのまま地面を滑っていく。


「なっ、なんだ!? 何が起きた!?」


「人が! 子供が落ちてきたぞ!」


「おい、君! 大丈夫か!?」


「俺は平気です。それより、この子を……!」


 一気に異変を感じ取った人々が騒ぐ中、俺は周囲の大人たちに受け止めた男の子を預ける。

 どうにか地面に激突する前に捕まえることができたが、それでも怪我は避けられない。気を失っているし、できるだけ早く安全なところに連れて行ってもらいたかった。


(とは言っても、安全な場所なんてないかもしれねえけどよ……!)


 上手く人ごみに紛れながら、俺は子供を放り投げたウサギの着ぐるみへと視線を向ける。

 人間を遥かに超えた跳躍力を見せたそいつは、この異常事態の中で実に楽しそうにステップを踏んでいた。


「ふんふふ~ん! ふふふふ~ん……!」


「あ、あいつ、今、滅茶苦茶跳んだよな……?」


「魔人だ……! あの着ぐるみ、中身は魔人だぞ!!」


「大・正・解!! さて、もう邪魔だしこれも脱いで、素敵な僕の姿をお披露目しましょう!」


 ビシッ、と話し合う人々を指差したウサギの着ぐるみを内側から破るように腕が飛び出してくる。

 そのまま一気に破壊された着ぐるみの中から、アフロヘアーの筋肉質な男が姿を現した。


「ん~、スッキリ! はじめまして皆さん。驚異のクライマー、初田兆次はつだ ちょうじですっ! 趣味はフリークライミングと子供殺し! というわけで、良い子のみんな~! 集まれ~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る