第17話 どうやらこの世界の俺は死んでるみたい
「どうですか、大神さん。うちのお団子はお口に合いましたか?」
「すごく美味しかったです。ご馳走してくださってありがとうございます」
「あらあら~! 喜んでいただけてこちらも嬉しいです~! あ、お茶どうぞ~!」
『相棒! ズルい! 俺も食べたい! 俺も!』
風花と共に土筆の店(といってもバザーのために用意されたテントだが)の休憩スペースに案内してもらった俺は、そこで和菓子を食べて一息ついていた。
温かいお茶を飲みながら、先ほどの火蓮と水希並みに騒がしいアモンを落ち着かせるように持ち帰り用にどら焼きを確保していることをアピールする中、土筆が口を開く。
「それにしても、立花さんのお店にいつの間にかアルバイトさんが入ってたんですね~。ここ最近行ってないから、全然知らなかったわ~」
「岩本さんも常連客なんですね。もしかして青柳さんもですか?」
「ふふふ……! 土筆、でいいですよ。年上の人から敬語を使われると少し緊張しちゃいますので。はい。とは言っても、風花ちゃんたちほど頻繁に行くわけではないですけどね」
おっとりと笑う土筆が俺の質問に答える。
そこに補足するように、今度は風花が口を開いた。
「土筆さんと水希ちゃんは西地区の高校に通ってるんです。立花さんのお店は東地区にあるから、ちょっと足を伸ばさないといけないんですよね」
「なるほどな。対して風花たちは東地区の学校だから、その気になればいつでも店に来れるってわけか」
このバザーも東と西の地区合同で開催されていたなと振り返った俺が頷く。
そうした後、俺はまた別の質問を二人に投げかけた。
「それにしても、火蓮と水希はどうしてあんなに喧嘩ばかりしてるんだ? 本当に仲が悪いって感じじゃなさそうだが……?」
「あ~……色々あるんですよ。でも、大神さんが言う通り、すっごい険悪ってわけじゃあないんです」
「お互いにライバル視してたり、思うところがあるみたいね。まあ、さっきも言ったけど、喧嘩するほど仲が良いってやつだと思ってくれれば大丈夫ですよ~」
あの二人の間には過去に何かあったのだろう。風花が言葉を濁しているところから察するに、あまり言いたくない話のようだ。
だが、流石の俺も本当に仲が悪い女性同士がどんな雰囲気かは理解している。火蓮と水希はそれとはかけ離れた感じだし、そう深刻な話ではないのだろう。
「お茶、おかわり持ってきますね。少し待っててください」
そんなおしゃべりをしている間に、お茶が切れてしまったようだ。
気を利かせてくれた土筆に感謝しつつ彼女を見送ったところで、不意に風花が緊張した面持ちで声をかけてきた。
「あの、大神さん……火蓮ちゃんのこと、怒ってませんか?」
「え……?」
「その、出会った時から火蓮ちゃんは大神さんに失礼な態度を取り続けてますし、さっきも怖い顔だとかハンデだとか色々言ってたから、大神さんも怒ってるんじゃないかって……」
『う~ん、妹ちゃんはいい子だな。お友達のことも相棒のことも気にかけてる』
悪魔に褒められると微妙な気分にはなるが、実際アモンの言う通りだ。
俺のことも、火蓮のことも心配してくれているであろう風花へと、俺は緩く微笑みながら言う。
「気にしてないさ。実際、俺は素性のわからない怪しい人間だからな。顔が怖いのも事実だし、火蓮が警戒するのも当然だ」
「……ありがとうございます。大神さん、やっぱりいい人ですね」
「どこからどう見ても悪人面だけどな。まあ、褒めてもらえて嬉しいよ」
少しおどけてみせる俺だが、自分を善人だとは微塵も思っていない。
俺は元の世界で六十六人を殺し、こっちの世界でも既に二人の人間を手にかけた立派な殺人鬼だ。
そんな俺がいい人間であるわけがないと思う俺へと、静かに息を吐いた風花が言う。
「大神さん、大切な人を失う悲しみはわかるって言ってましたよね? 家族を失った、って……」
「……ああ」
「……私たちもなんです。魔人に大切な人を傷付けられて、苦しんだことがあります」
思わぬ告白に、俺は驚いて風花を見つめた。
そんな俺の方は見ずに、地面を見つめるように俯きながら、風花は話を続ける。
「とは言っても、私はまだマシな方です。私が産まれる前、母は魔人が起こした事件に巻き込まれて……当時妊娠していた子供を流産してしまいました。本当だったら、私には兄がいたんです」
「……!!」
「父も母も、当時はかなり気落ちしたと言っていました。今でもその日のことは夢に見るって……悲しそうに語る両親や産まれてくるはずだった兄のことを想うと、胸が締め付けられるくらいに苦しくって……だから、大神さんの気持ち、理解できるんです」
そう語る妹の横顔を見ながら、俺は不意打ちで聞かされた自分がこの世界にいない理由にショックを受けていた。
この世界の俺は産まれる前に死んだ。想像以上に衝撃的なその事実に言葉を失う俺へと、風花が言う。
「火蓮ちゃんもそう……お母さんが魔人に襲われて、命は助かったけどもう何年も眠り続けたままなんです」
「……警戒心が強かったり過激な言葉を使うのは、そんな過去があったからか」
こくり、と俺の問いかけに風花が頷く。
風花もそうだが、火蓮もかなりつらい経験をしてきたのだろうと、そう考える俺の耳に風花の呟きが響いた。
「でも、火蓮ちゃんが大神さんに強く当たるのは、きっと……」
「え……?」
意味深なその呟きに思わず反応すれば、風花ははっと目を大きく見開きながら息を飲んだ。
多分、自分でも気付かない内に声に出していたのだろうと、そう察した俺は立ち上がりながら妹に言う。
「悪い、ちょっとトイレに行ってくる」
「あっ、は、はい……」
風花も俺が話を切り上げようとしていることを理解してくれたのだろう。先の自分の失言に対して何も言うことなく、ただ頷いてくれた。
そのままトイレへと歩き出した俺へと、今度はアモンが話しかけてくる。
『大丈夫か、相棒? さっきの話、かなりショックだっただろ? 心がざわついてたぜ』
「まあな。でも、この世界に俺がいない理由がわかって、逆にすっきりしたところもあるよ。どっちかって言えば、風花たちが家族を失ってることの方がショックだったかな」
もしかしたら……いや、もしかせずとも、風花がブライトとして戦っているのには、俺の死が関係している部分もあるのだろう。
兄を失ったということよりも、そのことを悲しむ両親の姿を見続けてきたからこそ、その悲しみを広げたくないと風花は思った。
妹はそういう優しい人間だと……別世界ではあるものの、風花の性格を理解している俺は、その優しさが妹を戦いに飛び込ませてしまったことに少なからずショックを受けている。
(でも、それが風花なんだ。あいつがそう決めたなら、その道を邪魔することは俺にはできな――っっ!?)
改めて、妹が魔法少女として人類の脅威と戦っている事実を受け入れようとした俺であったが、その途中で心がざらつくような気配を感じ取った。
いや、感じたのは俺じゃない。俺と一体化しているアモンの心のざわめきが伝わってきたのだ。
同時に警戒モードに入った俺が神経を集中させて周囲を窺えば、微かに鉄のような不快な臭いが漂っていることに気付いた。
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