第14話 side:魔法少女『いい人?悪い人?気になる彼と赤い悪魔!』

「くうぅ……! 魔人を逃がすなんて、なんて失態……!」


「でも、連れ去られたお母さんたちは無事だったんだから良かったじゃない。まずはそこを喜ぼうよ」


 商店街で母親たちを連れ去った魔人を追跡し、どうにか彼女たちを助け出した私たちであったが、現場にいた赤い魔人を取り逃してしまった。

 まともに戦いもせず、逃げの一手を打ったあの魔人の目的は何なのか? それを考える私へと、風花が言う。


「ねえ、火蓮ちゃん。逃げたあの魔人は誘拐犯じゃないよね? だとしたら、私たちが商店街で見た魔人はどこに行ったのかな?」


「わからないけど、折角連れ去った人たちを残して消えるだなんて妙よね。何が目的だったかもわからないし……」


 商店街で目撃した背びれを持つ魔人とあの赤い魔人はどう見ても似ても似つかない。

 別個体と考えるのが自然だが、だとすればあの場で二体の魔人は何をしていたのか? そして、誘拐犯の魔人はどこに消えたのだろうか?


 あの二体が手を組んで何かをしようとしていたとするならば、母親たちを現場に残したことも赤い魔人が逃げの一手を打ったことも不可解だ。

 一番納得がいく説明があるとすれば……と考えたところで、風花が私と同じ結論を声に出して言う。


「あの赤い魔人が誘拐犯から連れ去られた人たちを助け出した、ってことかな……?」


「まさか、あり得ないわよ。そんなことして何になるっていうの?」


「でも、それが一番あり得る話でしょ? 赤い魔人の目的は連れ去られた人たちを助けることで、私たちが駆け付けた時にはそれを達成してた。だから、その後、私たちと戦うこともせずに逃げ出した……辻褄が合うじゃない」


 風花の言う通りだ。確かにこの説明ならば辻褄が合う。

 魔人が人助けをするだなんてあり得ないとは思うが、魔人同士が潰し合って戦ったという事態は何件か報告を受けているし、今回もそうだったのかもしれない。


 母親を助け出したのは結果論で、赤い魔人は何かの目的があって誘拐犯の魔人を倒そうとやって来た。

 では、その目的は何なのかと考えた私は、あいつが何か黒いものを握っていたことを思い出す。


(あれは何だったの? 最終的には持ち去ったみたいだったけど……)


 煙に巻かれたせいでよくわからなかったが、赤い魔人は黒い何かを持って逃げ去ったみたいだ。

 あれがあの魔人の目的なのではと……そう思ったところで商店街に戻ってきた私たちは、そこで子供たちを励ます友人たちとあの男の姿を目にした。


「大神さん! 無事だったんですね! 良かった……!」


 無鉄砲にも魔人を追って駆け出した大神怜仁が戻ってきていたことに安堵する風花。

 どうにもあの男に情を寄せ過ぎている親友にため息を吐きながら、私も彼に言う。


「あんた、何やってんのよ!? 魔人を一人で追うとか、危な過ぎるでしょ!?」


「悪い。体がつい動いちまってさ。結局、振り切られて戻るしかなかったし、意味ないことしちまったな」


「まったく……動くんだったらまず警察に通報とかでしょ? 一市民のあんたにできることなんてたかが知れてるんだから、危険な真似は避けなさいよね」


「……ありがとな、心配してくれて。以後、気を付ける」


「はぁ? 心配なんてしてないんだけど!? 勝手な妄想は止めてよね!」


 小さく微笑みながらの大神の言葉に、私は大声でそう返した。

 風花も大神に似た笑みを浮かべながらこちらを見ていて、二人そろって変な目で見られるとむずむずする。


「ところでお前たちはどこに行ってたんだ? なんか、結構前からいなくなってたみたいだけど?」


「えっ!? えっと、警察に通報するために被害状況を確認してたのよ! 他にも連れ去られた人がいたかもしれないでしょ!?」


「そういう情報があった方が警察の人たちも助かるって言ってましたから! 危なくない範囲でできることをしようかな~って……!」


「はぁぁ、なるほどな」


 いきなりの大神のツッコミに慌てる私たちであったが、なんとか口裏を合わせて誤魔化すことができた。

 妙に鋭いな、こいつ……と大神を見つめる中、泣いていた子供がぼそりと呟く。


「ママ……ママ……早く帰ってきて、ママ……」


「だ、大丈夫よ! 警察の人が言ってたけど、あなたたちのママは無事に救助されたって! ブライトが魔人を倒してくれたみたいね!」


「ほ、本当!?」


「うん! だから心配しないで! すぐにママに会えるはずだよ!」


「そうか、良かったな……!」


 私たちの話を聞いた子供たちがぱあっと笑みを浮かべ、大神も優しい笑みを浮かべる。

 子供たち以上に嬉しそうな笑みを浮かべる彼の様子が気になった私は、質問を投げかけてみた。


「なんか嬉しそうね。気持ちはわかるけど、どうしてそこまで喜ぶわけ?」


「……家族を失った時の苦しさを知ってるからかな。大切な人がいなくなる悲しみは、痛いほどわかってる」


「えっ……?」


 その口から飛び出してきた答えに、私と風花が言葉を失う。

 名前以外何もわからないこの男の過去をわずかに覗いてしまった私たちが押し黙る中、大神は言った。


「誰かの身勝手な欲望のために、この子たちの笑顔が壊されるなんて間違ってる。これ以上、この子たちの涙を見たくなかったから……魔人が倒されて、本当に良かった」


 そう語る大神の過去に何があったのかはわからない。

 ただ、今の彼からは嘘や演技のようなものは感じられなくて、全て本心からの言葉のように思える。


(怪しい奴だけど、悪い人間じゃあないのかもしれない。でも――)


 頭ではそう思っても、心がこの男に対する警戒を緩めることを許してはくれない。

 そんな自分自身のことを情けなく思いながら俯く私のことを、風花が心配そうに見つめていた。

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