襲来!マザコン殺人鬼!

第9話 守りたいと思うもの、妹の幸せ

『相棒、体の調子はどうだ? もう大丈夫か?』


「相棒って言うな。朝方は最悪だったけど、大分回復したよ」


 この世界に転移して三日目の夕方、俺は立花さんに頼まれて近くの商店街に買い出しに出かけていた。

 昨晩、悪魔の種をもう一つ取り込んだことで相当しんどい目に遭ったが……今ではすっかり体調も元通りになっている。


 朝の目覚めは最悪で、顔色の悪さを見た立花さんにもかなり心配されたが、悪い夢を見たの一点張りでゴリ押した。

 そこから徐々に回復し、正午の段階で立花さんにコーヒーの淹れ方を教わったりするくらいにはなっていたし、今ではこうして買い物にも出かけられるようになっている。


『悪魔の種二つを取り込んでこの回復の早さ……流石だな』


「あんま褒めてもらっても嬉しくないが、ありがとうって言っておくよ」


 アモンの賞賛にそう応えつつ、買い物リストを確認する。

 必要な物はこれで全部だなと頷き、店を出たところで、背後から声をかけられた。


「大神さん? 大神さんですよね?」


「ん……?」


 昨日名乗った偽名で呼ばれた俺が振り向けば、そこには制服姿の風花と火蓮、そして二人の友達と思わしき女子高生たちの姿があった。

 小走りでこちらに駆け寄ってきた風花は、ぱあっと明るい笑みを浮かべながら俺に言う。


「奇遇ですね! お店の買い出しですか?」


「ああ。亜門さんは学校帰り?」


「風花でいいですよ。ちょっとみんなで寄り道していこうかって話になりまして……」


 そう言いながら恥ずかしそうに笑う風花の手には、クレープが握られている。

 下校途中に楽しく買い食いかと頷く俺へと、今度は火蓮が声をかけてきた。


「あんた、また風花を変な目で見てない? やっぱ油断できない男ね……!」


「ちょっと火蓮ちゃん! だから、大神さんに失礼だって!」


「何々~? その人、風花たちの知り合い?」


「もしかして風花の彼氏とか!?」


「違うって! もう! みんな、勝手なこと言わないでよ~!」


 友達にからかわれ、頬を膨らます風花であったが、少し楽しそうでもあった。

 そんな風花のことをじっと見つめる俺に対して、アモンが声をかける。


『相棒、どうしたんだ?』


「いや……嬉しかったんだ。妹が、こんなふうに友達とはしゃいでる姿が見れたことがさ」


 俺が知る風花は病弱で、こんなふうに友達と買い食いしながらはしゃぐことも難しかった。

 だが、こちらの世界の風花は普通の女子高生そのもので……友達に囲まれ、楽しそうにしている妹の笑顔を見ると、胸が温かくなる。


 魔人と戦う魔法少女としての使命を背負っているのかもしれない。

 だが、それでも……こうして妹が平穏で幸せな日常を過ごしていることを知れたことが、兄としては嬉しかった。


『……やっぱ、頑張らなきゃな。妹ちゃんだけでなく、この平和な日々を守るためにさ』


「……ああ」


 この商店街にはたくさんの人たちがいる。俺と同じように買い物に来た人もいれば、客に物を売る店員もいるし、家に帰る途中のサラリーマンだっている。

 手を繋ぎ、楽しそうに笑い合いながら歩く親子の姿を見たであろうアモンの言葉に同意しつつ、この平凡で幸せな日常を同じ世界から来た特別犯罪者たちに壊させるわけにはいかないと、そう強く思った時だった。


「ああああああんっ! うわあああああんっ!」


「あれ? あの子……?」


 突然聞こえてきた大声に反応した風花の視線の先には、一人で泣きじゃくる子供の姿があった。

 (意外と言ったら失礼かもしれないが)真っ先に駆け出した火蓮に続いて風花たちもその子に駆け寄る中、俺も少し遅れてその子に歩み寄る。


「どうしたの? お母さんかお父さんは一緒じゃないの?」


「ひっぐ、ぐずっ……! お母さん、いなくなっちゃった……!」


「あらら、迷子か。可哀想だね……」


 優しく声をかけた火蓮へと、男の子は泣きながらそう答えた。

 風花の友達がひそひそと話し合う中、火蓮は優しく笑いながらその子へと言う。


「わかった。じゃあ、お姉ちゃんたちが一緒にお母さんを探してあげる!」


「これだけの人数がいるんだし、すぐにお母さんも見つかるよ!」


「待って。迷子の呼び出しをしてもらった方がいいんじゃない? お母さんもこの子を探してるかもしれないしさ」


 火蓮だけでなく、風花やその友達も全員が親とはぐれた男の子のために動こうとしている姿を見た俺は、小さく笑みを浮かべた。

 こういう人の心が見せる光は眩しいなと思いながら、自分にできることをしようと考える俺であったが……男の子は大きく首を振ると涙声で言う。


「違う。僕、迷子じゃないよ……! お母さんがいなくなっちゃったの!」


「うん、わかってるよ。大丈夫だから――」


「違うの! 迷子になったんじゃないの! お母さんがいなくなっちゃったんだよぉ!」


 ……何かが変だ。最初は自分が迷子になったことを恥ずかしがる子供の強がりかと思ったが、この子の表情にはそれだけでは説明がつかない必死さがある。

 迷子になったわけじゃない、お母さんがいなくなった……その言葉に引っ掛かるものを感じた俺の頭の中に、アモンの叫びが響く。


『相棒、後ろだ!』


 その声が響くと同時に、俺は何か異質な雰囲気を感じた。

 肌をピリつかせるような不快感。嫌なプレッシャーを感じさせるその気配とアモンの叫びに反応して振り向いた俺は、そこで信じられないものを目にする。


 アーケード商店街の地面。アスファルト製のそこから飛び出す、三角形の何か。

 灰色をした、鋭利な光を放つそれは、魚の背びれに似ていた。


「鮫だ……! 地面の中に、鮫がいるっ!!」

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