第7話 覚悟……殺させないために、俺が殺す
「街に来て早々に魔人が起こした事件に巻き込まれたと思ったらブライトにも遭遇して、しかも死んだはずの妹がその正体だったなんて、正に激動って感じの一日だったな、相棒」
「相棒って言うな。だが、くそっ……! 本当にその通りだよ、まったく」
その日の夜、喫茶店の屋根裏部屋を寝床として貸してもらうことになった俺は、立花さんが帰宅した後で依り代にしているブレスレットから出てきたアモンとそんな話をしていた。
異世界に呼び出されただけでも十分頭を抱えたくなる状況だというのに、そこから次々と信じられない出来事が連発したおかげで、俺はもうパンク寸前になっている。
(異世界って言うより
元の世界で死んだ妹と再会できたことは嬉しい。だが、その妹が魔法少女として化物と戦っているというのは悪い冗談としか思えない。
風花はブライトウインドで、天使から力を与えられて魔人と戦う役目を担っている。ということは、これからこの世界で暴れ始める特別犯罪者たちとも戦わなければならないということだ。
あんな危険な連中が、風花の敵として立ちはだかる……その恐ろしさに身震いする俺へと、アモンが深刻な様子で言う。
「相棒、大事な話をしておきたい。これは俺たちだけじゃなく、妹ちゃんにも関わってくる話だ」
魔界で出会った時と同じ、真剣なアモンの雰囲気を感じ取った俺が奴に向き直る。
俺を真っすぐに見つめる赤い狼は、どこからか黒い種のようなものを取り出し、こちらへと見せつけてきた。
「何だ、これ?」
「
「犯罪者たちの心臓に……? ってことは、俺にもこれが?」
俺の質問に、アモンが肯定の頷きを返す。
不気味な種としか言いようがない物体が自分の心臓に埋め込まれていることに不快感を覚える俺へと、アモンは説明を続けていく。
「こいつを埋め込まれた人間が魔人になると、通常より強い魔人が生まれる。同時にその魔人の悪意を養分に種は育ち、さらなる強さを引き出すようになるんだ。ただ、大きく成長させるには濃い悪意が必要だし、埋め込まれた人間には相応の負担がかかる。だから悪魔たちは、これまで悪魔の種を使わなかったんだ」
「特別犯罪者はぶっ飛んだ悪人ばかり。種を育てるにはうってつけの連中だから、切り札を切ってきたってことか」
実際にこの種が効力を発揮するには、相応の育成期間が必要なのだろう。
特別犯罪者たちもこの説明を聞けば、悪意を養分として種を育てるためにこの世界で犯罪に手を染め始めるはずだ。
そもそも、大半が自身の欲望を満たすことしか考えない犯罪者たちなのだから、そんな理由がなくても好き勝手に暴れるとは思うが……それがそのまま魔人の育成につながると考えると、とても恐ろしい。
時間が経てば経つほど、種が育てば育つほど、恐ろしい魔人が生まれる……その脅威を理解する俺であったが、アモンはそれよりも重要な情報を話し始めた。
「相棒と妹ちゃんにとって大事なのはここからだ。さっきも言った通り、悪魔の種は心臓に埋め込まれてる。もしもその状態で悪魔の弱点であるブライトの浄化の力を浴びたら、どうなると思う?」
「……まさか」
悪魔の種は心臓に埋め込まれているとアモンは言った。埋め込まれた者に相応の負担を与えるともだ。
その負担が、心臓にピンポイントに与えられたとしたら……迎える結末は一つしかない。
「そう……悪魔の種を埋め込まれた人間がブライトに倒されたら、そいつは種の副作用で死ぬ」
「じゃあ、風花たちがいつも通りに魔人を浄化しようとしたら……!」
「あの子たちは人殺しになっちまうってわけだ」
風花が人殺しになる……それは俺にとって、絶対に看過できない事態だった。
そんなことになれば、風花は心が壊れるほどの悲しみと絶望を味わうだろう。何があっても、それだけは回避しなくてはならない。
「相棒、これは俺の勝手な想像だが……悪魔たちはブライトを闇の力に染め上げることを狙ってる。前にも居たんだ、闇堕ちした魔法少女が。天使と悪魔、光と闇……二つの力を持ったそいつは、とんでもなく強かった。悪魔は、その力をなんとしても手に入れたいんだと思う」
「そのために、ブライトたちに人を殺してしまったという絶望を味わわせようとしてるってことか」
実に悪魔らしい作戦だ。俺たち特別犯罪者の命も、そいつらに奪われる人たちの命も、ブライトの命も、なんとも思っていない。
全てを利用し尽くし、自分たちの目的を遂げようとするその作戦を聞いた俺は、覚悟を固めながらアモンへと質問した。
「なあ、アモン。この種はどこで手に入れた?」
「……殺された鷺宮って爺さんの心臓に埋め込まれてた物だ」
「そうか、やっぱりな」
予想していた答えを聞いた俺がそう呟く。
俺の命を救ってくれた鷺宮さんの顔と最期の言葉を思い返しながら、再びアモンへと問う。
「アモン、人間が悪魔の種を二つ以上取り込むことって可能か?」
「普通の人間ならまず負荷に耐えられなくて死ぬ。だが……」
「俺ならいける、ってことだな? どうすりゃいい? 食えばいいのか?」
特級犯罪者【悲劇の復讐者】……そう呼ばれるほどに強い悪意を持つ俺ならば、悪魔の種を複数取り込んでも耐えられることを魔人になった際に一体化したアモンは理解しているのだろう。
鷺宮さんに埋め込まれていた種を見つめる俺へと、アモンは忠告する。
「止めといた方がいい。死にはしないだろうが、死ぬほど苦しむことになるぞ」
「これから先、俺は同じ世界から来た百人近い極悪人たちと戦わなきゃならない。風花たちの手を汚させないためにも、力はあった方がいい。それに――」
「それに?」
「――鷺宮さんが生きていたって証を、ちゃんと残しておきたいんだ」
鷺宮さんの遺体は俺が燃やした。遺品らしいものもない。
だけど、ここに鷺宮さんが遺してくれたものがある。だったら、俺はそれを自分の一部として残しておきたかった。
もちろん、これから先の戦いに備えてという気持ちもある。
風花たちブライトに別の世界からきた特別犯罪者たちの相手をさせることも、その命を奪わせることもさせたくない。
そのためにも力は必要だ。この世界で生きている妹を守るためならば、俺はどんなことだってしてみせる。
「元の世界で六十六人。こっちでも早速一人殺して汚れた手だ。この先、何人殺しても同じだよ。その罰だと思って、苦しみくらい受け入れるさ」
「……わかった。種を寄越してくれ」
言われるがまま、アモンへと悪魔の種を渡す。
口に種を咥えたアモンは、俺を見つめると共に唸るように言った。
「アドバイスは一つ……できるだけ早く気絶しろよ!」
そう唸った直後、アモンが俺の中に飛び込んできた。
次の瞬間、心臓が爆発するような勢いで鼓動を刻み出し、俺の全身をすさまじい痛みが駆け巡り始める。
「がっ、ぐっ……!」
想像以上……いや、想像を絶する苦しみだった。
全身の血が沸騰しているかのような熱が痛みと衝撃を生み出し、それが心臓の鼓動に合わせて増幅していく。
そのままベッドに倒れ込んだ俺は、苦しみに胸を掻きむしりながら呻いた後……息絶えたように意識を手放した。
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