ソードワールド2.5『仄暗い河の奥へと』

繰々輪

プロローグ:彼ら、彼女らの始まりのお話

 神話に曰く。

 世界ラクシアは三本の剣によって生まれたのだという。

 剣こそが世界に生命を創り、剣を得た者こそが神と成った。文明は神と人によって興り、しかして三度の滅亡を迎えた。

 過去の文明の遺物、あるいはそれらが滅びた元凶たる怪物がひしめくこの世界には、“呪いと祝福の地”とも呼ばれる大陸がある。

 名を、アルフレイム。字名が如く、禍も福も入り混じるこの地には、降りかかる災いを切り払うべき存在がある。

 冒険者、と呼ばれる者だ。

 力を以て魔を下し、人を救う冒険者は、時に英雄と呼ばれる存在をも生み出す。そんな英雄に憧れ、冒険者ギルドの門戸を叩く者は絶えない。

 ──もっとも、ここで物語られるのは、そんな英雄を目指す冒険譚ではない。

 身勝手な題目を掲げた破落戸ならずものたちが、神話の実在を裏付ける証が山ほど転がる世界で、冗談みたいな動機で集って好き勝手する。これはそんなろくでなし共の備忘録でしかない。






【ハイマン:シェスの場合】


 ハイマンという種族がある。真っ白い肌はどこか人造めいていて、そしてその直感は正しい。彼らは造られた存在、正確には人から進化させられた存在である。他種族より優れた魔法への適性と秀でた知能を有した彼らは、しかし代償であるかのように、肉体の脆弱さと短い寿命というハンデも背負った。

 彼女──シェスは、そんな種族に生まれた、持ち得る者だった。造られた存在故か、誰もが端正な容姿を誇るハイマンの中でさえ突出した美貌、同じく圧倒的な魔法の才能。天才だ、神童だ、と持て囃されるのも無理はない。端的に言って、彼女は甘やかされて育った。耽溺の『溺』がつくほどに周囲から愛された。

 そうして成長した彼女は、そこまで愛されたことで、自身は幸せであると、その幸せを他者にも分け与えようと、そんな慈愛の心が芽生え──なかった。

 芽生えたのは憐憫だった。


(どうしてみんな神様なんていうものを信じるのかしら)


 繰り返すが、彼女は持ち得る者だった。他人が持ち得ない全てを生まれ持った。美も、才も、愛も。天は二つも三つもシェスに与えたし、彼女からすれば、それは平等であるべき世界の理に反していた。

 それ故、シェスが導いた結論は一つ。


(神様なんていないのに)


 剣に見初められた者が神になれる世界、故に多種多様、数多の神がいるラクシアにおいて、シェスが見出した持論はそんな神々全ての否定だった。厳密に彼女の思う神様、つまりは世界の創造主を定義するなら”始まりの剣ソードオブジェネシス”になるのだろうが、それに連なる上位存在全てをひっくるめて否定したのである。そうなってしまうと、各々の信仰を重んじる世間一般の人々は、シェスからすれば在りもしない救いに縋るかわいそうな人々だった。

 何せ、彼らは自分と違って持ち得ない人々だから。


(わたしが、救わなくてはならないのね)


 そうしてシェスは、使命に目覚めた。愚かで哀れな人々を救い、間違った世界を正すのだ。そんな救世の意思を固めた彼女が、冒険者を志したのも、そして比類なき才によってめきめきと頭角を現していったのも当然であった。

 同様に。

 肥大した自意識と、一周回って慈愛にも見える傲慢の権化たる少女が、周囲に受け入れられないのも当然であった。どんなに見目麗しい少女でも、人族の守護者たる神々を一括で否定する時点で危険人物である。どんな蛮勇でも、下心だけでお近づきにはなりたくない。

 無論、神々の不在を説いて回るシェスからすれば納得はいかないのだが、仕方ないとも嘆息する。


(やはり、人々はどこまでいっても愚かで、弱いものなのね)


 貶してはいない。

 見下してもいない。

 シェスにとって周囲の全てが自身に劣るのは当たり前のことであり、それを含めて誰もが慈しむべき他者にして、救う対象である。

 ますます使命に燃える彼女は、それはそれとしてますます孤立を深めていった。

 無論、そんなことを気にするシェスではない。態度も思想も改められることはなく、実力だけは確かな問題児に頭を抱えるギルドの人間は増える一方。困り果てた彼らは、少女に一つ提案をする。

 このままここに居ても、貴方の思想の理解者は現れない。しかし、大陸の南西、ブルライト地方のオルドビスという街であれば、貴方と同じように考える冒険者もいる──かもしれない。

 提案はそんな内容であり、つまりは他所への押し付け、放逐の類。

 とはいえ、追い出されたなどとは露とも思わないのがシェスという冒険者でもある。高貴なる自分を敬っているであろうギルドの提案を受け入れ、彼女は紹介されたオルドビスを目指し、道中の蛮族をついでに打ち倒しながら街へとたどり着いた。

 到着した際の迎えがないことを不満に思いつつも、紹介状片手にギルドに赴いたシェスは、何故か「またこういう類か」という顔をした受付嬢にギルドマスターの部屋へと通される。

 豪勢、というほどでもないが、それなりに飾り立てられた部屋で、机に脚を乗せる不遜極まりない態度で待っていたのは銀髪のエルフの男だ。当然ながらシェスには及ばずとも、それなりに顔はよかった。気だるげに手渡された紹介状を確認し、溜息を吐くと、


「いつも通りの問題児の押し付けか。まあいいぜ、来る者拒まず去る者追わずがウチのモットーだ。とはいえ、俺はこれだけは聞くようにしてるんで、聞いておくぜ」


 ひょいと脚を下ろし、なんてことなしに、しかし茶化す調子は抜きにして問うてくる。


「お前、なんで冒険者になろうと思った?」


『問題児』などの不都合な部分はシャットアウトする仕様であるシェスの耳も、問いかけの内容と意味は理解した。不思議そうに、少女にとっての当然を返答する。


「わたしは冒険者になりたいわけじゃないの」


 それは、彼女が冒険者になる以前、起点さえ覚えていないほどの根底の部分から埋め込まれた、シェスの信条である。


「わたしの持っているこの力で、弱い人々を助けるのが使命。それだけよ」






【リルドラケン:ギルヴァの場合】


 リルドラケンという種族がある。地方によっては竜人という呼び名の方が通りがいい彼らは、その別名の通りの特徴を持つ。すなわち牙と鱗、何より翼と尻尾である。遠い昔に竜が加護を得て生まれ出でたとされるリルドラケンは、その力と気質故に優れた戦士の多い種族でもある。

 彼──ギルヴァは、そんな種族に生まれた、翼無き者だった。比喩でありながら、同時に事実でもあるこの言葉は、ギルヴァが持つ、他とは違う形質によるものだ。幼き時分より同世代より頑強だった彼は、しかし翼だけが同世代より小さかった。その翼は、彼を竜の象徴たる空へ羽ばたかせるには不足だった。

 翼と引き換えに元来のリルドラケンよりも屈強な膂力を得たギルヴァは、学問上は小翼種というリルドラケンの変異種に分類される存在であり、つまりは空を飛べないのも偶々でしかない。そこに何者かの悪意が介入する余地はなく、彼が飛べない理由なぞ「そういう生まれだから」という身も蓋もない答えだけなのだ。

 だが、ギルヴァにとってはそんなことは関係がない。優れた体格と頭脳を併せ持った彼は、集落の子供たちの中でいわゆるガキ大将のポジションに収まったものの、普段は腰巾着でしかない連中が自由に羽ばたくことだけが不満──否、いっそ不快だった。嫉妬も憧憬もない。優れた自分が子分どもに物理的に見下されるのが我慢ならなかったのである。

 不満を抱えたまま、里長のもとを訪れ、不快を晴らすが如く、一切言葉を濁さずに問うた。


「なんで他の連中と違ってオレは飛べねえ?」


 優しく微笑み、里長は返す。

 翼無くとも、お前にはその力が、知性があるではないか。翼の代わりに神が授けたであろうお前の武器を誇ればよいではないか。

 非のない回答である。空を飛べずともお前は素晴らしいのだと、里長はそう説いてくれた。そんな愛と優しさに溢れた言葉を受けて、ギルヴァは思った。


(要はオレが飛べねえのは神とかいうヤツのせいか?)


 ギルヴァは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の神を除かなければならぬと決意した。

 翼の代わりなぞ、ギルヴァは望んではいなかった。翼も含めて全てを兼ね備えるはずだった彼から、不当にそれを奪い去った簒奪者こそが神だと、ありがたい里長のお話からそう受け取ったのである。

 もう少し簡素で乱暴な物言いでそんなことを言って暴れまわったギルヴァは、当時は里の大人総出でどうにか取り押さえられたものの、目覚めた思想に端を発する怒りは日ごとに強まるばかり。怒りに比例するかのように力も増していくギルヴァを抑え込むのに限度が訪れた頃、唐突に彼は決めた。


「冒険者になる」


 青年と呼ばれる齢になったギルヴァにとって、冒険者という職の認識とは「力こそ全て」である。実力を示せば、己が神への怒りを咎める輩もいまい。そうした考えの元、涙も笑顔もない──強いて言えばようやく解放されるという安堵が見える故郷の連中に別れを告げ、彼は最寄りのギルドで冒険者として旗を掲げた。

 そして孤立した。

 冒険者は力こそ全て。そんな訳もない。職としてそれが存る以上、社会性は求められる。そして、最終目標に「神に奪われた翼を取り戻す」を掲げ、「神なんていうのはクソヤロウであり、それを崇める神官なんて詐欺師の一派だ」と宣う奴は、社会性皆無の疎まれて然るべき存在である。反論すれば、本物なのは間違いない実力でねじ伏せてくるのだから尚更。

 気に喰わない奴は潰すという信条の元、結果的にそうした連中、すなわち周囲の冒険者を全て薙ぎ払うことになったギルヴァは、そうしてパーティーを組む仲間候補が消えた。無敵の肉体と精神を備えた彼も、これには流石に困った。

 だからだろう。ギルドの提案──オルドビスなる街をホームとしないか、という提案を呑んだのは。

 ギルヴァの実力に見合う冒険者を擁する街の紹介、という名目ではあるものの、体のいい厄介払いであるのは彼も重々承知していた。それでも、その街に居残って冒険者を続けるのに無理が生じていたのだ。

 そんなわけで紹介状片手にやって来たオルドビスにて、ギルドマスターの部屋に通されたギルヴァは、部屋の主たるエルフにとっては決まり事でもある質問を受けることとなる。


「お前、なんで冒険者になろうと思った?」


 かくして激怒の化身たる竜人の青年は答える。


「奪われた物を取り返す手段がこれだったんだ」


 それは、冒険者となった後も彼が掲げ、そして下ろすこともなかった、ギルヴァの信条である。


「強くて竜をも超えるオレが、たかだか神サマなんてものに、翼を奪われなかっただけの連中に、見下されるのは道理じゃねえだろうが。オレが上に行くべきだ」






【メリア:マルクの場合】


 メリアという種族がある。人間とほぼ同じ外見をした彼らは、しかし植物から人型へと転じたという起源故に、備える特徴は植物の方が近い。生きる上で睡眠は必要なく、子は種の形で成すために文字通り土から生えてくる。とはいえ、言葉は通じるし、価値観も人間とさして差異がない以上、人族の中で暮らすに支障はない。

 彼──マルクは、そんな種族に生まれた、異端の者だった。何せ、マルクを語るに当たっては前言を撤回する必要がある。普通のメリアと同じように、ほとんどの部分で他の人族同様の価値観を持つ彼は、しかしある一点で他種族と、なんなら同族とも相容れないためだ。

 すなわち食事。好きな食べ物は何ですか、なぞというなんてことのない質問が、マルクとのコミュニケーションにおいては致命的な不和を生む。

 いつ何時その質問をされても、彼は一秒と間を置かず、心からの笑顔でこう返す。


「蛮族、ですね! 種は様々ですが、どれも違った味わいを見せてくれるのがたまりません‼」


 蛮族──魔物の分類が一つであり、人族の敵対者の中でも最大勢力たるもの。生来より魂に”穢れ”を宿したそれらには、人が食すこともできる種がないわけではない。無論、ゲテモノに分類されるが。

 もっとも、マルクにとってはそうした事実はあまり関係がない。図鑑に「食べられる」の記載があろうとなかろうと、それが『蛮族』に分類されるならば、彼にとっては等しくご馳走である。そんなわけで、マルクが常日頃から携帯している何かの肉は、興味本位で詮索した者を蒼褪めさせる効能を有している。

 植物らしからぬ肉食性は、彼がカーニバラスメリアと呼ばれる希少種に分類されることにも由来するだろう。食虫植物の形質を強く発現した彼らは、捕食能も一般のメリアよりは優れている。

 とはいえ、その上で、だ。マルクが蛮族を喰らう理由そのものは、結局彼の好みによるところでしかない。生存に必要な養分が蛮族からしか取れないなどということもない、人族の災厄でもある蛮族に恨みがあるわけでもない、純粋な嗜好。

 そもそもの話、短命種であることが常のカーニバラスメリアにおいて、マルクの齢は百を超えている。種族の特徴たる優れた捕食能は、ここ十年ほどで蛮族食に彼が後天的に獲得したものである。その分類も形質を見れば便宜上はそう区分されるだろうというだけであり、それこそが種族特徴なぞによらない彼の嗜好を示している。

 結局のところ。

『美味い』と感じるものを食べることに、『美味い』以上の理由は要らない。そうしたある種の真理があるだけの話。その対象が世間一般からかけ離れているが故、マルクはあちこちから忌み嫌われることとなったのだが。


「今日も布教は失敗ですか……悲しいですね」


 異端の中の異端たるメリアは、よりにもよってその異端を他者にも広めようとする。自らがおかしい側だとは欠片も思わないが故に。

 蛮族食に一番都合がいいから選択された冒険者という職は、そんな『布教』を介して同好の士を求めてでもあったが、もれなく嘔吐感か嫌悪感を示されるだけの活動が実を結ぶことはない。当然、固定パーティーを組めるはずもなく、根無し草よろしくあちこちのギルドを放浪する日々。

 そんな折である。マルクのような少々変わった思想であっても、冒険者としての腕が確かならば受け入れてくれるという、変わったギルドマスターのいる街があると聞いたのは。その名を、オルドビスという。

 ギルドの長がそうした思想に寛容だというなら、そこに暮らす冒険者も同じように、マルクの趣味を解してくれるのでは。そう考えたのも無理ないことだった。

 オルドビスを目指す、という目標が定まってからは早かった。滞在していた街のギルドマスターに紹介状を一筆したためてもらい、その足でかの街へと歩き出す。道中の『つまみ食い』も挟みつつ、マルクは大河の傍に位置する目的地に到着した。

 受付に紹介状を手渡せば、手慣れた調子でギルドマスターの部屋へと通され、恐らくは面接の一環なのであろう質問を受けることとなる。


「お前、なんで冒険者になろうと思った?」


 答えはマルクにとっては明白であり、故に好物を聞かれた時と同じく、彼が迷うことはなかった。


「一番私に向いていると、そう思ったからです」


 それは、善性と合理性の現れ、どんなに排斥されようと彼が冒険者を辞めない所以、マルクの信条である。


「生きていく中で、自分が幸福であるためには、この職が一番向いている──人の役に立ちながら、自分の益も満たせる……まさに天職! そう思ったからですよ」






【ダークドワーフ:メグの場合】


 ダークドワーフという種族がある。かつて人族を裏切ったドワーフの末裔、地下で過ごす蛮族専属の鍛冶師たる彼らの中には、しかし地上に出て暮らす者もいる。それは地下では得られぬ新たな技術を求めた者であったり、あるいは作った武具の買い手を求めた者であったりする。その由来から敬遠されることも多いものの、優れた鍛冶技術は間違いなく認められている、そんな職人の集まりでもある種族だ。

 彼女──メグは、そんな種族に生まれた、信じる者だった。信念、信条としての『信』ではなく、正しく『信仰』である。崇拝と言い換えてもいい。対象としたのは魔動機。太古、魔動機文明時代の遺産である。

 それはメグが生きた環境によるものもあるやもしれない。魔動死骸区──骸の名を冠した彼女の故郷は、〈大破局〉で使用されたとも噂される巨大な魔動機の上に築かれた街だ。ルールはあれど法はない、つまりは明確な統治機構のない場所であり、スラム街と言い切って差し支えない。

 メグはそんな街で、それなりに裕福に、魔動機に囲まれて育った。両親の売り物であった数多の機械が持つ機能美に、子供ながらに魅了され、それを愛でた。

 そんな幼い少女が憧れた品が、取り締まられるべき盗掘品であった事実が判明したのは、そしてそれを扱う盗賊ギルドの手によってメグの友人が人攫いに拐かされたのは──ほぼ同時の出来事だった。両親が『仕入れ』に使っていたのが件の盗賊ギルドであることを考えれば、友人の情報を流したのが誰なのかは明白だった。

 この事件がメグにどう影響を及ぼしたかは、彼女以外に語ることはできない。ひょっとすれば、彼女自身でさえも語れないかもしれない。ともあれ、以降のメグが定めた行動指針が一つある。


(盗掘品の魔動機を探し出して、それを使い切ろう。人の欲に染まった、かわいそうな子たちに最後の輝きを)


 贖罪か、執着か、はたまた本当に憐憫か。

 メグにとっては何だっていい。少なくとも彼女の中では過去に清算はついていて、件の信条を掲げる自分の事も気に入っている。魔動機に対する愛着はもはや崇拝と呼べる域にあったが、そのことと自らの信条は、彼女の中では矛盾していない。

 その目的のために所属したマギテック協会でも、あるいは冒険者ギルドでも、メグは口癖のように言い放つ。


「それって魔動機より役に立ちますぅ?」


 比較対象が金銭でも名誉でも、果ては神でも関係ない。メグにとっての絶対の最上位にして、敬意を持って使い潰す道具でもある存在は魔動機だけだった。

 同じ考えの誰かは今のところ現れていなくて、少し残念ではあったが、関係はなかった。神様なんて非実在を奉るより、魔動機という実在を愛する。メグにとっての当然で、それに他人の無理解が障害になることはない。何せ、前言の通りそんなことは無関係に彼女はその主義を貫いたから。

 熱意の一語では片づけられない、異様な愛情から爪弾きにされた先、たどり着いたオルドビスなる街。紹介状を矯めつ眇めつするエルフのギルドマスターは問う。


「お前、なんで冒険者になろうと思った?」


 魔動機狂いの少女の返答は、やはり彼女にとっては当然でしかないもの。


「魔動機を正しく使うためです」


 それは、無理解の中でも彼女が抱いた期待、そんな世界であってほしいというメグの信条である。


「冒険者って人なら、そういう人もすごく多いかもって思ったんですよねぇ」






 その街のギルドには、ある特色があった。どんな特色かと問われれば簡単で、不名誉にさえとれる渾名である『問題児の委託所』が全てを現している。そうなってしまった理由さえも簡単で、そこの長が埒外な強さを持つことが全てだ。要はどんな跳ねっ返りも拳で黙らせることができた。

 元凶たるギルドマスターとて、そんな評価も扱いも重々承知している。その上で、別にいいとそれを受け入れた。我が強い冒険者は、えてして我を通す強さがあって、彼は強者が好きだったから。

 だから、お決まりの質問をする。


「お前、なんで冒険者になろうと思った?」


 対面する者の『我』を測るその質問には、どんな答えが返っても、オルドビスのギルドマスターは同じように薄く笑ってみせる。笑った上で、常に同じ言葉を投げかけた。


「成程な──ま、聞いておいてなんだが、その答えそのものには大して意味はない」


 名をタイバーンという生ける伝説の一人、冒険者の最高峰たる《始まりの剣》に昇りつめた男は、指先から噴き出した炎で以て手にした紹介状を燃やし、灰を散らしながら、


「ようこそ、新米冒険者。人々のためでなし、世界のためでもなし、ただお前が始まりの日に抱いた、その願いのために戦えるよう望むぜ」


 これこそが始まり。

 ”再出発の始発点”オルドビスにおける、あるろくでなし共の再出発の瞬間である。

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