ミス研の峰岸くんは事件を解決しようとしない。

岩名理子

#1 プロローグ 和戸みなみ

 『高校になったら、とにかく何か部活に入りなさい』っていわれていた。

 噂によると部活にさえ入っていれば、内申点がよくなるということで。


 うら若き真っ最中の乙女である、私こと和戸みなみは、少しでも内申を足掻くために――今まさに、部活動の募集掲示板を眺めていた。

 

 バレーボール、テニス、野球……並んでるのは、体力がいるものばかり。

できれば、静かに過ごしたい。美術、まあまあ。園芸……最終手段。決めかねていると数字が目に入る。


「32 42 85 13 21 23 32 43」


 なんだろう、これは。思わず首を傾げてしまった。

 何かの暗号だろうか。


「興味あるの?」


 後ろで声が聴こえ、振り向くと男子がいた。見覚えのない男子だ。大きな瞳、しゅっと目じりの切れがある、りりしい顔立ち。すらりと背が高く、つやのある髪がなびいて、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。たぶん本人は何も考えてないのに、無駄に目立つタイプだ。


「興味が……あるような、ないような」


 この数字が暗号でもテストの点だろうが別になんだっていい。今の私に必要なのは部活だ。美術は大変そうだし園芸も興味がない。しかし、確かにこれも何の数字? とばかりに気になる。


「別に解かなくても、いいよ」

「”解く”ってことはクイズなのね? じゃあ、難しいってこと?」

「いや小学生でも解ける」

「……本当に? すぐ解けるなら頑張るけど」

「でも面倒そうだし、やめとこうか」

「解かせたいのか、解かせたくないのか――どっちなの?」

「だって、君……」


 いいかけて止めるなんて勿体ぶって。

 まじまじと私の顔を眺めてきて、ため息をついた。なんのつもりだろうか。


「やっぱり難しいかも、止めときな」


 さらにイラついた私は番号がかかれたその紙を剥がした。男子は「ちょっと」と声をあげ私の手にある紙を奪おうとした。が、くるりと振り向き、見えないようにした。表から透けて何かが見えているなと思ったら裏は『あいうえお表』になっている。


「……なにこれ。馬鹿にしてるの?」


 私は紙をもったまま、歩き出した。


「うわあ、解けたんだ」

「今、答えの場所に向かってる」

「……はあ、しまった。話しかけなきゃよかった」


 なんともいえない表情を浮かべた男の子を置いて、私は渡り廊下を歩いて奥の校舎へと進む。「ねえ、ちょっと」「やめなよ」なんて後ろから聴こえるがすべて無視し扉を開く。入った先で別の男子が1人で椅子に座っていた。本を持ったままぽかんとした表情で私を見上げてきた。銀色のメガネが個性的な男子だ。


「ここは何なの」

「ミス研……です。もしかして、入部希望者ですか?」


「ミス研? 部活ってこと?」

「ミステリー研究部、なんで部活です。ああ、僕がかいたメモ持ってますよね。解いたんですか。大歓迎です」

「どういうことなの?」

 

 私の問いに、メガネくんはいぶかし気にした。


 メモの謎は本当に「」問題だった。あいうえお表に照らし合わせると『シチョウカクシツ』、そう、いまこの場所がまさに視聴覚室。


 後ろから追ってきた男子は、私の真横に立って、「違う違う、お遊びだから」とだけいった。メガネくんは本を置いて、私に向き合う。

 

「ミステリー研究会なんだから、入部する資格はミステリーを解く人間だ。つまりにしようと。でも最初は暗号が難しすぎて誰もこなかったんです。でも廃部になるのも困るんで、僕がつくった簡単な問題にしました」


「……活動内容は?」

「まあ本を読むくらいですかねぇ……活動参加は任意です」


 活動参加は任意!?

 それはアリな気がする。


「えっと、あなたは入部希望の方なんですよね?」

「そうねぇ……まあ、一応は?」

「ええと、もちろん、毎日きてくださってもいいんですよ?」


 メガネくんの言葉に、私はうなずいた。もちろん、来る気など一切ない。 

 すると、先ほどの男子が真横に立って「きみ、さっきまでミス研あること知らなかっただろ」と口を挟む。


 メガネくんは私の視線に気づくと、回答した。


「彼は峰岸といって、女ギライで偏屈で口は悪いけど――ミス研の部長です」

「女ギライはあってるけど、偏屈で口は悪くないぞ」


 部長とやらは、メガネをかけた彼につっかかる。

 ああ、だからさっきあんな変な態度だったのか。

 なるほど、それで私に入って欲しく無い訳ね。


「……むしろ幽霊部員でもいい?」


 私の回答に、二人は「はあ?」といい、顔を見合わせた。

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