『HERO-VILLAGE Ⅲ』【HISTORY REPEATS HELL】

詩羅リン

Chapter.1 『魔女の住む村』


 暗い森林の開けた場所を二輪の電動車で進んでいく。エンジン音が鳴り響き、視界に景色が流れ込んでいった。

 リスやカラス、猪や鹿などもいて、とても自然が豊かな森。そんな中、いくつもの家が見えてきて、俺はバイクを止めた。


「ここが《ギルド》の管理している村……」


ヘルメットを脱ぎ、俺ーー《ゼロ》はバイクから降りる。ヘルメットの紐を持ち手に掛けて、ポケットから《ギアホン》を取り出した。そして、それを右耳に填め、ダイヤルのように前へ三回回す。すると《ギアホン》から、黒い兎頭のマスクが現れ、首、胸、腰、脚、踵に駆けて漆黒のスーツが装備された。

 視界には、小さなルビーの瞳が輝き、赤色のシステム画面に切り替わる。


『……まずは、村長に挨拶だな』


スーツの構造とは別に、脳内で声が響く。この声の主は、亡霊となった《英雄》のウサギノ。俺がまだ未熟だった頃、死にかけの体に入り、今は俺の心臓として残り続けている。


「ああ、わかった」


木に挟まれ、硬い土の地面を歩いて行く。すぐに家が並ぶーー村に辿り着き、すぐそこにいた複数人の子供に、村長の場所を問いた。


「なあ君たち。村長がどこか知らないか?」


鹿の皮などを加工した服を着ている少年たちは、俺を見るなり驚愕の表情を浮かべる。


「……おにいちゃんってもしかして」


「《ギルドの英雄》……!?」


言葉に、一瞬「はあ…?」と声を上げそうになる。が、スーツの見た目を思い出し、勘違いされていることに気がついた。


「……俺は《ラビット》に所属している《ゼロ》だ。《ギルドの英雄》って、有名なのか?」


少年たちは「《ラビット》?」と口を揃え、首を傾げる。すぐに話題を切り替えて、《英雄》の話を始めた。


「……うん! 《ギルドの英雄》はウサギノって言うらしくて、怖いキョンシーたちを倒してくれたんだって!」


「僕たちもいつか、ウサギノみたいになりたいなぁ……!」


村人には、やはり憧れのような存在。俺も村人のはずなんだが、育てられたのは街。《ウサギノ》の存在を知ったのも祖母経由だが、憧れていた時期があった。


『……おい、その話はもう良いだろう? 早く村長の場所を聞き出せ』


脳内の声に小さく笑う。


(照れてるのか?)


『……別に。《英雄》って呼ばれるのは、あんまり好きじゃない。それに、俺はもう、お前に託したはずだ』


俺は確かに、託された。今着ているスーツも、元々は《ウサギノ》のもの。それを改良して、携帯型になっている。楽しく密談している子供たちに、俺は再び問いた。


「……村長、どこか知ってるか?」


「ん? あ、おじちゃんか。おーい!!」


遠くで鼻の長い老婆と話している老人。子供たちが手を振ると、彼は気づき、長い白ひげを揺らしながら、こちらへ近付いてきた。


「おや、お客さん……。っと、その姿は、かの有名な《英雄》ですかな?」


目を大きく見開かせ、老人は低い声で言う。頭の中でウサギノが溜息を吐き、俺はすぐに否定した。


「あ、違います。俺は《ゼロ》、特殊部隊ラビットから来ました」


「……《ラビット》、聞いたことがない部隊じゃ。そんなことよりも、一体どういう用件でこの村に? 来たとて、観光一つおすすめできないがのう」


首を傾げる老人に、腰に付いているポケットから、緑色の薬品を取って見せる。


「この薬品を作った者が、この村にいると聞いて、調べに来たんです」


この薬品は《イレイサー》。かつて、ウサギノを記憶喪失にさせた液体そのもの。これを所持していたのは、エリアという《ギルド》の元司令官。


村長は薬品を見るなり、表情を曇らせた。


「……この薬瓶を一体どこで手に入れた?」


「……それは、かつて英雄が救った村の地下にあったもの。この薬を隠し持っていた吸血鬼は、俺が倒しました」


それを聞いた村長は、瞳を揺らす。小言のように「逝ってしまったのか」と呟いた。


「……だいぶ、この件について詳しいんですね」


先程から、《イレイサー》に興味津々だ。発言も怪しく、間違いなく関係者と睨める。


「あぁ。よく、友人から聞かされていたんだ」


「……その友人が、この薬を作ったんですか?」


質問に「ま、まぁな」と微妙な反応を返す。さっきから、冷や汗を流しており、ますます怪しい。


「その友人と、会えますか──?」


村長は必死に答える。焦っているのが、目に見える。


「……い、今は取り込む中のようで、難しいかもしれないのぉ。そんなことより、この薬はワシが預かる、友人に聞いておこう!」


そうやって俺の手から薬瓶を奪い取り、背中を押し始める。俺は股下に覗く、村長の脚に目を付け、引っ掛けた。すると、村長は体勢を崩す。俺は腰からハンドガンを取り出して、額に突き付けた。


「……たっ、助けてくれぇっ!」


すぐに村の人達が駆けより、村長を見て固まる。


「な、お父様!?」「おじい様!?」


声が響き渡り、視線をそちらに移す。そこには、黒い短髪に、緑色のメッシュ。ハーブ色の瞳の少女と、老人の髭がなく、筋肉質のある男が。恐らく、村長の家族だろう。


「答えろ。その友人と、会えるか──? 何故、薬を預かる必要がある──?」


思ったよりも轟いた重低音。それは俺の声で、見えない圧が感じられた。村長は涙を流し、口を開こうとしたその瞬間、一人の老婆の声が。


「……そこまでにしておきな」


俺は銃を降ろし、問いかける。


「…………あんたは?」


黒いハットに、長い鼻。鋭い瞳で、魔女のよう。それに加え、水色の水晶が埋め込まれた杖を地面に付き、俺に近づく。


「私がそいつの言っていた友人さ、降ろして、こっちへ来な。何でも答えてやる」


老婆は嘘を付いている様子はなかった。俺は、村長から薬を取り返し、老婆に着いていった。


  ◇◇



「……確認だが、本当にこの薬、あんたが作ったのか?」


村から少し離れたところ、狭い自然の道を進んでいき、螺旋錠の人工階段を登っていく。


「ああ、私が作ったさ。でも、何年も前の話」


「……一体、何のために? どんなことに使われていたか、知っているのか?」


目の前には、暗黒の煉瓦で作られた小さな城が。ここがこの老婆の家なのだろうか。


「口を開けば質問ばかり、何にそんなに執着しているんだい?」


「……《ギルド》の闇を曝きたい。ただ、それだけだ。いいから、質問に答えろよ」


やがて、城の前まで辿り着き、老婆が扉を開く。彼女に続いて、俺は中に入り、大きな釜の前で止まった。


「そうかい、ああ、わかったさ。なら、たっぷり聞かせてやるさ……」


『おい《ゼロ》、そいつから離れろ!』


「私を止められたらねえ──!」


老婆が振り返り、巨大な棍棒で頭を叩く。俺はその場で倒れ込み、段々と背丈が高くなる老婆ーー魔女を最後に意識を失った。

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