海を歩く少年

カゲカゲとかげくん

海を歩く少年


海を歩く少年がいた。


彼は幼い頃から海の上に浮かぶ能力を持っており、向こうにある水平線を初めて観た瞬間、彼はその美しき光景に取り憑かれ、世界の終わりにたどり着くことを目標に、ほとんどの人生を海の上で過ごしていた。


彼は今日も海の上を歩いていた。目標は相変わらず、あそこに見える水平線にたどり着くことだった。彼はまるでアメンボのように、水面に足の肌がが当たるか当たらないかの距離で、滑るように海の上を歩いていった。


海の上を歩いてからおよそ7年が経過していた。まだ、あの輝かしい水平線は手に届きそうにない。それでも、彼はまだ自分の夢を追い求めながら、海の上を進んでいった。


同じ生活が繰り返し続く中で、彼の水平線に対する強い思いは、ますます弱まっていった。彼も最初はそんな自分の思いに気づいていなかった。しかし、いつの間にか前より遅くなっている自分を自覚した瞬間、心の中で何かの変化が生じていることに彼は初めて気づいた。


そして、その日からだった。今まで水平線にだけ向けられていた彼の関心は、知らず知らずのうちにキラキラと光が輝いている星空に向けられた。


彼が星空に興味を持つようになったのは、決して偶然ではなかった。いつまで進んでも終わりのない水平線を追っていると、そのとき疲れている彼の心を癒してくれるのは、常に夜空に綺麗に浮かぶ星々だったからだ。水平線はいつも彼から遠ざかっていったが、星空は、いつも彼の頭の上で彼を見守ってくれていた。


それからというもの、彼の足の動きは完全に止まった。ただ立ち止まって、星が連なる夜空だけを眺める日々が続いた。


だが、それは彼の大きな間違いだった。彼に海の上を歩ける能力を授けた広大な海は、変わった彼の心に大きく憤怒し、その能力を瞬時に奪ったのだ。そして、これ以上海の上にいられなくなった彼は、そのまま海の奥へ沈んでいき、水泳ができない彼は何が起きたのかも分からないまま溺れていった。


彼の体は、深海の闇に向かってゆっくりと没していった。海は冷たかった。それが彼が初めて海に落ちた瞬間思ったことだった。青色を帯びていた海の色は、やがて黒く変わっていき、彼のぼやけた視野はゆっくり、そして確実に閉ざされた。


そして、彼は考えた。なぜ自分はこんな目に遭ったのだろうかと。最初は、その理由が分からなかった。しかし、やがて彼は自分の変わった心にあるということに気づいた。海は知っていたのだ。自分が裏切られたことを。


だが、もう遅かった。海の中は、冷たくて暗くて静かで、間違った自分の行動を取り消すことはできなかった。助けてくれる人はいないし、泳げる力もない。彼は、後悔の念が込められた泡だけを吐きながら、海のどん底へ沈んでいった。


その後、亡くなった彼の魂は最後まで成し遂げられなかった星空へと向かっていき、その数えきれないほどのホシボシが飾られている夜空の一つの星となって、海に映る美しい銀河の空を毎日眺めていた。






あとがき : この小説は幼い頃の人は皆、盲目的な夢を追いながら生きるのではないか、というのを自分の経験と照らし合わせながら書いたものです。


人はまだ小さい頃、自分はこうなりたい、こんなことがしたい等の夢を持って生きると思います。それは、まだ幼いから、もしくは与えられた機会が多いからそう思うのかもしれません。何かを持ってるわけでも、能力があるわけでもないのに、幼い頃は、どこから出てくるのかも分からない大きな確信と自信に満ちているような気がします。そして、子供たちはそんな未来の自分の姿に近づけるために、色んなことにチャレンジするようになると思います。


しかし、夢は変わるものです。大きくなるにつれ、人の夢は自然と変わります。理由は色々あると思いますが、お金や才能など、現実の壁にぶつかったのかもしれませんし、ただ、前より面白い夢を見つけただけかもしれません。そして、大人になって昔の自分のことを回想してみると、その幼い頃の夢を懐かしく思うのではないでしょうか。あの時はこれが原因でダメだったけど、今ならどうだろう、みたいにです。この小説は、それらの思いを文学的にかつ哲学的に、ひとつの短い物語として再編成したものです。何か感じたことがあれば、コメントに残していただければ嬉しいです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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