祖父の正体はポエットだった

やまなし

おじいさん構文

 正月の食事の席。

 私は毎年、母方の祖父母に会うためにある料理店に行きます。

 いつも祖父だけ、会話に混ざりません。

 その店で定番のラーメンを頼み、無言で麺を啜っています。

 その姿を私は「ラーメンおいしそうだな」と思いながら、見守っているのが恒例です。

 それは何故か。


 祖父は耳が難聴だからです。


 聞こえやすい声と聞こえにくい声があるそうで、私の声が一番聞きやすいと言っていました。

 普段は縁側で、さりげなく猫に餌をやっている七十半ばの老人ですが、話しかけると案外にこやかに接してくれます。


 と、そういう訳なのです。

 そろそろデザートを頼もうかなと思ったとき、祖父が隣でコソコソとカバンの中からスマホを取り出しました。

 そして彼は手際よくメモアプリを開き、私は思わず「この人ちゃんとスマホ使えるんだ」と失礼なことを思っていたところ、いつのまにか画面を見せられていました。

 祖父が普段餌付けしている猫の写真かと思いきや、全く違うものでした。


 画面いっぱいのポエムだったのです。

 詩だけではありません。俳句、短歌、川柳とバリエーションが無駄に豊富でして。

「スクロールしてみな。」とだけ言われ、そうしてみたのですが。

 全然終わらないんです。

 どれだけ下にスクロールしても、ずっと。

 両親と祖母はずっと前から杏仁豆腐を食べられているというのに、私の杏仁豆腐だけ少しずつ温くなっていきます。

 この哀しさこそ詩にさせてくれと願いました。本人には口が裂けても言えませんが。

 普段話に混ざることができない分、話したいことが蓄積されていたのかもしれないと思うと、聞いてやりたくなるのです。


 しかしそのポエムたちは感想の述べようが分かりませんでした。

 大半の詩の終わりにはこうあったのですから。


「最期まで元気に生きたいネ😃」と。

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