消えていく親友
大黒
第1話 二人目が消えた
「……またか」
あの時と同じだ。今回が2回目。
確信を持った訳では無いが、その可能性もあるかもしれないという絶望感を味わった。
──遡ること今から5年ほど前。
俺は当時大学生だった。大学2年の頃ゼミで一緒になった1人の同級生と仲良くなった。
ゼミのレポートを一緒に作成したり、カラオケやドライブに行くこともしょっちゅうだった。
そして、それはなんの前触れもなく起きた。
そいつが突然姿を消した。大学にもバイト先にも、実家にも帰っていなかった。
それは2年の終わりに差し掛かる頃だった。
警察にも捜索願を出した。
何も手がかりはなかった。
しばらくそいつの両親とれんらくを取っていたがいつしか取らなくなっていった。
そして、そんなことも忘れかけていた時に、今の職場で人事異動があった。
俺はまだ入社して数年の社員だったため移動はなかったが、自分の部署に移動をしてきた人間が数人いた。
その中の1人と何故かウマがあった。
彼の名前は、若林直宏28歳。自分よりも4歳ほど年齢が上だった。
たまたまあるプロジェクトで一緒になる機会があり、それが切っ掛けでお互い親密度が増していった。
ある時、仕事が終わったあと飲みに行こうと誘ってきた。別に断る理由なんて無い。二つ返事でokした。
その日は二人で、ある個室居酒屋で飲むことにした。
ビールとつまみをいくつか注文した。
この時の会話はまだ覚えてる。
俺はその人のことを直さんと呼んでいた。
唐突に直さんが
「仕事楽しい?」
と、聞いてきた。
俺は、
「楽しいですよ。まだ入社してまだ2年くらいなんで色々覚えることもあるし新鮮ですよ」
「そっか。」
その時、直さんは。
唐突に直さんが、グラスを持ったまま少しだけ黙り込んだ。
「……前の部署さ」
そう切り出してから、直さんは少しだけ視線を落とした。
「正直、居づらくなったんだよ」
仕事が出来ないわけじゃなかった。
人間関係が壊れていたわけでもない。
ただ、一人だけ、どうしても合わない人間がいたらしい。
「最初はさ、すごく良い人だと思ってたんだ。気が利くし、誰にでも優しいし、上司からの評価も高かった」
直さんは、ビールを一口飲んでから続けた。
「でも、気づいたら不思議なんだよ。評価されてるのは、いつもあいつでさ。俺がやった仕事も、なぜかあいつの成果みたいになってる」
それを責めることも出来なかったと言う。
「だって、あいつ、悪気がない顔してるんだ。
むしろ『ありがとう』とか言ってくる。……何も言えなくなるだろ?」
俺は何も言えず、ただ相槌を打った。
「そういう人ってさ」
直さんは苦笑いを浮かべた。
「一緒にいると、楽なんだよ。波風立てないし、空気も読んでくれるし」
一拍置いてから、ぽつりと続けた。
「でも、気づいたら、こっちだけ立場が悪くなってる」
直さんは、俺の方を見て言った。
「……君と話してると、不思議と楽なんだよ」
少し照れたように笑って、
「職場で本音言えるの、君だけかもしれない」
その言葉が、素直に嬉しかった。
その後も、仕事の話や愚痴、上司や周りの同僚の噂話、趣味の話で盛り上がった。
直さんがこの部署に来て数ヶ月。
あの日の飲みは、今まで以上に距離が縮まった気がした。
職場の人間を友人だとか、親友だというのは変かもしれない。
それでも俺は、直さんのことを、段々と友人以上の存在だと認識し始めていた。
――ただ、帰り際。
店を出る直前、直さんがふと、こんなことを言った。
「……でもさ」
一瞬だけ、言葉を探すような間があって。
「君って、怒らないよな。それ、すごいことなんだけど……」
直さんは、最後まで言わなかった。
その時の俺は、
その言葉の意味を、深く考えもしなかった。
直さんが俺に悩みを打ち明けてくれたことが素直に嬉しかった。
実は、俺にもその時、一つ悩みがあった。
それは、同じ職場に気になる人が居たことだった。
俺は酔った勢いもあってそれを直さんに打ち明けた。
直さんは、一言
「職場恋愛は別れた後が色々面倒だぞ」
と、苦笑いしながら答えた。
何か俺は嬉しかった。その後も仕事の話や愚痴、上司や周りの同侶の噂話や趣味の話で盛り上がった。
直さんが自分の部署に来てもうかれこれ数ヶ月になるが、その時の飲みは今まで以上に仲良く慣れたような気がした。
職場の人を友人だとか、親友だというのは変かもしれないが、俺は直さんのことを段々と友人以上の存在という認識になっていった。
──そして、
それは突然起きた。
直さんが消えた。
自宅にも、実家にも、何処にもいない。
もちろん電話も繋がらない。
誰も彼の消息を知らない。
文字通り消えた。俺の世界から突然消えた。
初めは全く理解できなかった。
──が、ふと、ある記憶が蘇った。
5年ほど前、俺は友人を失った。
あの時もこんな感じだった。
突然消えた。
俺はもしかしたら何か共通点があるのかもしれないと稽えを張り巡らせた。
思い当たるフシは3つだった。
1つ目 誰かと友人になる。
2つ目 お互いに自分の悩みを打ち明ける。
3つ目 お互いが親友だと思う。
これらの条件をクリアすると発動するということに気が付いた。
だが、確証はない。
俺の思い込みかもしれない。
偶然、なにかの理由で消息を絶ったのかもしれない。
そして、俺はあることを決意する。
それは、ワザと誰かと友人になり、それが発動するか確かめることだった。
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