第4話 事の真相―結美視点―
一週間前に遡る。
「カバン良し。髪も良し。服装も良し。じゃあ、いってきます。」
ひび割れた全身鏡の前でターンをし、最終確認をする。
いつもの下ろしただけの髪ではなく、三つ編みを2本まとめ、可愛い髪留めも使う。服装を少し気崩す。そして母の部屋から拝借した化粧道具で気づかれない程度のメイクをする。
磨けば光る原石が磨かれた。いや、自ら余すことなく磨き抜いた。
いきなり宝石が光り始めたら、誰しも目を奪われる訳で。その変化に最も敏感に察知するのはいつの世も“女の嫉妬”である。
「えっ、何?イメチェン?馬鹿じゃないの?」
高圧的な態度で迫るのは、言うまでもなく小川である。
いつもならおどおどして逃げ出すか、何も言わずに黙り込むところであるが、発せられたのは想像もしない言葉だった。
「だったら何?貴方には関係ないでしょ。」
「は?」
面食らった表情で、小川が固まった。
美結はそれを気にせずそのまま教室に向かうのだった。
放課後になると、帰宅の準備をする美結。
「ちょっと、アンタ。」
小川と取り巻き達が美結を取り囲む。今朝の一件があった為、一日中、睨むような鋭い眼光を向けていたが、直接何かすることはなかった。だが、取り巻きと一緒だからなのか、強気の態度をとる。
「ねえ、聞いてんの?」
机を叩いて威圧するが、美結は無視し、鞄に教科書を詰め込む。
「ねえってば。」
今度は三つ編みを引っ張る。すると、美結は小川の目の前にある写真を提示する。
「な、なによこれ。」
そこにあったのは、小川が近くのスーパーで万引きをしている様子だった。
「何でこんなのが。」
「何でだろうね。」
「こんな写真じゃ、証拠にならないわ。」
「だったら動画が良い?」
「なっ。」
動画の準備もあることを告げると、言葉を失ったように口をパクパクさせる。
「何やってんのよ。」
取り巻きが小川を責める。だが、美結の手札はこれだけではない。
「そう言ってる貴方達の分もちゃーーんとあるわよ。」
次々に机に置かれる証拠写真の数々。
「これが、近所の子に暴力振るっている所。貴方は弟を随分と世話焼いてるんですね。どう見ても家事の手伝いしているのは弟さんの方に見えるんだけど気のせいかしら?」
青ざめる取り巻きの一人。
「キャーー。」
机から落ちた写真の一つを手にとったもう一人の取り巻きが叫ぶ。
二人が写真を覗き込む。
「あー、そうそう。君のお父さん、不倫してるよ。」
怯えた様に後退り、近くの机に躓き転ぶ。
「こんなことして、何がしたいのよっ!!」
感情のままに小川が叫ぶ。
「何も。私はただ私の生活を穏やかに、平和に過ごしたいだけ。」
対して、淡々と告げる美結――。
「だったら、こんなことしなくても良いじゃない。あんたのせいで、あんたのせいで私達は…。」
莉緒が手を振り上げ、美結に襲い掛かる。
その手を掴み、関節をきめ、拘束する。
「ほら。こうやって面倒事に巻き込まれるのが嫌なんだ。私からは何もしない。でも、これ以上私に何かするなら…。」
手に込めた力を強めていく。
「ああ、見せしめに腕1本くらい貰っとくか。お前達の罪には軽すぎるけどな。」
じわじわと捻りを加えていく。小川の額に大粒の汗が滴る。メキメキと骨が悲鳴を上げる。
「参った。参ったから。もういじめない。関わらないから。」
「うん。そう。」
手を離すと、小川はその場に崩れ落ちる。
「じゃあ、私帰るから。約束は守ってね。」
ドアまでの間にいた取り巻きも美結が近づくと慌てて離れていく。
「また明日。」
美結が立ち去った後には、ただただ事態を飲み込めない3人が呆然としていた。
次の日――。
教室は不思議な雰囲気をまとっていた。
いつもなら美結が小川を恐れているはずだが、寧ろ小川が美結を恐れている。
近くを美結が通るだけで肩を震わせる。取り巻きの2人は欠席をしているので、明らかに顔色が悪い小川に声を掛ける人もいない。
上下関係が1日で入れ替わった異質な空間が漂う。気まずい空気のまま、放課後まで何も起きなかった。
「ねえ。」
振り返ると、そこには柴崎がいた。告白を振ってから、ずっと遠巻きに見ていた。
「何?」
意識して不愛想に返事をする。
「あ、えーと。そのー。」
「何が言いたいの?早くして。」
もじもじした柴崎の態度に腹が立つ。あの品行方正でモテ男子の面影は最早ない。
「あの、俺、昨日の放課後のこと、見てました。」
「ああ?」
威圧感を放ち、壁際まで追い詰める。次第に柴崎の焦点が合わず、顔を赤く染める。
(ん?どういう反応だ?)
逃げ場を封じるように片方の手と足で柴崎を壁から動けないようにする。
「それで、君はどうしたのかな?」
耳元に顔を近づけ、危険な空気を纏った声で問う。
「お、俺は別に、何かしてほしいんじゃなくて。美結のカッコいい所を見て、やっぱり、やっぱり好きだと思って。それで。」
「えっ、あっ、そ、その。」
今度は結美が言葉を上手く話せない。先ほどまでの緊張感もなくなり、動揺してしまう。
「まあ、なんだ。悪いが、少なくとも“私は”付き合うつもりはない。」
きっぱりと断る結美に対し、柴崎はゆっくりと頷く。
「わ、分かってる。だからこそ、俺は―――君になりたい。」
「そ、それはどういう…。」
「だから、俺は君のお手伝いをしたい。」
「はははは。」
腹を抱えて笑う結美。思わず目の端に溜まった涙を拭う。
「あー笑った。いいよ。面白いね。」
「やっぱり君は髙山美結じゃないでしょ。」
「さあね。でも、1つ約束。美結の時の私にはこのことを話さないこと。」
2人は固く約束を交わし、帰路に着いた。
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