第3話 方向性
「これまでのDDiの活動を藤原に共有しておく。」
そう言うと、佐藤くんは空になったシェイクを机の上に置いた。
「活動っていうほどじゃないけどな。俺たちで飯田ちゃんに結婚相談所への入会を勧めただけ。」
田中くんは、背伸びをすると、そのまま足をまっすぐ投げ出して背もたれに体を預けた。
「休日に飯田ちゃんがどこかに出かけたとか、そういう気配はないのよ。」
山田さんは、そう言って状況を説明してくれた。
「結婚というキーワードから、僕たちは安直に結婚相談所を連想して、それを推した。しかし、飯田先生の性格の良さはデータでは伝わらない。」
佐藤くんはそう言うと腕組みをして目を閉じた。
他の2人も、うなずいている。
「藤原はどう思う?何かいい案ある?」
急に聞かされた「DDi」の話と飯田先生の婚活戦略の意見を求められた私は、思考を巡らせて口に手を当てた。
「飯田先生はすごくいい先生だと思う。でも、外見は佐藤くんが言ったとおり、その、異性の関心を強く引き寄せる感じじゃないよね。だから、飯田先生の中身をすでに知っている人、飯田先生がいい人であることをわかっている人にアプローチをかけていく方がいいんじゃないのかな?」
そこまでいっぺんにしゃべると、私は大きく息をついて、体の力が抜けるような気がした。しばらく3人が静まり返り誰も声を発しなかったから、私はちょっと偉そうなことを言ってしまったのかなと不安になった。だけど、その後、急に田中くんが椅子から立ち上がった。
「すげえぜ。藤原。藤原の言う通りだよ。佐藤も言ってたけど「結婚=結婚相談所」って発想が安直だったんだよ。だって飯田ちゃんだぜ、あの容姿を見て、そんな申し込むとか、あ、いや、わかるだろ、佐藤。」
田中くんは最後を小声でごちゃごちゃとごまかしたけど、ここにいる全員が、それは否定しなかった。結婚相談所に限らず、容姿から入るフィールドは飯田先生にとって不利だ。
「え、でも、飯田ちゃんと関わりがあって、すでに飯田ちゃんの人柄が知れ渡っている場所って、どこ?」
田中くんは立ち上がって私たちを見渡したあと、空中を見つめた。
「そんなもん学校しかねぇだろ。」
手元にあったナプキンを丸めて、山田さんは田中くんに投げつけた。
「そうだな。飯田先生が他にどういう活動をしているか知らないが、飯田先生の性格が知れ渡っていて我々も支援しやすい場所、それはすなわち職場、つまり、この学校しかない。」
腕組みを解き、目を見開いた佐藤くんは、開眼、と言わんばかりの目ヂカラで私を見た。佐藤くんに褒められてすごく嬉しいけど、ちょっと怖い。
「となると、年齢的に合うやついるかな?30代半ばまでなら、世界史の吉田、英語の宮原、あとは誰がいる?」
山田さんは指を1本ずつ立てながら数え始めた。
「げ、俺、吉田嫌いなんだよね。あいつ、当てられた奴がわかんないって言ってんのに、いつまでもネチネチ聞くじゃん。」
田中くんは席に座りながら文句を言い出した。
「飯田ちゃんの話してるんだから、お前の好き嫌いは知らん。けど、確かに吉田はねぇな。」
田中くんに言い返しながらも山田さんも田中くんに賛成のようだ。私も正直、吉田先生は、ちょっと、いや、かなり苦手。
「数学の四条先生は?」
私がそう言うと、3人は、また押し黙って私の顔を見つめた。
あれ?変なことを言ったかな?疑問に思っている私に、山田さんが噛んで含むように言った。
「藤原、四条は20代後半、イケメンで生徒からの人気も高い。それに、みんなが人格者と讃えていて、運動もよくできる。そうだな?」
「う、うん。私も少しだけ話したことがあるけど、すごく丁寧ないい先生だったよ。」
私は、そう言いながらも、山田さんの言って聞かせるような口調に、何か間違ったことを言ったのかと不安を覚えた。
「合格可能性を考えろ、藤原。」
佐藤くんが開眼したまま、首だけを動かして私を見た。目線があったのは嬉しいけど、今度はかなり怖い。
「それな。四条は飯田ちゃんの手に余る。偏差値は高いけど入学できなければ意味ない。」
山田さんが佐藤くんに同調する。
そんな時、両手でテーブルを叩いて大きな音を立てたのは、田中くんだった。周囲の家族連れも、何事かと、こちらに目線を送っている。
田中くんは慌てて少し小さくなって、声の調子も落とした。
「なんでだよ、四条、いいじゃん。だめだったら、次の奴を探せばいいだろ?」
「いいや、だめだ。飯田先生にとって、ここは狩場であると同時に生活の主軸となる職場だ。ここでの失敗は、その主軸にダメージが残る。できるだけ失敗はせずに活動を終わらせるべきだ。だから、そんな冒険はできない。」
「そうよ。それにね、飯田ちゃんには時間がないの。浪人するわけにはいかないの。確実に受かるところ受けるべきよ。」
「なんだよ、おまえら。三者面談みてえなこといいやがって。そんなの、やってみなくちゃわからねぇだろ。」
「分かってからでは遅いの、飯田ちゃんの場合は。」
山田さん・佐藤くん連合と田中くんはテーブルを挟んでお互い睨み合っている。すると、田中くんは2人から目線を外し、私の方に向き直った。
「藤原、藤原は、どう思う?」
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