追放された配信係、魔界で無双する 〜視聴者がモンスターだが、なぜか人間より民度が高い件〜

他力本願寺

第1話 【放送事故】追放されたので最下層から配信します



 同時接続、三十二万。視界を埋め尽くす赤い投げ銭通知が、止まらない。


『素晴らしい技術だ』『礼儀が良い人間だ』『殺すのが惜しい』――魔界のコメント欄は、今日も平和だ。


 なのに俺は、ついさっき勇者パーティに「地味で映えない」と追放され、ダンジョン最下層で死にかけていた。


 ◇


「……え?」


 俺、アキトは、震える手で空中に浮かぶ半透明のウィンドウを凝視していた。


 場所はダンジョンの最深部、通称「奈落」。

 本来なら人間が足を踏み入れた瞬間に蒸発するような地獄だ。周囲には、神話級の魔獣たちがうごめいている。


 だが、俺は死んでいない。

 それどころか、目の前のホログラム――魔界専用の配信プラットフォーム『デモン・チューブ』の管理画面は、見たことのない数字を叩き出していた。


【同接:324,812】

【勢い:計測不能(ERROR)】


 数字が増えるたび、視界の端でチャリン、チャリンと通知音が鳴り止まない。

 それは俺の寿命であり、魔力であり、そして金でもある『魂貨(ソウルコイン)』の着金音だった。


 コメント欄が、滝のように流れている。


@深淵の貴婦人:

 その回避行動、優雅だわ。見惚れてしまう(50,000魂貨)


@インテリ・ゴブリン:

 支援魔法の発動タイミングが完璧だ。0.1秒の無駄もない


@みりおん・あいず:

 見てる見てる見てる見てる見てる♡(10,000魂貨)


 ……怖い。

 好意が、物理で来そうな種類のやつだ。


 見た目は怖いのだが、翻訳機能を通すと、なぜかこいつらは猛烈に俺を褒めていた。

 人間界の配信よりも、よほど民度が高いのはどういうことだ。


 事の起こりは、わずか数時間前に遡る。


 ◇


「アキト。お前、今日でクビな」


 ダンジョン攻略の休憩中、パーティリーダーの勇者がそう告げた。

 俺たちが所属するのは、人気急上昇中の勇者パーティ『ライトニング・スター』。攻略の様子を配信し、その広告収入で稼ぐ「探索配信者(ダンジョン・ストリーマー)」の集団だ。


「クビって……俺は支援術師(バッファー)だぞ? 俺が抜けたら、防御バフも加速バフも回らなくなる」


「それだよ。お前の魔法、地味なんだわ」


 勇者はスマホのカメラを突きつけてきた。


「視聴者はさ、派手な爆発とか、一撃必殺が見たいわけ。お前の支援魔法、画面にエフェクトほとんど出ないじゃん? 『映えない』んだよ」


 俺は言い返しかけて、飲み込んだ。

 玄人向けに削った“無駄のない支援”なんて、ライト層には伝わらない。――こいつらのチャンネルでは、なおさらだ。


「というわけで、これ手切れ金。荷物置いて出てってくれ」


「ここはダンジョンの中層だぞ!? ソロで帰れるわけがない!」


「知らねーよ。……あ、そうだ」


 勇者はニヤリと笑い、俺の足元の床にあるスイッチを踏んだ。


「そこ、最下層へのダストシュートらしいぜ? ――じゃあな、地味な裏方くん」


 床が抜け、俺は暗闇へと落ちていった。

 薄れゆく視界の中で、元仲間たちがゲラゲラと笑う声だけが聞こえた。


 ◇


 そして、現在。

 最下層に叩き落とされた俺は、ヤケクソで以前拾った「魔界製の通信端末」を起動した。

 どうせ死ぬなら、遺言くらい残してやろうと思ったのだ。


 タイトルは『【放送事故】追放されたので最下層から配信します』。


 配信開始と同時に、俺は襲いかかってきたSランク魔獣・キメラの爪を、支援魔法による身体強化で紙一重にかわした。

 撮影係として鍛えた「ブレないカメラワーク」で、自らを襲う爪をドアップで映しながら。


 その映像が、魔界の住民たちに刺さったらしい。


@深淵の貴婦人:

 人間にしておくには惜しい技術ね。私の城に招待したいわ(100,000魂貨)


@魔界の一般兵:

 勇者より動き良くない?w


@死霊魔術師見習い:

 このバッファー、死にかけなのにカメラが水平を保ってる……プロだ……


「……はは、なんだこれ」


 乾いた笑いが出る。

 人間界では「地味だ」「役立たずだ」と罵倒され続けた俺の技術。

 それが、魔物が跋扈するこの地獄で、初めて「プロの仕事」として認められていた。


 チャリン、チャリン!

 けたたましい通知音と共に、魂貨の残高が増えていく。

 この『魂貨』を使えば、ショップ機能で強力な魔界装備も、生存に必要な食料も買えるらしい。

 

 ……生き残れるかもしれない。

 いや、それだけじゃない。

 

 俺の中に、今まで感じたことのない熱いものが込み上げてきた。

 承認欲求。

 俺の技術を見てくれ。もっと評価してくれ。

 元パーティの連中が切り捨てたこの力が、どれだけ通用するか証明してやる。


「よし……! 見えてるか、魔界の視聴者たち!」


 俺はカメラに向かって叫んだ。レンズ越しに、何十万もの「人外」たちに向かって。


「今日はこのまま、最下層の安全地帯まで走る! 支援術師(バッファー)のソロ攻略、最後まで付き合ってくれ!」


 その宣言に応えるように、コメント欄が爆発的な速度で加速した。


@みりおん・あいず:

 行く行く行く♡(同接+50,000)


@インテリ・ゴブリン:

 面白い。最後まで見届けよう(10,000魂貨)


 その時、視界いっぱいに真紅のウィンドウがポップアップした。


『――おめでとうございます! 急上昇ランキング、世界1位にランクインしました』


 通知の音は、いつまでも鳴り止まなかった。

 俺の、魔界での配信者(ストリーマー)生活が、ここから始まる。


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次回:『【検証】ケルベロスは撫でると懐くのか』


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