1-7 剣と魔法の真髄

 ガーネットと別れた二人は、アルス王国から出る際に、近くに泊まっていた行きとは別の荷馬車に乗せてもらった。その荷馬車は何かの偶然か、これから二人が向かうアシーミ湖があるアスルタ村に行く予定らしい。

 御者の男は荷台に乗ってるアウローラ達を振り返る。

 「そういえばお二人は何用でアシーミ湖に?最近あそこは危ないですよ」

 「危ない、とは?」

 身を少し乗り出すルーカスを見て御者の男は肩をすくめた。

 「いやぁ、アシーミ湖は少し前まではごく普通のただの湖だったんですけどね、一月前ぐらいかな、ウォータードラゴンが出現しちまって。おかげでアスルタ村には人がなかなか来なくなったどころか、出て行く奴らもでてきだしてねぇ……」

 「では君はなぜアスルタ村に?」

 男は頭をかきながらため息をついた。

 「俺の故郷なんですよ。お袋が少しは顔見せろって煩くてですね… 俺もできれば行きたくはないんですよ?まぁまぁ距離ありますしね。でもそれ言われたのが二月前で、もう村に向かう予定立ててしまった後でウォータードラゴンの出現を聞いて、本当に最悪ですよ」

 「実は、僕たちがそのウォータードラゴンを今から討伐しに行くんです」

 ガタッと男は落ちそうになり、初めてちゃんとアウローラ達の方を見た。

 「は、はぁぁぁ!?お、お前らがウォータードラゴン、退治しに行くのか!?」

 男は敬語も忘れてすっかり取り乱した。

ルーカスはにこりと微笑み、スッと指先をアウローラに向ける。

 「そうです。僕たちで、倒しに行くんです。良ければそこまで連れていって欲しいのですが…」

 「あ、ああ…… そりゃあ道中だからいいけどよ、その……そこの女の子もまさか一緒に討伐に向かうのか…?」

 男は変わるがわるアウローラとルーカスを見る。今しがた信じられないという表情で。

 「はい。彼女、こう見えてとっても強いんですよ。それこそ、ウォータードラゴンなんて一発ですよ」

 「ほ、ほぉ!!そりゃあ楽しみだな。よく見たらその杖、めっちゃ豪華だし期待できるな、こりゃあ」

 勝手に話が進んでいく二人を見ながらアウローラは内心頭を抱えていた。

 (か、勝手に話を進めないでぇぇぇ…!!)

 「そ、その…一発は、流石に言い過ぎじゃ、ない、ですかねぇ……」

 冷や汗ダラダラで目をちょろちょろと動かすアウローラにルーカスは意味ありげに目を細めた。

 「頼りにしてるよ、アウリ」

 (な、なんで、そうなるのぉぉぉ!?)

 アウローラはすっかり意気消沈で石のようになってしまった。

 「おいおい、本当に大丈夫かよ……」

 呆れながら馬を操る男とクスクスと笑っている剣士、そして消し炭のようになっている天才魔法使いは半刻後、アスルタ村の入り口に着いた。



 綺麗な花畑が入り口付近一帯に咲いており、色鮮やかな小鳥達が蜜を吸いに来ていて、幻想的な風景。なのに人っこ一人見当たらない。

 「やっぱウォータードラゴンの影響ですよ。最近はめっきりこの村を通る旅人も減っちまったらしく」

 「ならば早く討伐しなければいけないね。そういえば、なんでアウローラはこの依頼を引き受けたんだい?」

 急に話題を振られたアウローラはびくりと肩を震わせる。手をゴニョゴニョさせながら消えいるような声を発する。

 「そ、そのぉ…… い、一回、昔……ウォータードラゴン、倒したこと、あり、ます…」

 「「え?」」

 「あ、だ、だいぶ前ですが……」

 アウローラは確かに一年前、ウォータードラゴンを倒していた。だがそれも当時の仲間と協力したおかげだったと自己肯定感の低いアウローラは常に思っている。実際のところ、仲間はすぐにウォータードラゴンの尻尾に捕まり、水中に引き摺り込まれそうになっており、アウローラが1人で倒してしまったのだ。けど恐怖でその後すぐに失神してしまったという情けない有様でもあった。

 まだアウローラのことを信じてない男は怪訝そうにジロジロとアウローラを見ていた。

 「…まぁ、倒してくれるならなんだっていいですよ」

 「ご心配なく、僕と彼女で完璧に討伐しますから」

 「ならいいが。ほら、あそこがアシーミ湖だ。デカいだろ」

 いつのまにか目的地まで着いていたのだ。男が指差した方向には、大きな湖があった。本来なら澄んでいてとても綺麗な湖なのだろう。

 だがウォータードラゴンが住み着いているせいで水はドロっと緑に濁って見える。

 「確かに、ドラゴンはいるようだね。案内ありがとう」

 「俺は怖いから離れたところから応援だけするぜ」

 男は少し高台になっている丘まで行ってしまった。

 「そ、それじゃあ…… 行きましょう、か……」

 「ああ。頼りにしてるよ」

 「は、はいぃ……」

 ヘナヘナとした情けない声を出すアウローラは杖を握りしめ、ルーカスの後をちょこちょことついていく。

 ルーカスが湖の中に足を踏み込んだ瞬間、一瞬静まり返る。そして、

   


   ザァァァァ……

 


 周りの木々がざわめきだした。そして湖の水がポコポコと音を立て出す。

 「く、くる……!!離れてくださいっ!!」

 アウローラの叫びを聞いたルーカスは咄嗟に後方に飛び退いた。次の瞬間、湖の中から巨大な青い鱗を纏った、捻れた2本の角を持つ魔獣が現れた。ウォータードラゴンだ。

 ドラゴンは蜂蜜色の瞳を爛々と光らせて二人を見た。その瞬間、アウローラが前に飛び出し、ルーカスとドラゴンの間に入った。

 「!!……っ」

 アウローラは結界を張り、ドラゴンが口から放った水の砲弾を防ぐ。なんとか持ち堪えた。

 ルーカスは腰に刺していた剣を抜き、剣士特有のその高い身体能力と視力を活かし、巧みに攻撃を捌いていく。だがウォータードラゴンも容赦ない。ルーカスめがけて放たれる水の砲弾をアウローラは三つ同時に結界を即座に張り、防いでいく。

 さっきからウォータードラゴンの動きや体勢を観察していたアウローラは目を細めた。

 「…ルーカスさん。私が今から、ウォータードラゴンの首を狙います。だから…」

 「僕はコイツを引きつければいいんだね?」

 「……(コクリ)」

 (流石ルーカスさん…こちらの言いたいことを汲み取ってくれる)

 ルーカスは地面を蹴り、一気にドラゴンとの距離を詰める。それに対応するが如く、ドラゴンは硬い尻尾をルーカスめがけて振る。それをルーカスは次々と剣でいなしていく。その剣捌きはルーカスが並大抵の剣士ではないことを告げる。



 「ありがとうございます、ルーカスさん」



 ハッとしてルーカスは空を見上げる。曇り空には、黒いワンピースの裾を風に靡かせ、黄金色の杖を胸元で握っている少女がいた。

 〈飛行魔法〉。魔力が多ければ多いほど宙に浮いていられる時間が多い魔法。だが魔力の消費量が多く、コントロールが難しく、常人の魔術師なら飛べて三分が限界。精神を集中させるため、飛びながら他の魔法を使うことはほぼ不可能。だがアウローラは10分以上飛び続けることができ、同時に複数の魔法を行使することが可能なのだ。


 「…風向き、地理条件良し…対象は一つ」


 白色の光を帯びた魔法陣が出現する。そしてアウローラが杖をバッとウォータードラゴンに杖先を向けた。次の瞬間、魔法陣から三つの煌めく氷塊が現れ、ビュンッとドラゴンのいる根本の水面に勢いよく打ち付けられる。

 通常なら20語近く詠唱が必要な高等魔法をアウローラは難なく詠唱無しで放つ。

 バキッバキッと湖面はみるみるうちに凍りついていき、ドラゴンを湖面に固定する。ドラゴンは身動きが取れなくなり、もがいている。

 「な、なんだありゃあ……す、すっげぇ…」

 アウローラの放つ魔法に思わず呆然と見惚れている男の声が丘の上から聞こえた。

 空にいるアウローラにようやく気づいたドラゴンはその口をアウローラのいる方向に向けた。そして水の砲弾を放とうとしだす。ルーカスはそれに気づき、急いでアウローラに向かって叫ぶ。

 「まずいっ!!離れろ!アウローラ!!」

 

 だが、その時にはアウローラはすでに準備ができていた。

二つ目の魔法陣をアウローラは同時に出現させていたのだ。

 一本の細い雷の矢が黄色に輝いている魔法陣から現れ、放たれる。その矢はドラゴンが攻撃を放つよりも早く、一瞬でドラゴンの首を貫いた。



 ギャアァァァァァ!!!!



凄まじい叫び声をドラゴンは轟かせた。そして最後の悪あがきのように再び水の砲弾を放とうとした。だがアウローラの魔法を撃つ速度は早すぎた。三つ目の魔法を瞬時に発動させたのだ。鋭い風の刃が容赦なくドラゴンの首を刎ねた。

 首は落ち、ボチャンと湖の中に沈んだ。途端ドラゴンの身体は灰のようにボロボロと崩れだした。ドラゴンが死んだのだ。

 アウローラはゆっくりと地面に降り立った。ルーカスはすぐに駆けつける。

 「アウローラ!!すごかったよ、今の!」

 興奮が収まらない様子のルーカスとは別に、アウローラはフラリと倒れた。咄嗟にルーカスがその身体を受け止める。

 「もう…限界、です……」

 魔力切れ。二つずつ魔法を同時行使する、ということを連発して行ったため、アウローラの魔力はすっからかん。

 「うぅ……頭、痛い……」

 こてん、とルーカスの胸に身体を預け、寝てしまったアウローラを見てポカンとしていたルーカスは微笑むと、頭を撫でた。

 「お疲れ様」

 そして同時に思う。この少女の凄さと恐ろしさを。恐ろしいほどにいくつもの魔法を同時に使いこなすというまさに魔法の真髄を見せ、冷静に正確に敵を葬るこの少女はいつか世界に関わるような何かを成し遂げるのではないか、と。

 ルーカスはすぐにその思念を振り払った。僕は何を怖がっているんだ、彼女は大切なパートナーなのに、と。

 今一度アウローラを見る。スヤスヤと無防備に寝ているアウローラに思わずルーカスはクスッと笑ってしまった。

 「さて、これからどうするかな」と。





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※以下は作中に出てきた魔法を少し解説。

 アウローラが無詠唱なので魔法が全然読者

 の方々に分からないと思うので、載せます。




〈ピルムグラキエス〉

アウローラが作中で放った氷の魔法。

氷を弾丸のように飛ばし、水のあるところでは水に接しているものを凍らせ固定することが可能な高等魔法。



〈アルクスフルメン〉

アウローラが作中で放った雷の魔法。

雷を矢のように飛ばし、命中したところから対象が生き物なら感電させることが可能な初等魔法。

 ただし、魔法の同時行使が可能なアウローラはこの魔法を独自にアレンジさせ、雷の矢5個分を一つに凝縮させているため、雷の密度がとても高い高等魔法レベルになっている。



〈ラミナウェントゥス〉

アウローラが作中で放った風の魔法。

風を鋭い刃物のように変形させて攻撃できる初等魔法。

 魔術師が最もよく使う攻撃魔法の一つ。魔獣などを攻撃する時によく使用される。アウローラのような魔法に長けている者だと、より鋭く強力な刃を作ることができる。

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天才魔法使いと剣士の夜明けへの旅 ~杖と剣の、果てしない旅路~ 檸檬日和 @Lemon_hi

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