天才魔法使いと剣士の夜明けへの旅 ~杖と剣の、果てしない旅路~

檸檬日和

プロローグ 噂、そして身だしなみは大事

剣士養成機関の学園の一つ、〈シュヴァリエ〉。シュヴァリエは広大なエルテリア大陸にある大きな国の一つ、アルス王国の王都にあり、世界中に点在している剣士養成機関の中でも最も大きい。剣士を目指す者なら誰でも憧れる場所なのだ。シュヴァリエは大体が貴族出身の子女ばかりで、平民はよっぽどの実力がなければ縁が無い。

 そのシュヴァリエの広い学生食堂にいくつもの規則正しく並ぶ長椅子の一角に腰を下ろし、椅子と同じくらい長い机に木製のトレーを置き、銀の皿に乗せられているふわふわの出来たてオムライスを銀のスプーンですくっている青年がいた。平民出身の青年、ルーカス・ルミニウスは食べながら静かに耳をそばだてていた。ルーカスは剣士を目指してこの学園に一般剣士学園から途中編入した特例生である。剣の腕も成績も、もちろん申し分ない。

 近くには2人の青年がいて、校章付きのマントの色から下級生だとわかる。

 2人の青年はなるべく声を抑えているが興奮が隠しきれていないのがバレバレだ。


「なぁ、聞いたか?すっげぇ天才が現れたん だとさ!」

「聞いた聞いた。アレだろ?ほら、あの魔術師養成機関の⋯⋯⋯⋯」


キーンコーンカーンコーン


そこで次の授業開始まであと15分を知らせる鐘が鳴った。

 2人の青年は焦った様子で、「やべっ!」「そろそろ行かねぇと!ケイン先生遅刻したら怖ぇんだよ……」と慌てながら食堂から出ていった。

 オムライスを食べていたルーカスも立ち上がる。無論次の授業があるから。

 ルーカスは、もっと聞きたかったな、と少し残念に思いながら食べ終わった食器とトレーを片付け、食堂を出た。

 長い磨かれた廊下を歩きながらルーカスは考える。試験のこと、卒業後のこと、そして先程の噂のこと⋯⋯⋯

(まぁ考えていてもキリがないか、)

 ルーカスは今からある王国史の授業に頭を切り替えた。そして角を曲がり、重厚な扉の前で止まる。金の取手に手をかけ、開けようとした瞬間だった。


「やばい、やばい、やばい!!!遅刻、遅刻、遅刻っ!!」

と騒がしい声が廊下に響いた。

 ルーカスが振り返ると、そこには栗色の短いくしゃりとした髪の青年がダッシュでこちらに向かってきていた。

 

「大丈夫だよ、ウィル。まだ授業開始まであと5分あるから。それより、メイシー先生は遅刻よりも君の身だしなみが良くないことを怒ると思うよ?」

とルーカスは愉快そうに言う。

 青年、ウィルバート・コリンズは自分の格好を見て青ざめた。全力で走ってきたせいで制服はヨレヨレ、ボタンは何個か外れている。おまけに顔は紅潮、息切れが激しい、髪は乱れている。

 どこからどう見ても、身だしなみに厳格な王国史教授メイシー・アンミットに怒られるのが目に見えるスタイル。

 「ど、どーしよ、、、やべぇよ、、」

ウィルバートはもう絶望しきった顔をしている。

 ウィルバートは今月だけでもう二回もアンミットから説教を食らっている。次説教になったら実家へ報告すると言われているのだ。

 前にルーカスはウィルバート自身から聞いたのだが、ウィルバートの父親は風体を気にする人物らしく、何か少しでも息子のウィルバートがやらかせば最悪三日飯抜きの刑なのだそう。

 ルーカスは少し不憫に思い、ウィルバートの制服を整えてあげた。

「でも遅刻しなかったのは偉いじゃないか。前より進歩してるんじゃない?」

と言うとウィルバートは萎んだ風船のような声で「それ、フォローになってねぇよ、、」

と言った。

 その時だった。


「何してるんですか?二人とも」


と凜とした声が真後ろからした。

 ウィルバートはギギギ、と首を回す。その顔はもう真っ青。

 そこに立ってたのは例のメイシー・アンミット。白髪混じりの黒髪をきっちりと高い位置でまとめており、背筋はしゃんと伸び、鋭い目つきでルーカス達を見ている。

 「あ、アンミット先生……ごきげんいかがですかぁ………」

となんとも間抜けな挨拶をウィルバートはかました。

 「ええ、ごきげんようウィルバート・コリンズ。随分と元気ですねぇ、その乱れた服、髪。後で職員室まで来なさい。来なければどうなるか分かっていますよね?さぁ二人とも早く中にお入りなさい。授業が始まります」

 そう言うとアンミットは扉を開け、さっさと教室に入ってしまった。

 ウィルバートは泣きそうな顔で項垂れて教室に入った。ルーカスもすぐにその後に続く。ルーカスは苦笑しながらも席についた。

 その日の王国史の授業は既に予習していたところだったのでルーカスはただノートを開き、違うことを考えていた。

 どこかぼーっとしているルーカスに気づいた隣の席のパールの耳飾りを揺らし、緩く巻いた金髪の女子生徒アニー・ローゼンウッドはヒソヒソとルーカスに話しかけてきた。

 「ちょっとルーカス、何ぼーっとしてんのよ。アンタらしくないわよ」

 「ん?ああ、、ちょっと考え事をね」

 「考え事って?」

 不思議そうにしているアニーを見て、ルーカスは思う。噂好きのアニーならもしかしたら知ってるかも、あのことを、と。ルーカスは聞いてみることにした。

 「アニーはさ、知ってる?魔術師養成機関に誕生した天才のこと」

 するとアニーはどこか腑に落ちた様子でペラペラと小声で教える。

 「もちろん。最近王都はこのことでもちきりと言っても過言じゃないわ。魔術師養成機関の最高峰〈アルテミナ〉。輩出した卒業生は皆凄腕の冒険者や魔導協会の重鎮になってるのは知ってるわよね?」

 「ああ」

 「そのアルテミナに今年、天才が誕生したのよ。それも私たちと同じ二年生らしいわ。名前は……確か、なんたらフローリスだっ気がするわ」

 「なんたらフローリスって……」

 若干呆れながらルーカスがアニーを見るとアニーは眉間に皺を寄せた。

 「しょうがないでしょ。私も暇じゃないのよ。第一、剣士志望の子が魔術師についてなかなか調べないわよ。卒業してもないのに」

 「ごめんって、」

 だがルーカスは十分満足だった。剣士は卒業したら生きていくためにもよっぽど金持ちの子女でなければ大半は冒険者協会に入り、日金を稼いでいかなければならない。ルーカスのような平民出身は特にそうだ。冒険者協会に入ればすぐにパートナーとなる魔術師を見つけなけれあばならない。だからルーカスはたまに魔術師のことを聞くのが好きだった。

 (まぁ、そんな天才はそうそういないだろうけど、話は聞いておいて損はないしね)


 ルーカス・ルミニウスは「天才魔術師、なんとかフローリス」とノートの端っこに一応書き留めておいたのである。

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