序章2

さて、前提の確認が終わったところで

改めて、そんな前提の世界における”力”とは何か


まず1つ分かりやすいものからいくなら、”権力”だ

“国”という構造が存在する以上、それを統治する者がいて、統治されるものがいる

それがなければ、人がどれだけ集まろうと、国という呼称は使わないだろう

この大陸における国は、大小違いはあれど、貴族が国の政を司る

そしてどこの国においても、一部の例外を除いて貴族は世襲制だ

貴族の子供は貴族だし、貴族の孫も貴族だ

貴族と婚姻を結ぼうとする者は後を絶たないし、少しでも自分に有利な政をしてもらえるように金も溢れるほどに集まってくる

そして当然、国の政を謀るならば、自分たちに有利なように法律や制度を作ることもできる

故に、貴族には多くの特権が与えられている

“権力”がある。言い換えれば、”貴族に生まれる”。これは、この世界において明確な力の一つだ。


もう一つ分かりやすいものを挙げよう。”暴力”だ

息をするように戦争が続いており、それが一つの”産業”になっているのなら、

当然そこで活躍する人材は各所で重宝される


では、”暴力”とは何か。それは、”筋力”と”魔力”だ

ここ、アーノルド大陸は世界でも有数の鉄鉱石の産出地だ。

故に、この世界の基本戦術は、有り余る鉄で作ったフルアーマープレートの騎士が、

これまた掃いて捨てるほどの鉄で作った大剣や大槍を持って、ご丁寧にフルアーマー化された騎馬に乗って突撃する、突貫戦術だ

故に、筋力こそ力であり、暴力だ。

そしてお分かりのように、筋肉のつきやすさは生まれついた体格や骨格によって決まる

往々にして、こうした体つきは遺伝によって受け継がれるものだ

歴戦の戦士の子供は、また同様に歴戦の戦士というわけだ


次は、”魔力”だ。

この世界においては、魔力という力が存在している

目に見えず、肌で感じず、五感の全てで感じることはできないが、適切な祈りや詠唱を持って語りかければ人知を超えた力、”魔法”を授けてくれる、そんな代物だ。

これは空気のようにこの世界に存在し、呼吸や食事を通して体内に取り込むことができる

そして、人間…に限らず、生き物には全員、この体内に取り込める絶対量が決まっている

当然、沢山の魔力を体内に取り込める人間は、より大きく高度な魔法を行使できる

一群を焼き尽くす火球を生成したり、一晩で山のような土壁を生成したり、

とにかく、人間のスケールを超えた力を行使できる

そして、この魔力の許容量も基本的には遺伝によって受け継がれる

大魔法使いの子供もまた大魔法使いの素養を持つというわけだ


また、特定の属性に高い適正を持つ者には”魔力紋”と呼ばれる紋様が手の甲に現れることがある。

これを”加護”と呼び、これを持つ者は例外なく高い魔法適性を示す

これは遺伝ではなく突然現れるギフテッドであるが、魔力の素養に優れたものに現れやすい、と言われている



最後の一つ、これは少しともすればトリッキーな力

それは”財力”だ

“産業”が存在する以上、そこにはビジネスが存在し、金が介在する。

そして、ご存知のように、金があれば、基本的にはなんでもできる

貴族に賄賂を送り自身の産業を優遇してもらうこともできるし、

奴隷制があるこの世界では人を買うこともできる

また、優れた血統の家系には自身の遺伝子を”売る”習慣もある

そうして、貴族の遠縁となったり、優れた遺伝子を自らの家系に取り入れることができれば

その子供たちは”財力”と併せて他の力も手に入れることができる

単純な力のでは前者2つには叶うべくもないが、使い方によっては、”権力”も”暴力”も

その両方を掌握することができる

どれだけ”権力”や”暴力”を持とうと、国庫が無ければ政は立ちいかないし、褒章が無ければ”暴力”に意味がなくなってしまう

そして、少しでもビジネスを齧ったことのある人間なら分かるだろうが、固定化された産業構造においては、金を持つ者はさらに金を生み出し、金を持たぬものは一層金を絞られる

大商人の息子はまた大商人という訳だ


さて、話が少し長くなった

つまるところ、何が言いたいかというと、

どれだけ力が欲しいと願ったところで、生まれた時点で力を持つかどうかは決まっていて

力の無いものがどれだけ欲したところで、力は手に入らない

この世界は、そういうルールでできていると、そういうわけだ

故に、その慟哭に意味は無く、その葛藤に価値は無い

持つ者はもつし、持たない者はもたない

だから、今こうして”権力”について説く目の前の講義は僕にとって何の意味もなく、

早く自分の部屋に戻って読みかけの本を読みたいとしか思えずに

こうして退屈つぶしに思考実験に意識を向けているというわけだ


今の自分が願うことがあるならば、一刻も早くこの退屈な時間が終わりを迎えてくれることだろう、と皮肉っぽく笑ってみるのだった。

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