一般人、英雄パーティに入る 〜Lv1の俺が、鉄パイプと『一般常識』で世界のバグを殴り直す〜

一般人

第1話 英雄パーティに入るバカがいるか

【プロローグ】

 この世界には『英雄』と呼ばれる存在がいる。

 かつて世界を滅ぼしかけた魔神を封印し、世界を救う選ばれし者たちだ。


 王都の子供たちは、現最強パーティ『暁の五英雄(オーロラ・ファイブ)』に憧れ、こう夢見る。

「いつか僕も英雄になるんだ!」と。


 ――だが、王都から遥か彼方。

 人族が住む『中央大陸セントラリア』の西の果て。

 地図の端っこすぎて、もはや裏紙レベルの辺境『マッサラ村』。


 ここで今、世界の運命を(悪い意味で)左右する、とんでもないパーティが爆誕しようとしていた。


     ◇


 マッサラ村のボロ神殿で、俺――【レイ】の運命が決まろうとしていた。


「……レ、レイ様のジョブは……【一般人】、です」


 神官が困惑しきった声で告げた瞬間、神殿内が水を打ったように静まり返った。


 この世界には3つのジョブ区分がある。

 村人などの『非戦闘ジョブ』。

 冒険者などの『戦闘ジョブ』。

 そして、魔神を倒せる唯一の存在――伝説の『英雄ジョブ』だ。


 俺の幼馴染4人は、全員がその【英雄ジョブ】という、歴史的快挙を叩き出した。

 剣聖、大賢者、弓聖、聖女。

 まさに人類の希望。


 そして最後、リーダー格の俺が引いた結果が――これだ。

「……一般人? なんだそれ、新しい隠しジョブか?」

 カイル(剣聖)が、不思議そうに俺のステータスプレートを覗き込む。


【 ジョブ:一般人(非戦闘ジョブ) 】

【 Lv:1 】

【 スキル:一般常識 】


「……ぷっ」

 誰かが吹き出した。

「一般人だってよ!」

「ただの村人以下じゃねーか!」

「スキル『一般常識』ってなんだよ! 『挨拶』でもすんのか? ギャハハ!」


 村人たちの爆笑がドッと沸く。


 俺は顔を真っ赤にして、神官に詰め寄った。

「お、おい! これは何かの間違いだろ!? 俺だってこいつらと一緒に修行してきたんだぞ!」


「い、いえ……水晶は絶対です。貴方様の体からは、英雄特有の『輝き(魔素)』が一切感じられません。完全に、普通の、どうしようもないほど……凡人です」


 嘘だろ。

 俺の人生、ここで詰みかよ。


「ガハハ! 気にするなレイ! 一般人でも、魔物を倒せばレベルは上がるんだろ?」

 カイルが俺の背中をバシッと叩く。

 ドゴォッ!!


 衝撃が突き抜け、俺のHPが一撃で3割消し飛んだ。

「ぐはっ!? てめぇ……手加減しろカイル!!」

「おっとすまねぇ! 剣聖になってから、どうも力の加減がわからなくてよぉ!」


 こいつ、カイルは【剣聖】。

 だが、最強の力を得た代償なのか、最近こいつは「痛覚」と「手加減」が欠落し始めている。

 ルナも、シリウスも、リリィもだ。

 強すぎる力は、人間としての「器」を壊す。

 こいつらはもう、英雄というより「災害」の予備軍だ。

(こんな奴らと一緒に旅に出たら、魔神を倒す前に、俺の命(ストレス)がマッハで尽きる……!)


 俺は決断した。

 逃げよう。英雄の物語になんて付き合ってられない。


「……というわけで、みんな。俺は村に残る。じゃあな!」

 俺は神殿の出口へ走り出した。

 その時だった。

 ズズズズズ……ッ!

 地面が揺れ、村の入り口の柵が吹き飛んだ。

「グルルルゥゥ……ッ!」

 現れたのは、真っ赤な皮膚に剛毛を生やした巨獣。


 【レッド・ベア】。中級冒険者でも逃げ出すレベルの魔物だ!


「ひ、ひぃぃぃ! 魔物だぁぁ!!」

「なんで村の中に!?」

 パニックになる村人たち。

 だが、英雄たちは違った。目の色が変わる。

「おっ、ちょうどいい試し斬りの相手だ! いくぞオラァ!」

 カイルが抜剣し、民家ごとなぎ払おうとする。

「ん…邪魔。燃やす」

 ルナが村の中心で極大魔法の詠唱を始める。


「僕の計算では、あの逃げ遅れた村人の盾に矢を反射させれば、熊の急所に当たります」

 シリウスが逃げ惑う婆ちゃんに弓を向ける。

「あーん、熊さん元気すぎ! 一度足をへし折ってから回復させて、弱らせましょう♡」


 リリィが熊の足元にトゲの罠を生成しようとする。

 待て待て待て!!

 お前らが戦ったら村が消滅するし、婆ちゃんが死ぬ!!


「くそっ、止めるしかねえ! ……発動! スキル【一般常識】!!」


 俺は祈るような気持ちで、謎のスキルを念じた。

 カッ!!

 俺の体から、なんとも言えない地味〜なベージュ色の光が放たれた。

「みんな聞けぇぇぇ!! 熊が出たら、危ないから逃げるんだぁぁぁ!!」

 スキル補正が乗った大声が響き渡る。


 一瞬、村人全員が真顔になった。

「当たり前だろぉぉぉッ!!!」


「そんなこと言われなくても逃げてるわッ!!」

「MP使って言うことかボケェェ!!」

 村人たちから怒涛の総ツッコミが入る。


 そりゃそうだ! 誰だってそうする!


 だが――英雄たちは違った。

「はっ……!? そうか、危ないのか!?」

 カイルがハッとして剣を止めた。

「……逃げる? 燃やすんじゃなくて?」

 ルナが詠唱を中断して首をかしげる。

(き、効いてる……!? こいつら、『危ないから逃げる』という発想すらなかったのか!?)


 俺はさらに叫んだ。

 スキル全開! 常識の力を見せてやる!

「シリウス! 人に矢を向けちゃいけませーん!!」

「な、なるほど……! 人道的な観点が計算から漏れていたとは!」

 シリウスが婆ちゃんから狙いを外した。


「リリィ! 生き物をオモチャにしちゃダメだろ!! 倒すなら一撃で楽にしてやれ!!」

「ちっ……つまんないの。わかったわよ!」

 リリィが生成しかけた拷問器具を消した。

「カイル、ルナ! 村の中で暴れると、みんなの家が壊れちゃうぞぉぉ!!」


「知ってるわボケェェ!!」

「当たり前のことドヤ顔で言うな!!」

 村人Bが石を投げてきた。うるせぇ、こっちも必死なんだよ!

「ん……家が壊れると、みんな困るの? じゃあ、やめる」

 ルナの手から火が消えた。

「な、なんだってー!? 修理代……それは盲点だった!」

 カイルが冷や汗を流して踏みとどまる。

 ……なんというスキルだ。


 一般人には「ウザい正論」だが、常識がバグっているこいつらには「神の啓示」としてインストールされるらしい。


「よし! 周りに被害を出さずに、一撃で首だけ狙え!」

「「「「了解!!」」」」

 4人が同時に動く。

 速い。


 シリウスの矢が熊の目を射抜き、動きを止める。

 その隙にリリィが身体能力強化(バフ)をかけ、ルナが熊の足元だけを凍らせて固定する。


 最後はカイル。

 ザシュッ――!!!

 一撃。


 たった一撃で、巨大な熊の首が宙を舞った。

 余波も被害もなく、完璧な制御で。


「す、すげぇ……」

 俺は腰を抜かしそうになった。これが英雄の力か。

 その瞬間、倒れた熊の死体から、キラキラとした光の粒子――『経験値(魔素)』が溢れ出した。

 光はカイルたちの身体へと吸い込まれていく。

「おおっ! レベルが上がったぞ! 力が漲ってくる!」

「私も。レベル2になった」

 これがレベルアップ。


 俺も慌てて、溢れる光の中に身を置いた。

 俺のスキル【一般常識】がアシストしたんだ、経験値が入る権利はあるはずだ!

(来い……! レベル2になれば、俺だって……!)

 ……。

 …………。

 スーーッ。

 光の粒子は、まるで汚いものを避けるかのように、俺の身体を綺麗に迂回して後ろのリリィへ流れていった。


「……あれ?」

 俺はプレートを確認する。

【 Lv:1 】

 微動だにしていない。

 

「おかしいな。立ち位置が悪かったか?」

 俺は一歩横にずれてみたが、光は俺を避けるようにカーブを描いた。


 なんだこれ。

(……ああ、そうか!)

 俺はポンと手を打った。

(今回は俺、後ろで叫んでただけだからな。直接攻撃してないし、パーティの『貢献度判定』で経験値が入らなかったんだろ)


 納得だ。


 冒険者の間でもよくある話だ。トドメを刺すか、ダメージを与えないと力は増えないらしい。


 まさか自分の体が、「経験値(魔素)を一切受け付けない特異体質」だなんて、この時の俺は知る由もなかったのだ。


「よし! 熊も倒したし、出発だ!」

 カイルが血振るいをして、俺の方を向く。

「レイ、乗れよ」


「断る! 俺は一般人だぞ! 今の聞いたろ村人のツッコミ! 俺がいると恥ずかしいだけだ!」


「だからだよ! 俺とお前は『ニコイチ』だろ? 俺が剣で、お前が……その、なんだ、鞘(さや)だ!」

「上手いこと言った風だけど、俺の役割ただのカバーじゃねえか!」


「ん…レイいないと、困る」

 俺は背を向け、ダッシュで逃げ出した。

 「嫌だーー! 俺は残る! 常識のある人たちと平和に生きるんだぁぁぁ!!」


 しかし。

 ドガッ!!

「ぐえっ!!」

「よーし! 全員揃ったな! 出発!!」

 カイル(筋力A)に荷物のように放り込まれ、馬車が動き出す。


 遠ざかるマッサラ村。

 遠ざかる俺の人権。

 俺は、ズキズキと痛む頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こした。

(……くそ。

 俺が一般人なら、

 こいつらを“止める役”は、

 最初から俺しかいなかったじゃないか)


 さっきの戦闘でわかった。

 こいつらは放っておけば、魔神を倒す前に村や街を「うっかり」滅ぼす。

 俺のスキル【一般常識】。


 これはネタスキルじゃない。神様がくれた、「猛獣使いの鞭(ブレーキ)」だ。


 それに、今はレベル1だが、旅をしながら俺も戦えばレベルは上がるはずだ。

 そうすれば、少しはこいつらの役に立てるだろう。

 俺はため息を一つ吐き、西日(逆方向)に向かって叫んでいるカイルの背中に声を浴びせた。


「おいバカ共、よく聞け!!」

 カイルたちが一斉に振り返る。

「王都は反対だ!! 地図を見る時は、北を上にするんだぁぁぁ!!」

「な、なんだってー!?」

「知らなかった……!」

 全員が驚愕している。

 ……前途は多難どころか、遭難確定。

 だがまあ、いい。


 世界を救うついでに、こいつらに「人間の常識」を叩き込んでやる。

 こんな命知らずな旅、俺以外に誰ができる?

 英雄パーティに入るバカがいるか!

 

 ……ここに一人、いるんだよなぁ。

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