エピローグ


数日後。



かつて禍々しい黒煙を上げ、周辺諸国に恐怖を振りまいていた魔王城の尖塔には、今や風にたなびく真っ白な旗が掲げられていた。



 『魔王軍』という名の巨大コンツェルンは、その日を境に正式に解散、清算されたのである。



スケルトンの骨田さんは、代行費用の支払いを終えた後(魔王からの『退職金代わりの魔力石』を充てたようだ)、念願だった辺境の温泉地へと旅立った。



「サトウさん、見てください! 温泉の効能で骨密度が上がりました!」と、嬉しそうに自撮りの魔法水晶を送ってくる彼の骨は、今や純白に輝き、悠々自適な「骨休め」を心底満喫している。



他の魔物たちも、俺が作成した『魔物専用・再就職支援プログラム(適職診断付き)』により、それぞれの特性を活かして人間界や魔界のホワイトな職場へと散っていった。



そして、毒沼のほとりにあった俺の小さなテントは、今や魔王城の建材を一部再利用した、立派な石造りのオフィスへと建て替えられていた。



玄関には最新の魔法セキュリティと、金文字で刻まれた看板――『サトウ総合コンサルティング&退職代行』が輝いている。



「サトウ! 本日の拝謁予約(アポイントメント)、十五件入ってるぞ! それと、例の勇者一行から『カジノで全財産どころか聖剣まで質に入れた。もう責任取って冒険者を辞めたい』という緊急の伝書鳩が来ておる、どうする!?」



バタバタと忙しなく動いているのは、高級なオーダーメイドの事務員用スーツを完璧に着こなした、角のある女だ。



元・魔王。現在は『サトウ退職代行サービス』の筆頭秘書兼、営業副本部長。



「勇者の件は後回しだ。あの連中は一度痛い目を見たほうがいい。それより、あっちのデスクに山積みになった契約書のチェックを。……元魔王様なら、あの程度の事務量、三十分で片付くでしょう?」



「うっ……。辞めても結局、書類仕事か……。いや、だが不思議なものだな」



彼女はそう言って、憑き物が落ちたような穏やかな表情でペンを走らせる。



「自分の欲望のために他人を縛っていた頃の書類は、石のように重かった。だが、誰かの『自由』のために振るうこのペンは、伝説の魔剣よりもずっと軽い。……サトウ、お主に拾われて正解だったよ」



彼女はもはや、恐怖を撒き散らす王ではない。責任という重圧から解放され、己の有能さを正しく他者のために使う「最高級のビジネスパートナー」だった。



俺は淹れたてのコーヒー――元魔王が火加減を完璧にコントロールして淹れた絶品の一杯――を啜りながら、窓の外に広がる、淀みのない青空を眺める。



空気は澄み、世界から「ブラックな魔力」が消えつつある。



「さて、次の依頼人は……」



オフィスの重厚な扉が、遠慮がちに、しかし切実な音を立ててノックされた。



現れたのは、顔を隠した聖職者の衣装を纏い、神々しい後光を背負った女性――この国で最も清らかとされる、教会の聖女様だ。



彼女は隈のひどい瞳を潤ませ、震える手で『退職願』をデスクに叩きつけた。



「サトウさん……。私、もう神様に仕えるの、限界なんです……。二十四時間祈祷、食事はカスミを食えという教義、挙句に休みは数年に一度の聖誕祭だけ……。私だって、お洒落して、パンケーキが食べたいんです……!」



俺は不敵に微笑み、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。



「――承知いたしました。聖女様。あなたの『神職』という名の過酷な監獄、このサトウが、労働基準法をもって解体して差し上げましょう」



異世界の澄み渡る空に、また一人、自由を渇望する者の叫びが響く。



退職代行サトウの快進撃は、まだ始まったばかりだ。





(完)

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魔王様!勇者に倒される前に有休を消化したい〜魔王軍専門の退職代行、ホワイトな地獄へようこそ〜 空飛ぶチキンと愉快な仲間達 @sabanomisoni0730

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