クロノスリリィ外伝 『母と3人の娘たち 第一章』

猫田笑吉

第1話 『17歳の朝』

朝の光がカーテンの隙間からすべり込み、ダイニングを柔らかく照らしていた。

トーストの焼ける香ばしい匂いと、味噌汁の湯気が混ざり合い、

なんとも言えない“波川家の朝の匂い”が広がっている。


テーブルには、加奈子の几帳面さがそのまま出た朝食が並んでいた。

 ――トースト、味噌汁、サラダ、ヨーグルト。

和と洋の境界を超えた、明日香の定番メニュー。


椅子の下では、猫のサキが尻尾をふわふわ揺らしながら

「にゃあ……(パンの匂いする)」

とでも言いたげに明日香の足元にまとわりついてくる。


明日香は欠伸をしながら座り、

ちぎったトーストの端をサキに見せては、


明日香「……だーめ。これはあたしの」


と、寝起き特有のぼんやりボイスで軽く説教。

サキは「ちぇっ」みたいな顔で丸くなる。


味噌汁をひと口すすって、

明日香はようやく目が完全に覚めてきた。


加奈子「今日、放課後はどうするの?」


明日香「達也と図書室でレポートやるから、ちょっと遅くなるー」


何気ない会話。

平和な朝。

いつもの日常――


……のはずだった。


テレビのニュースが、

“近郊での老朽化建物の突然の倒壊”

“原因不明の電波障害”

そんな言葉を静かに流していた。


けれど明日香はまだ気にしない。


この時点では、

それが世界のひずみの“前兆”だなんて、

誰も思っていなかったから。


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