幼馴染が「次の試合でゴールを決めたらあの子に告白する」って言っていた(カクヨムコン11お題フェス「祝い」)

D野佐浦錠

前編 そしてシュートは放たれた

 気が気でなかった。

 ずっとどきどきしていた。サッカーの試合では、決定的な場面は突然やってくるものだ。目が離せなかった。

 わたるの足元にボールが入る。相手ディフェンダーがすぐにプレスをかけてくる。航は外に走ってから強引にクロスを上げるけど、逆サイドの山本君が追い付けるタイミングではなかった。


 私と志織しおりは、グラウンド横で固唾を呑んで試合を観ていた。

 我らが瀬尾東中学校サッカー部、秋の大会の地区一回戦だった。

 3年目でやっとレギュラーの座を勝ち取った航は燃えに燃えていた。相手は同地区のライバル校で、毎年、勝ったり負けたりの関係だ。


 「航! 頑張れー!」


 応援団と一緒に、私と志織は声を張り上げる。私は航がずっと努力してきたことを知っているし、この大会に懸ける思いはクラスでも毎日のように聞いていた。自然と、応援にも力が入る。

 試合はうちのチームが優勢だった。前半20分でスコアは0-0。でも明らかに試合をコントロールしているのはこちらの方だ。私も航の影響で少しはサッカーに詳しくなったから、わかる。


 近所の腐れ縁ってやつだ。小学生の頃から、何だかんだでずっと航と一緒にいた。航はずっとサッカー馬鹿だった。「ひなた、俺は将来サッカー選手になりたいんだ」なんて、わかりやすい夢をキラキラした目で熱く語っていた。眩しいくらいに希望に満ちたその顔を、私は今でも鮮明に思い出せる。

 

 中学に入ってからも、航とはたまに一緒に登下校したり、だべったりする仲だった。付き合ってる、なんて関係じゃない。ただの幼馴染。

 3年生になってから、私たちは志織と同じクラスになった。

 そして私も航も、すぐに志織と仲良くなった。

 志織は明るくて素直で、本当に良い子。髪がサラサラで羨ましいし、目元もぱっちりしていて男子に人気があるのも頷ける。私も、自分が男子だったらこの子に惚れそうだって思う。


 前線で山本君から斎藤君、そして航へと流れるようなパスワークが相手チームを崩していく。あっ、これは巧い……相手ディフェンスがワンテンポ遅れる形になって、ボールを持った航がペナルティエリアの内側に侵入していく。絶好の決定機だ。


 心臓が跳ねた。

 ここでゴールが決まるかどうか。

 そこには、単なる得点以上の意味があった。


 昨日――私は偶然すれ違ったサッカー部の子の会話を聞いてしまったのだ。


「航のやつ、明日の試合でゴール決めたら、2組の綾部あやべさんに告白するんだってよ」


 

 それは私のことじゃない。私の隣で一緒に応援している――志織の、のことだ。


 航が右足を振り抜く。

 ボールが鋭い軌道を描いてゴールの枠内ぎりぎりに飛んでいく。直視できない。そう思いながら、でも私はボールの行方から目を離せないでいる。次の瞬間。

 

 放たれたボールは見事に、ゴールネットを揺らしていた。

 

 一瞬の静寂の後、瀬尾東中陣営の喜びが爆発する。

 航が両手を広げ、天を仰いで吼える。「やった、航!」って志織が叫んだ。応援団も大歓声を上げる。私は志織と抱き合いながら声を上げて全身で喜びを表現した。チームメイトたちが航に駆け寄って、値千金の先制ゴールを祝福する。

 

 私は。

 私は、なんてことを――そう思った。

 志織に、周りにばれないように喜んだ振りをしながら、本当は血の気が引いていた。

 あのシュートが放たれた瞬間、私は。


「外れろ」


 って。

 そう思ってた。


 どうして――


 聞こえない。歓声も、何もかも。

 全ての音はキーンという耳鳴りに掻き消されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る