30代独身女、家を買う
桃本もも
1
自分が家を買うとは思ってもいなかった。
家を買って住んで2年目になる今でも、たまに「この家がわたしのもの?」と思ってしまうことがある。たまに信じられなくなる。
実家は持ち家の一軒家。ローンもない。高校卒業後に県外の専門学校に進学したために一度実家を出たが、就職で出戻りした。職を変えながらも実家から通える範囲というのが大前提にあったので、29歳まで実家暮らしをしていた。
昔から暮らしていた実家の住み心地は悪くなかった。築30年以上だったからすきま風はひどかったけど、それ以上に慣れ親しんだ空間には愛着があった。
ただひとつ最大の欠点があるとすれば、水害のリスクがあるということ。
実家は大きな川のそばに建っている。台風19号のときには避難したくらいの危険区域だ。そのときは対岸が決壊したが、次は我が身だと思いながらその後の夏は過ごしていた。
それ以来、この家にずっとは住めないと思うようになった。かと言って、うさぎ2匹を連れて賃貸に住むのか。いくらペット可物件だとしても、齧るのが仕事と言わんばかりのうさぎを飼うのは気が引ける。そもそも人生のほとんどを一軒家で暮らしてきたから、アパートやマンションという集合住宅暮らしをする自分が想像できない。学生時代のアパート暮らしも、別の部屋の人と会いたくなくて出かけるときは用心していたし、肩身を狭くして暮らしていた記憶がある。
そうだ、家を買っちゃえばいいんだ。
そう思い至るまでは早かった。
もちろん、新築一戸建てを買えるような収入などない。狙いは築古の中古一戸建て。毎日ネットの物件情報を見漁った。あまりにも安い物件はお化けが出そうだし、綺麗でいい物件だなと思うと新築と変わらないのではないかというほど高額だし、なかなか目星をつけられない中、そこそこの綺麗さでそこそこの値段の物件情報を発見した。それが今の自宅である。
実家と同じ築30年超えとは思えないほどの、現代風な外観。内装も洋風で統一されているし、ひそかに憧れのあった薪ストーブとロフトもある。厄介な残置物もない、広々とした庭付きの4LDK。それがわたしにも手が出せる金額だなんて。
内見してますます気に入ってしまい、わたしは購入を決めた。その安さに罠があるなんて思いもせずに……。
まず、安さの要因は立地の悪さにある。福島県のほぼ中央にあり、交通機関も集中しており、経済的にも発展している郡山市――において、忘れ去られたような田舎にその物件はあった。しかも、山沿いの地域なので夏は暑く、冬は降雪量が多い。暮らしていく上で車は必須になる。
そして、水道が通っておらず、生活用水は井戸水ということ。売主はこの建物を別荘として使用していたが、滞在時は問題なく飲用水としても利用していたらしい。
車はもともと持っているし運転は苦じゃない。井戸水だって飲用していたなら大丈夫だろう。
若さゆえなのか、気質ゆえなのか……家を買うという大きな決断だというのに「何とかなるだろう」という考えで購入を決めてしまった。
契約を終えてからの水質調査で問題が発生する。
飲用に適さない水質だという結果だった。
もともと水質が悪かったのか、長い間使われてない井戸だから汚れてしまったのか……いまだに分からないが、とにかくその水で暮らしていかないといけない。
当初は設置する予定のなかった浄水器や軟水器などをつけ、数十万円が飛んだ。
初めての冬、家の前の道が凍結して車がスリップし、段差にタイヤが落ちた。自力で脱出できなくなりJAFのお世話になり、数万円が飛んだ。
思いがけない出費……と言うか、ちゃんと前もって調べていれば予想できたものばかりだが、大きな出費が続いてしまった。
だけど、この家が嫌になったことはない。悪いところはたくさんあるけど楽しく暮らしている。
そんな独身女の一軒家一人暮らしの日常を綴っていこうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます