第一章② 坐禅の深さには限度がない

第二節 坐禅の深さには限度がない


 ここまでは、坐禅には、素人も玄人もないというお話をしてきましたが、ここからは坐禅の深さについて話していきたいと思います。 


 さて、お釈迦様も私たちも同じ人間です。坐禅は初めてする人も、長年やっている人も、坐禅をしているという点では同じです。坐禅は自分が本来の自己に深まっていくことなので、人と比べなくてもいいのです。

 比べなくてもいいのですが、村田静照むらたじょうしょう和上(和尚)※明治の念仏者が

「皆さん、はまりが浅い、はまりが浅い。」

とよく言われたように、坐禅も真剣にやらねばなりません。

 坂村真民さかむらしんみん先生※仏教詩人、「念ずれば花開く」など著書多数が言われているように、

「深さには限度がない。」

ので、どこまでも深まって行かないといけないと思っています。

 深まって行くほど、表面の浮き世の波(喜怒哀楽)に左右されなくなって行くのです。しかし、自分を振り返ってみると、私は深まり方が足らないのか、喜怒哀楽に振り回されている毎日です。けれども、仏道修行を始める前よりは、今の方が少しだけ冷静に自分や世間というものを見れるようになったかなと思っています。


 また、「般若心経はんにゃしんぎょう」冒頭に


 「観自在菩薩かんじざいぼさつ行深般若波羅蜜多時《ぎょうじんはんにゃはら 

 みったじ》・・・」

 【現代語訳】

 観自在菩薩⦅観世音菩薩の別名、観自在は仏の智慧を、観世音は仏の慈悲を表わ

 している。⦆が深く般若波羅蜜多を行ずる時・・・


とありますが、観は止観しかん禅定ぜんじょう)、(この観は見る見られるではない、座禅中はどこにも焦点を置かない。半眼といって少し視線を落とした眼、仏像の眼)、つまり、坐禅のこと、そこから自由自在に物事をし思惟しゆい観察する菩薩(仏道修行者)のことです。

 般若波羅蜜多は仏様の智慧のこと、道元禅師の修証不二しゅしょうふに(修行がそのまま悟り)の教えでは、坐禅修行がそのまま真実の姿(仏の智慧、悟り)ということになります。

 つまり、観音様(仏道修行者の代表)が深い禅定ぜんじょうに入られて、そこに仏様の智慧が現れていることを言っているのです。そこには無限の深さがありますが、これは深浅を競うものではありません。

 沢木老師は、


 「無限に深いが、非思量ひしりょう、次元が違うので普通に考える深浅ではな 

 い。従ってくらべようがない。」              

 「道元禅参究」筑摩書房


と言われています。

 AKB48が歌う「365日の紙飛行機」(作詞 秋元康)に、

 「その距離を競うより

  どう飛んだか

  どこを飛んだのか

  それが一番大切なんだ・・・」

とあるように、距離や深さや能力を競うのだけが人生ではありません。


 登山を例にとると、一日で麓から槍ヶ岳の頂上まで往復するのと、一日目は頂上直下の山小屋で泊まって、二日目の朝、頂上に登って麓まで下りてくるのと、どちらも登山に変わりはありません。

 体力、技術には雲泥の差がありますが、私が思うには一日で往復するのは、少し余裕がないように思います。山の風景や眺望を楽しみ、高山植物の花を愛で、雷鳥などとの思いがけない出会いに心躍らせたりしながら、自分の能力に応じて登山をする方がよいと思います。人によって体力や技術は違いますが、それは、そんなに気にしなくてもいいのです。

 しかし、油断して十分な準備もせず、よそ見などしていると、怪我したり、命を落とすことにもなりかねません。

 仏道修行も同じで、人それぞれ能力や個性に違いがあっても、それは気にせず、真剣に、修行生活を送りたいものです。

 ただし、みんなが作務さむ(修行の一環としての労働)をしている時に、「私は坐禅がしたいので、坐禅しています。」というのは、ただのわがままです。「個性の発揮」ではありません。みんなと同じ事をしていても、自然と個性は出てくるものです。

 道元禅師の

永平清規えいへいしんぎ(修行道場の規則と、その意義を表したもの)」には、次のようにあります。


 「動静どうじょう大衆だいしゅ一如いちにょして、死生ししょう 

 叢林そうりんを離れず、群を抜けてえき無し。」

 【現代語訳】

 日常の行動は多勢の修行僧と同じ行動をする。⦅それがそのまま真実のありよう様 

 である。⦆そして、一生、修行道場を離れてはいけない。大勢の中で、一人だけ目

 立っても、仏道においては、何の良いこともない。

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