悪徳音楽プロデューサー、世界の終わりに素人シンガーをプロデュースする

おワンコ太郎

第1話 プロローグ

 

 紺色の冬の空に、赤々とした隕石が浮かんでいた。


 大木克洋は寂れたシャッター街を歩きながら、道に転がっていた空き缶を蹴飛ばす。


 東京・吉祥寺の駅前の商店街。本来なら仕事帰りのサラリーマンや学校帰りの高校生で溢れているような時間帯だが、大木の他には人っ子一人いない。


 ポケットからライターを取り出し煙草をふかした後、大木は靴でそれを踏み潰した。弱弱しく上がった煙が、冷たい風に飲み込まれていく、その瞬間だった。


 歌が聞こえた。特徴的な、野太い声。駅の方からだ。


 大木は走り出した。得も言われぬ期待感に、心臓の鼓動の音が大きくなる。


 駅の改札の目の前の広場。そこに、高校生くらいだろうかー少女がぎこちない動きでギターを弾いていた。


 やがて、彼女は何の恥じらいもなく歌い始めた。




大抵の人はオーロラを見ずに死んでいく

サバンナのライオンを見ずに死んでいく

だからこんな世の中になったって

大してかわりゃしない 大して泣けやしない


夢は呪いだ 欲望は鎖だ

いつまでたっても真っ暗な闇に

言葉を投げて 吐いて 吐いて捨てては

僕らは笑ってた 僕らは泣いてた


さよなら さよなら

愛しき日々よ 愛しき世界よ

僕なら 私なら

いつだってここにいるよ

いつまでもここにいるよ




 歌い終わった後、少女は自分の前に立つ男の存在にようやく気が付いた。誰もいないと思いこんでいたのか、少女の大きな瞳が驚きでさらに大きく見開かれる。


「ーー大したもんだッ!」


 静寂を切り裂いた大木の声に、少女はびくっと体を震わせた。


「お世辞にも良い声だとは言えないが、お前の野太い声には華がある!いったいどんな声帯をしてるんだ⁉今までいろんなアーティストを育てて来たが、ここまでのは中々……」

 

 そう言いながら大木は少女の喉元に手を伸ばす。少女は驚いてその手を振り払い、大慌てで後ずさった後、上ずった声で叫んだ。


「何だ、セクハラか⁉パパ活女子じゃねーぞ、私は!」

「安心しろ。俺だってセクハラするなら相手は選ぶ!お前は対象外だ!」

「そういう問題じゃ……うえッ⁉」


 驚きの声を上げた後、少女が再び大げさにのけぞった。


 少女の目の前に差し出されたのは拳銃だった。状況が理解できず困惑する少女の表情を見て、大木は悪魔のような笑みを浮かべる。


「まさか自殺用に買った銃が、お前を脅す道具に使えるとは!いっそ死んでしまおうかと思っていたんだが……まさかこの時代にまだお前のような馬鹿に出会えるとは!」


 要領を得ず困惑している少女の肩を、大木はグッと掴んだ。


「俺は大木克洋だ。―お前は?」

「……青木。青木陽。」


 大木は大きく頷いた。


「残りの人生を俺に寄越せ。俺がお前を東京ドームに連れて行ってやる!」


 ―悪魔だ。悪魔に見つかってしまった。


 青木はそう思わずにはいられなかった。




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