第2話

 村人たちが給炭所に集結していた目的は、村長との交渉だった。

「列車が止まったらみんなで乗り込んで、石炭と水を積み込む替わりに学校のための金を下ろせって交渉するんだ」

「村長が断ったら?」

「オレたちも補給なんかしてやらねぇ」

 勇ましくそう言った男たちに、ロカテリアは頭痛をこらえるように額に手を当てた。

「金を積むために駅を全部封鎖するほど用心深いんだよ? 今回はここで補給せずに行くとは考えないのかい」

 言われて初めて気づいたのだろう。一斉に青ざめた村人たちだったが、ひとりが奮い立ったように声をあげた。

「そ、それだけじゃないぞ。要求を聞かないなら、この先の線路に丸太を置いて列車を止めてやる!」

「納会に間に合わなければ、献金だってできっこないだろ」

 金なんかいつだって受け取るだろうよとロカテリアは思ったものの、あえて聞き流した。

 そんなことより、もっと重要なことを尋ねなくてはいけない。

 

 新しいタバコに火をつけて、肺の奥まで深く煙を吸い込んでから問いを投げかけた。

「中央の町では、線路を塞いだら五年は投獄される。このへんではもっとお優しいのかい?」

 村人たちが押し黙ったところを見れば、そんなことはないらしい。

 

「牢暮らしなんか怖くねぇ、オレたちもう何年も前からポルトンに首を絞められながら働いてるようなもんなんだ」

「そうよ毎年税ばかり上がって、肥料も買えない。土地はどんどん痩せるばかりなのよ」

「でも子どもたちには少しでも学をつけてやりたくて貯めてたお金だったんだ……許せない」

 最後のセリフを言ったのが、先ほどの若い夫婦だったので、ロカテリアは口の端をひくつかせた。

「まさか、子どもがいるんじゃなかろうね?」

「いるよ。きっと家で薄い粥を三人で分け合ってる、哀れな兄弟たちだ」

 そうかいと言いながらロカテリアは立ち上がる。

 勘の良い者だけが背中に悪寒を感じた。


「他に家に子どもを置いてきているのは誰だい?」

 ロカテリアの猫なで声にまんまと数人が挙手すると、中指の中節骨を立てた本気のゲンコツが夫の頭を抉った。

「イッ……」

 痛いと最後まで言えないほど痛いゲンコツに悶絶している夫の横で、妻の頭にも容赦なく張り手が見舞われる。

「何するのよ!」

 果敢にも言い返した女に、ロカテリアも怒鳴り返す。

「あんたたちこそ、一等先に守るべき子どもを放置して何をしてるんだい!」

 親たちは一斉に息を呑み、老人は気まずそうに目をそらした。

「税が高い土地が痩せてる学が無い。そんな村ならなおのこと、親の居ない子は生き延びられない。そんなことも分からないほど阿呆ぞろいかい」

 突きつけられた正論に、女たちは泣き崩れる。

「じゃあどうしろって言うの。もう、この村じゃ、ポルトンの元じゃ暮らしていけないよ……」 

 

 ロカテリアは再び、待合のベンチで足を組んだ。

「そのポルトンとかいう村長のどこが嫌いか、話してごらんよ」

「さっきから言っておるじゃろう、収量に見合わない増税と……」

 一番年嵩としかさらしい老人が言いかけたのを、ロカテリアは遮った。

「そうじゃない、もっと個人的に嫌いなところさ」


 「例えば見た目はどうだい?」と、指名された若い男は、しばらく考え込んでから答えた。

「みんなボロ着てるのに、自分だけ流行のスーツを着てて腹が立つ」

「いいねぇ、そういうのだよ! あんたはどうだい?」

 ロカテリアが隣に振ると、女はすぐに答えた。

「でもあのツルツルした生地の黄色いスーツ、腹が出すぎてボタンがはちきれそうだし、全然似合ってない」

 次に指名されたおばちゃんは、おどおどと声を震わせながら答えた。

「あのモミアゲから髭がつながって、ぐるっと一周囲んでるような顔がどうしても受け付けないんだよ」

 わかるわかると賛同の声で溢れる。


「他には?」

 組んだ足にヒジをのせ、さらに顎を乗せたロカテリアがたきつけると、我先にと手が挙がった。

「俺たちを屋敷に呼んで、わざわざ見せつけて飯を食うのが最低」

「ギトギトの肉を手づかみで食べて、その指を私の服でぬぐうんだ。最低でしょ」

 村長の悪口大会の最後を、ロカテリアがパンと手拍子で締めた。

「よし、これでアタシもそのポルトンがだいぶ嫌いになったよ」

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