第3話 不穏な知らせが届きました。

僕が結婚して間もない頃

西国から、不穏な知らせが届いた。


一五六五年。

中国地方の大名、毛利義輝、謀反により討死。


最後は、寄せ手の兵が畳を盾に四方から迫り、

逃げ場を失い、同時に突きかかり死亡した。


(……畳って、防具になるんだな)


戦国の現実は、

いつだって想像の斜め上を行く。


後を継いだのは

毛利元就。


言わずと知れた、

【三本の矢】の当主。

一本の矢は折れる。

三本束ねれば、折れぬ。


団結、結束、裏切りを許さぬ思想。

これは美談ではない。

冷酷なまでに合理的な組織論だ。


しかも、この教えは

一五五七年の「三子教訓状」にまとめられ、

後の世では重要文化財。


(ああ……これ、絶対に厄介な相手だ)


事実、

秀吉ですら何度も叩き返され、

最後は兵糧攻めで、年単位の消耗戦。


正面からやれば、泥沼。

時間をかければ、信長様が痺れを切らす。


なら。


「三年で、終わらせる」


口に出してみると、

我ながら物騒だ。


計画は単純にして、えげつない。


まず

尼子家を救う。


次に

宇喜多家を引き剥がす。


毛利の両翼を、もぎ取る。


尼子家は出雲の国。

今の島根県あたり。


放っておけば、

確実に毛利に呑まれる。


(歴史では、滅びる側だ)


一五六〇年、名将・尼子晴久はすでに死去。

当主は尼子義久。

最後の当主だ。


滅亡の原因も、分かりやすい。


追放した有能な家臣が、

毛利に寝返った。


(会社で言えば、

 優秀な部下をクビにしたら、

 競合に行って、

 自社を潰された感じか)


……あるあるすぎる。


尼子家、

内政改革、必須。


ただ問題は――

外様の僕が、受け入れられるかどうか。


人は基本、

「余所者」を嫌う。


(今の気分は、

 買収された会社に送り込まれる

 派遣役員そのものだな……)


待遇は最悪。

陰口、嫌がらせ、足の引っ張り合い。


(……使えない奴だったら、

 暗殺してしまおうか……)


そこで、僕はハッとした。


(コラ!

 最近、思考が物騒すぎる!)


人を殺しすぎたせいか、

感覚がズレてきている。


反省。


現実に戻ろう。


大友家はすでに毛利に滅ぼされた。

尼子家は、

織田と毛利が直接ぶつからないための

最後の防波堤。


ここが崩れれば、

中国地方は、毛利一色。


僕は、

重たい気分のまま、

援軍とともに出雲を目指した。


馬上、考え込んでいると


隣から、いつもの声。


「殿……

 何か、家庭内で

 うまくいっておられないのですか?」


「明智くん、

 どうしてそうなるの?」


「いえ、最近、

 人を暗殺する算段より、

 ため息の方が多いように見えましたので」


(観察力が怖い。)


「違うよ。

 今度の敵が、

 ちょっと“賢すぎる”だけ」


「毛利元就、でございますね」


即答。


「三本の矢。

 結束を最優先する、 実に厄介なお方」


「そう。 だから――」


僕は、前を見据えた。


「折るんじゃない。

 一本ずつ、抜く」


明智君は、

静かに笑った。


「相変わらず、 殿は怖いお方だ」


(それ、褒め言葉だよね?)


こうして僕の対・毛利元就、三年で滅亡計画が、

静かに動き出した。

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