第7話 スキル「ラーメン屋」のヒーロー

前回のあらすじ

冒険者ランクFランクへの昇格をし、初心者の仲間入りを果たした麺汰。そんな彼はEランククエストであるゴブリン討伐を受注した。ゴブリン退治に向かった麺汰が見たのは血を流す少女。彼の体はとっさに動いてしまった。


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「湯切り!」


ゴブリンの頭部に向けて渾身の湯切りを放つ。平ザルが凄まじいスピードでゴブリンに衝突する。


俺はとっさに感じる。やったか……!手ごたえはあった。


しかしEランククエストのモンスターはそんなに甘くない。ゴブリンの首の筋肉が隆起し、何事もなかったかのように平ザルが止まる。


「ぎしゃああああああ!!!!」

自分の楽しみを邪魔されたことが癇に障ったのか、ゴブリンは激高。


「ぎしゃあ!!」

丸太のような太さの腕で殴り掛かってくる。


俺はとっさに装備を変更する。寸胴の蓋で受けにかかる……が

「おおおおっ…」

一発受けただけで3mは吹き飛ばされた。地面には自分の靴の跡。防御せずに食らえば、間違いなく重症だ。加えて寸胴の蓋を持っている手が震える。衝撃を吸収した影響で麻痺しているようだ。


「これはまずいな……。」

直感で悟る。今の俺では勝てない。まず有効打となりうる攻撃が無いこと。防御もいつまでもできるとは限らないこと。勝ちの可能性は0であり、負けの可能性は時間が経つにつれ増大する。


つまり、どうにかして少女を逃がして、自分も逃げるのがこちら側の勝利条件。


「私のことは置いて逃げて!足が動かないの!」

少女が俺の事を見て叫ぶ。足には殴打の跡。恐らく骨折していて動かないということだろう。


少女を逃がして逃亡が勝利条件ではあるが、少女は自分では逃げられない。勝利条件を満たすには俺がこのゴブリンに勝つ、もしくは俺が少女を背負い逃げ切る必要がある。


逃げながら必死に叫ぶ。

「スキルボード!」


俺があいつに勝つには残っているスキルポイント4ポイントを振るしかない。威力を増大させ有効打を増やすには「筋力」の項目に振ればいい。その場合少女を連れて逃げ切るという選択肢はない。「体力」の項目に振る場合、有効打は無いため少女を連れて逃げ切る方向性になる。

「どうする……。」


冷や汗が止まらない。選択をミスすれば自分も少女も死ぬ。


そうこうしている間にゴブリンは迫っていた。相手の方がスピードとスタミナがありそうだ。迎え撃つしかない。俺はとっさに「筋力」に4ポイントを振る。


「ぎしゃあああ!!!!」

「おらああああ!湯切り!!」

ゴブリンの渾身のパンチと俺の渾身の湯切りがぶつかる。相打ち。俺の手は痺れ、ゴブリンの手からは網目が食い込んだからか、多少の出血。


しかし俺は劣勢だった。湯切りは片手でできるユニークスキルだが、ゴブリンはパンチ。両手で殴り掛かることができる。何とかさばいていたが、ついに追いつかなくなる。


「ぎしゃああああ!!」

ごぎっ。嫌な音が体からなる。俺は空中を放物線を描いて飛んだ。


ドサッ。ああ、痛い。口の中は血の味しかしない。異世界生活ハードすぎるだろ。そんな目で見るなよ。


少女は初対面の俺を泣きながら見ている。


ださいな、俺。ヒーロームーブしてもこれか。結局スキル「ラーメン屋」で女の子を助けるなんて出しゃばりすぎたんだ。ただ、後悔はない。


ゴブリンがニヤニヤしながらゆっくりと歩いてくる。

「ぎしゃしゃ!ぎしゃしゃ!」


ウォン!条件達成によりユニークスキルが開放されました。また、特殊条件により道具が開放されました。

条件1、道具「平ザル」を装備していること

条件2、「湯切り」を1000回以上していること

条件3、「湯切り」でモンスターを討伐していること

条件4、「筋力」にスキルポイントを5以上振っていること

条件5、誰かにとって『ヒーロー』であること


ユニークスキル「製麺」、道具「麺切包丁」


俺はなんとか立つ。俺はあの子のヒーローだ。ヒーローなら最後まであがいてこそヒーローだろ。


装備品を麺切包丁に変更。


嘲りながら俺に殴りかかるゴブリンに対し、俺は

「製麺!」

体が勝手に動く。ゴブリンのパンチをよけ、俺はゴブリンを殴る。ひたすら殴る。まるでものすごく強く生地をこねているかのように。

顎にパンチが入ると、ゴブリンは失神した。しかし俺の体は止まらない。麺切包丁でゴブリンを切る。


首に一撃が入り、ゴブリンは絶命した。


しかし、俺も恐らく肋骨が折れているであろう状態で動き回ったからか体が悲鳴をあげる。血が口からでる。呼吸が苦しい。肺に骨刺さっちゃったかな……?俺は少女を守ることができた達成感と、患部の熱を感じながら意識を手放した。



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筆者から

ヒーローとは誰かの救世主であること。それは命の恩人でもいい、人生を変えてくれた人でもいい、考え方を変えてくれた人でもいい。あなたがいるだけで少しでも幸せであると感じている人がいるのでれば、あなたはその人のヒーローなのだと私は思う。





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