第5話 硝子の涙を凍らせて

    桜蘂さくらしべ降る君はまたたきをする



 「政伊まさいさん、髪にちり

 ん?

 「ついてますよ」


 ふりむくと

 笠原かさい無我むがが立っていた。


 すこぶる、美しく並んだ歯を光らせて



 「笠原さん」


 「はい、笠原無我です。覚えてくださいましたか」


 この女は、ボクを馬鹿にしているのか


 まったくにもって

 不愉快


 にじに似ているのをいいことに

 もてあそぶつもりだろうか


 いや

 無我は虹のことは知らない

 

 はず。


 「桜蘂じゃん」

 と言うと、


 陶器みたいな

 虹みたいな、顔をゆがませて


 何? みたいな表情かおをする


 だから、

 「ちりじゃなくて、サクラシベ」


 無我は、透けて内側の血管が見えそうな

 唇をわずかに突き出して


 「ふうん」と言った。


 ため息のような、ふうん。


 そして、

 まぶしそうに瞬きをした。


 桜蘂を

 人差し指と親指で

 つまんで

 くるくると回してみる。


 くるくるくるるりりるるるれる


 桜蘂は

 まるで生きていたころに

 戻ったようだ


 無我は、

 「政伊さんって、面白いですね」

 そう言って

 不躾ぶしつけわらった。



    あのときの硝子がらすの涙凍らせて



 瓶詰めにした

 屍体したい


 いくつもいくつも重ねて


 ボクは

 悲しくなかった


 ただ

 ほんの少しだけ


 懐かしかったの

 だろうと思う。



 硝子性がらすせいの涙は決して

 蒸発したり

 しない

 よ






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蜃気楼を吐く怪物 宝や。なんしい @tururun

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