蜃気楼を吐く怪物

宝や。なんしい

第1話 落ち椿

白椿しろつばきが、ごとり。


墜ちた


それは、あの日のキミと同じだと思った



   落ち椿

   生きているやうな

   顔をして



肌は限りなく透明で


薄くて

やわらかくて

あたたかくて


そのむくろは、

清廉潔白せいれんけっぱく


あの日、ボクが殺した。


悲鳴みたいな小さな振動が

まだ

指先にのこっている


ボクはね


あの日から

ボクは海の底で


蜃気楼しんきろうく怪物になったんだ。



真っ暗な闇の中で


みにく

とてもみにく



「まだ生きてるみたい」


振り向くと、にじがいた。


椿つばき。まだ生きてるみたいなのに、もう死んでるんですね」


虹は虹じゃない声でそう言った。


「誰?」

「あ、私。笠原無我かさはらむがと申します。今日こちらに配属になったんです。よろしくお願いします」


無我はれしく

政伊瑞知まさいみづちさんですよね。美人でかっこいい方なので仲良くなれたら嬉しいなと思って、ずっとしゃべる機会をうかがってたんですよ」


虹みたいな顔の無我は、虹とは違うしゃべり方をした。


「私、お昼休みもう終わりなんで戻りますね。またあとで」

そう言って駆け出したと思ったら、不意に振り向いて手を振った。


椿に触れると

しっとり冷たい。


ボクはそれを手のひらで、しっかり握り潰した。


内臓がごろごろ鳴り

血液が染み出してくる


よみがえるな

よみがえるな


お願いだから甦らないで。


知っている

それはきっと、ボクが心の奥で望んでいること


でもそれは、


破滅でしかないことも

ボクは知っている。


    どこにもゆけぬはまぐりせた夢



「死んでる、っていうのとはちょっと違うけどね」


粉々に砕けた白椿からは、

青い匂いがたちのぼっていた。







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