不勉強に緩む心
サンダルウッド
「児戯に等しき意思疎通」
「お休みの日はなにされてるんですか?」
長きにわたる沈黙――せいぜい一分か二分ほどと思われるが、今の私には果てしなく長く感じられる――に耐えかね、紋切り型の質問をする。プロフィール文に記載がなかったことは確認済みだ。
平日の午前なので、『スリーゼ』は
アルカディア市ヶ谷の中にあるカフェラウンジで、幼い頃から母に連れられてよく訪れた店だ。開放的で清潔感のある室内は客層も比較的落ち着いており、たとえ混雑していても居心地を損なうことはない。特に今の時期は窓ガラス越しに
「あー……仕事忙しくてなんもしてないですねぇ」
「あっ、そうなんですね……お仕事お疲れ様です」
半笑いに近い微笑を湛えて返し、ブレンドコーヒーをひと口すすった。
これまでのファーストコンタクトは、ほとんどがこちらからの申し込みを承諾してくれた女性との対面だったが、今回は珍しく相手側からの申し込みであった。顔写真が私好みだったこともあり二つ返事で承諾した。
過去に相手側からの申し込みでファーストコンタクトに至ったのは一件のみで、ひと回りも年上の女性(名は
晶子の場合は、毎月の申し込み可能件数(最大十件)が余っていたので適当に件数を消費しにきたと推察できるも、今回の美佳については同い年であったためか、対面前から妙に親近感を覚えていた。外見的に食指が動いたこともあり、私は昨日の日勤で利用者の食事介助や入浴介助をしながらも、今日の美佳との対面について思い巡らせていた。
「えっと……美佳さんは読書がお好きなんですよね。最近はなにか本読まれましたか?」
プロフィールの趣味の欄には、読書や映画鑑賞といったありふれた字面しかなかったので、会話を膨らませるのもひと苦労だ。スーツの下のワイシャツがいっそう汗ばんできた。
「だから、仕事忙しいから読んでないですって」
今度は彼女のほうが半笑いになる。
質問をした直後、しまったと思った。仕事で多忙なら、読書のいとまがないことぐらい察せよう。囲碁に例えるなら、相手側から利き筋がありそれにより切断が成功しない局面にも関わらず、利き筋を失念して愚直に切ってしまったようなものである。かといって、より適切な形で話の
「あっ、そうでした。すみません」
私の謝罪など
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