幼馴染は遅すぎる恋をする
@ichigo1110
第1章 忘れてしまった約束
その夢を見るたび、胸の奥が少しだけ痛んだ。
内容はいつもい曖昧だ。はっきりした映像はほとんどなく、残っているのは夕方の空の色と、握られた指の感触だけ。声も、顔も、言葉さえも思い出せない。それなのに目が覚めたあと、なぜか心がざわつく。
長野広斗は、そういう夢を「意味のない記憶ののこりかす」だと片付けていた。
人は誰だって、覚えてない記憶の一つや二つはある。そういうものだ。特別な意味なんてない。
ー---そう、思っていた。
♦
幼稚園の園庭は、今思えばやけに広かった。
砂場の砂はいつも靴の中に入り込み、ブランコは誰かが必ず順番を守らず乗っていた。先生の声は遠く、世界は自分の身長に合わせて作られていた。
その中に、一人の女の子がいた。
名前は、思い出せない。
ただ、よく一緒にいたことだけは覚えている、おままごとも、鬼ごっこも、絵本を読む時間も、なぜか気づけば隣にいた。
「ねえひろとくん」
小さな声で、そう呼ばれたきがする。
その声が誰のものだったのか、今の広斗にはわからない。
夕方園庭に長い影が伸びる時間、帰り支度を終えた子供たち次々と親のもとへ向かっていく中で、二人だけが取り残されていた。
「おおきくなったらさ」
女の子はなぜか真剣な顔をしていた。
「大きくなったら....一緒になろうね。」
それがどういう意味なのか、当時の広斗にはわからなかった。ただ、相手が少し不安そうにしていることだけは伝わってきた
だから、うなずいた。
「うん。いいよ」
その瞬間女の子はぱっと笑った。
その笑顔だけが、なぜか今でも断片として残っている。
♦
その約束のあと、何があったのか。
それを、広斗はほとんど覚えていない。
しばらくして、引っ越しをした。段ボールに囲まれてた家、知らない街、知らない幼稚園。新しい環境になれることに精いっぱいで、過去の記憶は自然と薄れていった。
小学校に上がり、中学校に進むころには、幼稚園時代の出来事を話題にすることもなくなった、
代わりに増えたのは、ゲームとアニメだった。
画面の向こうの世界はわかりやすい。選択肢を選べば結果が帰ってくるし、好感度は数値で示される。努力宇すれば、必ず報われる。
現実の人間関係よりよほど親切だった。
「三次元はめんどくさい」
誰に聞かせるでもなく、そう思うようになったのはいつからだろう。
女子と特別には泣くこともなく、成績で開けは無駄によかった。先生からの評価は高く、クラスでは目立たない優等生。
それだけで十分だった。
過去に何かを約束した気がするなんて、考える必要はなかった。
♦
高校受験を終えた春。
制服に袖を通した広斗は、少しだけ大人になった気がしていた。
「高校生活、か...」
期待よりも不安の方が大きい。でもどうせ、三年間は、勉強とゲームで終わる。そう思っていた、
まさかその高校で、忘れていた何かと再び向き合うことになるなんて、紺の時は知る由もなかった。
入学式の日、天井を見上げながら、広斗はぼんやりと考えていた。
あの夢はもう見なくなくなるのだろうか。
夕焼けの色も、指の感触も、きっとそのうち完全に消えていく。
そう持った直後、胸の奥が、わずかに痛んだ。
理由はわからない。ただ、何か大切なものをずっと見落としている気がした。
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